第16話 想いを口にする練習?
「それで、相談としては香澄お義姉ちゃんがお兄ちゃんと釣り合うために何をするかってことですか?」
「そうだよぉ」
「うーん、お義姉ちゃんの協力をしたいのは山々なんだけど、釣り合うってのが何を指すのか難しいなぁ」
優香ちゃんがそう言って顎に手を当てて悩む。
「容姿でいえば、お兄ちゃんも香澄お義姉ちゃんも身内の贔屓目なしに美男美女だと思うので釣り合ってるし、性格とかも長年ずっと一緒にいるけど仲良い、というか好き合ってるから釣り合ってると思いますよ?」
「そ、それはそれで嬉しいんだけど……」
優香ちゃんが言う身内っていうのは、もうすでに私も含まれてるようね。
まあそれも嬉しいんだけど、私も優香ちゃんは本当の妹のように思ってるから。
「勉強も別に兄が天才すぎるだけで香澄お義姉ちゃんも頭良いし、運動に関しては……まあ置いておくとして」
「……うん、運動はごめんなさい、私も諦めてる」
「あはは、前の体育の授業は面白かったなぁ。動画撮って記録に残したかったくらい」
「ぜ、絶対にやめてね!?」
前の体育の授業というのが、どの失態なのかはもう身に覚えがありすぎてわからないけど、運動に関しては本当に恥ずかしい失敗しかやってない。
「バスケの授業で香澄が打ったボールがリングに当たって弾かれて、そのまま香澄の顔面に吸い込まれるように当たったのは、さすがに笑ったなぁ」
「あ、あれ、鼻血が出るくらい痛かったんだから!」
「ふふっ、それ込みで面白かったよ」
「奈央先輩、それを言うなら私も香澄お義姉ちゃんの運動バカエピソードはいっぱい持ってますよ! なんて言ったって、小学生からの付き合いですから!」
「おっ、どっちが多く持ってるか勝負する?」
「いざ、尋常に!」
「やめなさい!」
本当にこの二人は……!
放っておいたら、私の恥ずかしい話をずっとしてそうだ。
「話を戻すけど、優香ちゃんもやっぱり思いつかないかな? その……私と誠也が釣り合うために、しないといけないことというか……」
「自分で言いながら照れる香澄お義姉ちゃんが可愛い」
「も、もう! 揶揄わないで!」
私がそう言うと、優香ちゃんはもう一度顎に手を置いて考え始め……。
「あっ! ありましたよ! まだ香澄お義姉ちゃんが、お兄ちゃんと釣り合うためにしないといけないことが!」
「えっ、本当?」
「はい! それは……!」
優香ちゃんは私に向かって指を一本立てて、無駄に溜めてから言い放つ。
「想いの言葉です!」
「はっ……?」
想いの、言葉? 何を言ってるのだろう?
「香澄お義姉ちゃんは、お兄ちゃんが好きなのに全然それを言葉に出しません! 行動には出てるのに」
「いや、だってそれは……待って、行動に出てる? 嘘でしょ?」
「嘘じゃないです! だけどお兄ちゃんにはそれじゃ伝わりません! 他の人にはわかりますけど」
「ちょっと待って、ねえ、本当に行動に出てるの? 私、その、なるべく隠してるつもりなんだけど」
「だから出てますって。ねえ、奈央先輩」
「出てるねぇ。『誠也大好き! 私から離れないで! 私をもっと好きになって!』ってオーラがバンバン出てるよぉ」
「そ、そんなこと思ってないし、出てない! ……出てないよね?」
もうなんだか自信がなくなってきた……。
「まあそれは置いといて、まず今やるべきなのは、お兄ちゃんと同じくらい想いを言葉にすることです!」
置いとくには重大なこと過ぎたんだけど……まあもういいか。
「誠也くらい、想いを言葉にする?」
「はい! お兄ちゃんは香澄お義姉ちゃんが好きってことを、もう言葉にも行動にも存分に表してますよね」
「うん、そうね」
小学一年生の頃から、それは全く変わってない。むしろ表現の仕方が激しくなってるくらいだ。
「だから、香澄お義姉ちゃんもお兄ちゃんくらい……は無理かもしれないけど、あれくらい想いを言葉にするんです!」
「なるほど……」
誠也みたいに、自分が想ってることを言葉に……って!
「いやいや! 無理でしょ!?」
そ、そんな恥ずかしいこと、出来るわけがない……!
「だけどそのくらいやらないと、お兄ちゃんと釣り合えませんよ!」
「うっ……!」
確かに誠也と釣り合うために出来ることなんて、もうそれくらいしかないのかもしれない……。
だけど誠也くらい好きな気持ちを言葉にするのなんて、無理すぎる。
「まあいきなりお兄ちゃんみたいなバカ正直に伝えるのは無理だと思いますけど」
「う、うん、それは無理……」
「だから練習しましょう!」
「練習?」
「私をお兄ちゃんだと思って、言ってみましょう!」
「えぇ!?」
「あはは、楽しそうだねぇ」
奈央が他人事なのでニヤニヤと笑っていながら、飲み物をストローで飲んでいる。
「ほら、香澄お義姉ちゃん! まずはいつもお兄ちゃんが言ってる『香澄ちゃん可愛い!』を真似して、『誠也、カッコいいよ』って言ってください!」
「優香ちゃん、無駄に私の声真似上手くない?」
「ほら、話逸らさないで!」
「くっ……」
いや、本当に声真似が上手いとは思ったんだけど、見透かされてしまった。
優香ちゃんの顔を見ると、優香ちゃんのことを言うわけじゃないのにすごい顔がキラキラして楽しみにしている。
これは言わないと逃れられないやつだ。
「ふぅ……」
私は一度目を瞑り、深呼吸をして言う覚悟を決める。
別に誠也に直接言うわけじゃない、ただ練習として言うだけだ。
それに……いつも思ってることを口に出すだけ、何も難しくはない、はず。
よし……!
「せ、誠也……」
「え、あっ、お義姉ちゃん、待っ――」
「いつも、カッコいいって思ってるよ」
しっかりと言うことが出来た、うん、よかった。
だけど優香ちゃんはなぜか慌てたような顔をしていて、私の後ろを見ている。
隣にいる奈央は笑っているが、何か気まずそうに目を逸らしていた。
「か、香澄ちゃん……?」
後ろから、声をかけられる。
その声を聞いた瞬間、後ろに誰がいるのかわかった。
顔が赤くなるのを自覚しながら振り向くと……そこにはとても驚いた様子の誠也がいた。
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