第12話:見切り・修道院側
皇紀2217年・王歴219年・秋・某修道院
「小頭、どうも嫌な雰囲気なのですが、まだここにいる心算ですか」
ダエーワ影衆から修道院に派遣されている影衆の下っ端が、こんな所からは、さっさと逃げましょうと言う気持ちを込めて上役に話しかけた。
「諦めろ、聖堂騎士団長とはいえ、修道院から頭領に依頼された仕事だ。
死ぬと分かっていても、俺達下っ端が勝手に逃げる訳にはいかない。
それに、ここを逃げて生き延びたとしても、裏切者としてダエーワ影衆から追われる身になるのだぞ。
何とかして依頼を完遂するか、個々の連中が皆殺しになるまで生き延びるかだ」
だが上役の返してきた返事は情け容赦のないモノだった。
「小頭も敵には勝てないと思っているのですか」
「当たり前だ、ちょっと考えたらわかるだろう。
先代の崩御の時は、葬儀費用がなくて皇帝の遺体に蛆を湧かせていた皇家だぞ。
先々代が即位式を挙げられたのが皇帝になって二十一年、その苦難を知っている当代が、先代の時の道具を大切に保管し、毎年少しずつ準備していても即位式を挙げられたのは皇帝になってから十年もかかっている。
それが、即座に葬儀を執り行うことが決まっただけでなく、皇居の修築にあれほどの金と食糧を使っているのだ。
よほどの支援者が現れたに違いない。
その後援者が、修道院の悪行を見逃すはずがないだろう」
「では小頭は、その支援者が修道院を襲撃すると思っておられるのですか」
「襲撃するなんて生易しい事で済ませるはずがない。
皇帝が修道院入りさせた王女が、あのような事を目に会わせられたのが世間に広まって見ろ、皇帝や皇家の威信は地に落ちるのだぞ。
修道院にいる修行僧や聖堂騎士団員だけではすまない。
王女を嬲り者にした信徒達も、口封じに皆殺しにされる」
「小頭、それが分かっているのなら、とっとと逃げましょうよ。
皆殺しにされるのなら、依頼未達成も罰せられないかもしれません」
「何甘い事言っていやがる、愚か者。
王女が家畜以下の扱いで嬲り者にされた事は、俺達も知っているんだ。
どこに逃げても刺客が追いかけてくる」
「どんな刺客であろうと、里に帰れば近寄れませんて。
ダエーワ影衆は一地方を支配している影衆の双璧なんですから」
「愚か者が、たかだか十万人しか養えない小さな地方を、三つに分かれた派閥が陰湿に争っている弱小地方だ。
魔術や戦闘力を売って独立を保って入るが、大勢力に攻め込まれたら、負けないまでも多くの影衆が犠牲になる事になるのだぞ」
「小頭、まさか、皇家の支援者って、カンリフ騎士家なんですか。
あの宰相家や王家を首都から追い払った強者が、皇家を支援しているのですか」
「それは分からねぇ、だが、カンリフ騎士家かそれに匹敵する相手なのは確かだ。
そうじゃなければ、あれほどの手練れを、それも俺達が全く知らない影衆を、あれだけ沢山は集められない。
カンリフ騎士家が支援者だとしたら、海を渡った本拠地から呼び寄せたのだろう」
「くそ、だったら、どうやって生き延びるんですかい、小頭」
「簡単な話しだ。
修道院が襲撃を受けた時に、全力で逃げるのだ。
奴らが修道院の連中を先に殺そうとするなら、わずかなスキが生まれるだろう。
それを見逃さず、一目散に逃げだすんだ。
今のうちに逃げる準備を整えておけ」
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