第3話 幼馴染の様子が…


 ――そして、翌日。


 起きてからもずっと香澄ちゃんについて考えているが、やはり何も思いつかない。

 身支度をして家を出て、学校へと向かう。


 今日は一緒に登校する約束をしてないから、多分香澄ちゃんはいない……ってあれ?


「香澄ちゃん?」

「……おはよう」


 今日はいないと思っていたが、いつもの待ち合わせ場所に香澄ちゃんは立っていた。


「おはよう、香澄ちゃん。珍しいね、待ち合わせしてないのに」

「……待ち合わせしてなかったら、一緒に行っちゃダメなの?」

「えっ? あ、いや、そんなことはないけど」


 香澄ちゃんからまさかそんな可愛らしいことを言われるとは思わなかった。


 ドキッとした俺だが、香澄ちゃんも恥ずかしかったのか照れ隠しをするように、学校へ歩き始めた。

 隣に並んで歩き始めたのだが……なんだか、いつもより距離が近い気がする。


 いや、気がするじゃないな、確実に近い。

 なぜなら香澄ちゃんが、俺の腕に体を寄せて抱き着いてきたから。


「え、えっ? 香澄ちゃん?」

「っ……な、なに?」


 いきなりのことで俺も驚いたが、香澄ちゃんもとても恥ずかしそうに顔を赤らめている。


「な、なんで抱き着いてるの?」

「……せ、誠也は、嫌なの? 私に、抱き着かれるのが」

「そんなわけない。めちゃくちゃ嬉しいけど……」

「それならいいじゃない」


 すごく嬉しいんだけど、なんでいきなりこんな甘えるように抱き着いてきたのかが気になる。

 昨日の夜に会った時から、香澄ちゃんの様子が何か変わった気がする。


 何があってこうなったのか気になるけど、今はそれどころじゃない。

 小学一年生の頃からずっと好きだった女の子にこんなにくっつかれて、ちょっと、だいぶ心臓が破裂しそうになっている。


 隣を見るとすぐに香澄ちゃんの顔があるのだが、めちゃくちゃ可愛い。


 まつ毛長いし綺麗だし、同じ制服のはずなのにすごい良い匂いするし。

 手を繋いだことも子供の頃に数える程度しかないのに、いきなりそれを超えてこられると嬉しさと緊張が相まってあまり反応が出来ない。


 いつもは登校中も普通に喋っているのだが、今日は俺も香澄ちゃんもずっと喋らずに歩いている。


 ずっと俺の腕に抱き着きながら歩いていた香澄ちゃんだが、学校の近くに来るとさすがに体を離して歩く。


 ……だけど手は繋いだままだ。

 体をくっつけられるよりは平静を保てるけど、手を繋ぐのもとても緊張する。


 めちゃくちゃ柔らかくてちっちゃくて……なんで香澄ちゃんは全てが可愛いのか。


 だけど、本当に今日はどうしたんだろうか。

 学校に着いてようやく手を離してくれた香澄ちゃんに聞いてみる。


「香澄ちゃん、本当にどうしたの? 昨日の夜からだけど、何かあった?」

「……だって誠也が、言ってくれないから」

「えっ?」

「な、なんでもない。誠也、今日はお昼一緒に食べれる?」

「えっ、うん、もちろん」

「じゃあ、昼休みに」


 香澄ちゃんはそれだけ言って、自分のクラスへと行ってしまった。

 本当に今日はどうしたんだろう?


 俺が言ってくれないから、ってどういうことだ?



 授業中も香澄ちゃんのことを考えていたけど、答えは出ずに昼休みになった。

 俺はいつも通りすぐに香澄ちゃんのクラスに行こうとしたら……。


「誠也」


 俺が行く前に、香澄ちゃんの方から俺のクラスに来てくれた。


「中庭のベンチに行くわよ」

「えっ、あ、うん」


 ビックリして固まっていた俺だけど、そう言われて香澄ちゃんの後についていく。

 学校の中庭のベンチに一緒に座ったのだが、やはり近い。


 普通に肩と肩が当たっている。


「今日、私が自分でお弁当作ってきたの」

「そうなんだ。香澄ちゃん、料理も上手いからすごいよね」

「……少し食べる?」

「いいの?」

「うん。じゃあ、あーん」

「……えっ?」


 香澄ちゃんが作ったという卵焼きを、俺にあーんを仕掛けてきた。

 こ、これは、食べていいのか? いや、食べないといけないだろう。


「あ、あーん」


 俺は大きく口を開けて、卵焼きを一口で食べる。


「どう?」

「お、美味しいです」

「ふふっ、なんで敬語なの?」


 そう言って笑う香澄ちゃん、とても可愛い。

 いや、そんなことよりも、香澄ちゃんはなんでこんなことをしてくれるのだろう。


「香澄ちゃん、本当にどうしたの?」


 俺がもう一度、改めてそう問いかける。

 すると香澄ちゃんは少し気まずそうに視線を下に向けた。


「だって……誠也が、昨日は言ってくれなかったから」

「朝も言ってたけど、俺が何を言わなかったの?」

「それは……!」


 香澄ちゃんは顔を真っ赤にして言いづらそうにしている。

 なんだろ、俺が何を言ってなかったんだ?


 昨日……そう思うと、何か昨日は習慣的にしていたことをしていない感じの、もやもやした感じがあった気がする。


 なんだろう……毎日していること……あっ!


「もしかして、告白のこと!?」

「っ!」


 俺がそう言うと、香澄ちゃんは顔を真っ赤にしながらも小さく頷いてくれた。

 そうか、昨日俺は香澄ちゃんに告白、プロポーズをしていなかった。


 出会った頃から毎日していたから、昨日はなんだかモヤモヤしていたんだ。


「もしかして、香澄ちゃんはプロポーズされたかったの?」

「なっ!?」


 今日の香澄ちゃんの様子を見るに、俺にプロポーズされなくてモヤモヤしていたようだ。

 俺の言葉に香澄ちゃんはまた顔を真っ赤にしながら目を見開く。


「そ、それは、だって……! 今まで毎日プロポーズされてきたのが当たり前だったし、誠也が昨日はクラスの人達と楽しく遊んで私のことを忘れてたみたいだし、しかも私と同じクラスじゃなくてもいいみたいなことを言ってたのもあれだし……!」


 耳まで真っ赤になりながら香澄ちゃんは早口で言い訳をする。

 初めて見る香澄ちゃんで、とても可愛らしい。


 これだけ長く一緒にいても知らないことがある、そしてそんなところもさらに好きになってしまう。


「香澄ちゃん」

「っ、な、なに?」


 俺が香澄ちゃんを呼ぶと、香澄ちゃんは言い訳をやめて俺の目をまっすぐと見つめてくれる。

 俺がプロポーズしなかっただけでここまで香澄ちゃんも動揺してくれるということは……今日こそ、あるかもしれない。


「香澄ちゃん、結婚しよう」

「むり」

「がはぁ!?」


 フラれた。

 いつも通り、即答で。


 今回こそいけると思っていたから、なおさらダメージがでかい。


 俺はベンチから崩れ落ちてしまった。


「な、なんでだ……!」


 俺が思わず小さくそう呟くと、ベンチに座っている香澄ちゃんが口を開いた。



「――だってまだ……誠也が、結婚できる歳じゃないじゃん」



「えっ? 香澄ちゃん、何か言った?」


 ベンチから崩れ落ちたタイミングだったので、しっかり聞き取れなかった。

 俺が聞き返すと、香澄ちゃんは頬を赤らめていたずらっぽく笑う。


「なんでもない。誠也のばーか」


 その笑顔を見て、やっぱり俺は香澄ちゃんが好きだと改めて思った。




「――ってことがあってな。やっぱり香澄ちゃんと改めて結婚したいなと思ったよ」

「そっかぁ」

(香澄お義姉ちゃん、そこまでやったんだ……えっ、なんで付き合ってないの? なんで結婚してないの?)

「早く結婚すればいいのに、バカップルが」

「ん? 優香、なんか言ったか?」

「なんでもなーい」


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