【完結】妹の代わりに女子校に入学することになりました
美原風香
第1話 入学します
副校長先生のツルツル頭が講堂の照明に照らされて眩しく光る。
静まり返った中、入学式の開会宣言をするために壇上に登った副校長先生を見ながら俺——
なんでこんなに緊張してるかだって?
こ、高校の入学式なんてみ、みんな緊張するものだろ! お、俺だけじゃない、は、はず、だ……あ、やばい、吐きそう……
緊張している人を探そうと周りを見回してさらに緊張が強くなるという悪循環。
さて、ここまででお分かりの人も多いだろう、俺が高校の入学式だからという理由でこんなに緊張しているわけじゃないことを。
と、ちょうど副校長先生の言葉が耳に入ってきた。
「これから第五十四回、麗翔女子高等学校の入学式を始めます」
両隣も前後も斜めも女子・女子・女子。
そう、俺——正真正銘の男子だが——は女子校に入学するのである。
なぜこんなことになったのか?
発端は一週間前に遡る。
***
「はっ!? 俺に女子校行けっていうのか!?」
俺は双子の妹——優奈の言葉に目を見開く。
「ほんとごめん! でも、どうしてもあの高校に行きたくないの!」
「なんでだよ! お前受験めっちゃ頑張ってたじゃんか!」
優奈が行く予定の高校、私立麗翔女子高等学校は県内でトップ3に入るほど頭のいい学校だ。そのため、当たり前だが優奈は中三の一年間相当努力していた。
え、俺? 俺は行けるレベルの公立高校に行くことにしたから遊んでたよ?
俺は勉強より……
ってそんなことより。
あんなに頑張ってたのにその高校に行きたくない?
優奈の急な心の変わりように俺は驚くしかない。
だが、それも次の一言で納得する。
「彩香がいるらしいから……どうしても行きたくないの」
「っ!? なるほどな」
彩香とは優奈の元彼を奪った女のことである。優奈は彩香と仲良かったしその元彼のことが本当に好きだったから、2人に裏切られたと知った時はかなり傷ついていた。
そりゃ行きたくないわけだ。
だがしかし、女子校である。男の俺がいけるわけない。
と、俺の考えを見透かしたように優奈が言う。
「優希は私にそっくりだから大丈夫だよ!」
確かに俺たちはそっくりだ。小さい時は見分けつかなかったし。
だが、今は俺の方が少し声も低いし背も高い。何より優奈はロングなのに対し俺は短髪だ。
「いやいやいや、さすがに無理があるだろ」
「ウィッグ被って胸ちょっと盛って少しメイクすれば誰もわからないよ!」
「めんどくさいな!?」
お願い、と手を合わせて言ってくる優奈。いや、まぁ、俺で力になれるなら力になりたいけど……
「バレたらやばいだろ」
「退学な上に転校も厳しいかも?」
「ほらやっぱやばいんじゃねーか!」
「でも、ほら、優希は高い声出せるしちょっと女の子な仕草身につければきっと大丈夫だと思うの……!」
必死な様子に思わず首を縦にふりかける、だが……
「父さんと母さんにはなんて言うんだよ」
「隠すしか……」
「無理」
「ですよねー」
二人で苦笑いをする。一つ屋根の下に一緒に暮らしてて隠せるわけない。
と、その時……
「話は聞かせてもらった!」
「「うわぁ!?」」
急に割り込む女性の声。振り返ると優奈にそっくりの女性が人差し指をバシッと突きつけるようなポーズをして背後に立っていた。
かっこよく登場した風を装ってるけど、いや、何やってるんですか……
「母さん」
「二人の好きにしなさい、優奈ちゃんが辛い思いをする必要はないし、二人のことなんだから二人の意思を尊重するわ」
「お母さん……!」
優奈が目を潤ませて母さんに抱きつく。はぁ……世の中色々な親がいると思うけど、俺たちは親に恵まれたと、本心から思う。
いい歳してこのノリはどうかと思うが。
「わかったよ。しょーがないな……」
「ほんと!? ありがとう優希!!」
飛び跳ねて喜ぶ優奈に苦笑しかできない。
「はぁ……まぁやるからには全力でバレないように頑張るけどさ……」
「バレた時は二人で謝ろ! ね!」
「謝って済む問題じゃないけどな……」
俺はガシガシと頭を掻く。この妹、なんか抜けてるんだよな。双子なのに全然考えてることわからん。
「ってことで、優希! 女の子の立ち居振る舞いを身につけましょう!」
「なんであんたが乗り気なんだよ!」
母さんの言葉に思わず突っ込んでしまったのだった。
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