身一つで頑張ります。

 突然ですが、この世界には魔王がいます。勇者ももちろんいます。

 突然ですが、私たちの目の前には魔王が住んでる、魔王城があります。なぜこんなところにいるかと言うと、キンさんが王様から指名依頼を受けてきたからです。


「はぁ…眠たいですねぇキンさん」

「そっすね」

「今日はお買い物に行きたい気分ですねぇキンさん」

「そっ…すねぇ」

「いやぁまさか7日連続とは、私たちは精が出ますねぇキンさん」

「ごめんだって!悪気があったわけじゃないんだよ!遊び行ったらこうなるとは思わないじゃん!」


 手を合わせて必死に頭を下げるキンさん。私は別に、何も言ってませんけどねぇ?


「はて、別に私は何も思ってませんよ?久しぶりにゆっくりしようとしたらいきなり遠い所へ行くハメになったとか、めんどくさい案件のせいで休みがなくなって嫌だなとか、思ってませんよ?」

「思ってるじゃん!目が怒ってるよ!ごめんだって!今度何か奢るから!」

「もう許してやれ。なんか見てて可哀想だ」

「あら、別になぁんにも思ってないですよ?レグさん。うふふふふふふ」

「ひぃ!」

「はぁ、休憩も終わったしそろそろ行くぞ」


 レグさんがそう言って、魔王城の方へ進みました。


「そうですね。キンさん?ちゃちゃっと終わらせましょうね!」

「うっす!!」


 今回、私達は魔王さんの話し相手として派遣されました。


 なんでも、魔王さんと王様は古くからの親友らしく、気楽に頼み事ができる間柄だとか。それで、今回の依頼は、魔王さんの雑談相手が帰省するらしく。私たちはその人の帰省が終わるまでの代わりとして呼ばれました。


「む?どなたかな?」


 門番さんが槍を持った状態でそう聞いて来た。


「私たちはワレーナ王国から依頼できました。『ユズと仲間たち』です」


「おぉ、あなた方が!」


 ふざけたパーティ名ですよね、ほんと。キンさん絶許。


「待っておりました。さぁ、中へどうぞ」


「ありがとうございます」


 歓迎だそうです。

 中に入ると執事さんっぽい人が来ました。


「おお、あなた方があの!お待ちしておりました」


 はて?そんなに喜ばれる物でしょうか?何も、大災害を止めに来たとかじゃないですし。


「ささ、着いて来てくだされ。魔王様はこちらですぞ」


 執事さんはそう言うと、綺麗な所作で、そしてウキウキで奥に進んでいきました。その後を着いて行きます。


「いやはや、本当に楽しみにしておりました。まさか、あの有名な冒険者パーティ、『ユズと仲間たち』の方々が来てくださるとは」


「そこまで喜ばれるような者じゃ無いですよ」


「謙虚だとは、いやはや、噂に違わぬものですね!」


 うーん?私たちはそんな高等な存在じゃないんですけどね。


「まとまりも協調性もないような馬鹿3人の集まりですよ?パーティ名もなんかふざけてますし。ねぇ?キンさん」


「ソッスネ」


「キンさんよ、重大なことは一度全員を通すのだぞ?」


 そうですよキンさん。ほんと、絶許。


「ははは、仲が良いですなぁ!わたくし感動しました!」


「はて?」


 感動とは?する所なかったじゃないですか?

 よくわからず小首を傾げます。


「あざといよな…」

「あれで天然だから、彼女のすごい所だ…」


「ん?どうしました?」


「なんもない☆」


 よくわからないですね、私の前後は。


 そんなこんなで、仰々しい扉の前につきました。


「この部屋が、魔王様のお部屋でございます。後ほど、メイドがお茶をお持ちいたします」


「わかりました。案内、ありがとうございます」


「わたくしはこれで失礼致します!」


 恭しく例をして、執事さんがさりました。


「では、入るとするか」


「ですね」


「失礼しまーす!」


 キンさんが扉を開くと、丸い机が一つと椅子が四つありました。そして、四つの椅子のうち一つに四十代くらいの男の人、魔王さんが座っていました。


「おぉ!来たか!座ってくれ!!」


「お久しぶりです。失礼しますね」


「来てくれて嬉しいぞ、ユズちゃん!」


 そういって、魔王さんはケーキと紅茶を虚空から出して渡してきました。


「ここ最近は忙しかったらしいな」


「はい。誰かさんのお陰で今日で7日目です」


 紅茶を飲みながら、答えます。すると、なぜかキンさんがダメージを受けました。なんでですかねぇ。


「なら、ゆっくりして行ってくれ!ユズちゃん達の部屋は掃除してあるからな!」


「ありがとうございます」


 豪快に笑いながら、魔王さんは言いました。……魔王さんの好意に免じて、バカンスと言うことで許してあげましょう。感謝して下さいね、キンさん。

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