「31」お手付きなし
「彼女の名前、ね……」
講義が終わった講堂に、いつまでも留まっている理由もないだろう。
俺はブツブツと考えながら校舎の中を歩いていた。
白井の名前──。
それをいったい、どう当てろというのか。
見たり聞いたりしては駄目だと言うのだから完全に当てずっぽうで正解すればいいらしい。
運否天賦のクイズらしい。
校舎内を一頻り歩くとそれなりに時間が経った。
他の学生とも何人も擦れ違ったが、別に話し掛けられる様子もない。
学部が違うのか、学年が違うのか──白井以外に知り合いらしき人に出会うことはなかった。
「何か思い付いたかしら?」
声を掛けられて振り向くと、そこに白井の姿があった。
「用事はもういいの? ……ってか、何で此処に?」
「もう済んだわ。不正がないように、貴方を監視しなければならないじゃない」
「いや、やりようがないだろう?」
「まぁ、そうかもね」
ケラケラと、白井は笑う。
「……それで、どうなの?」
白井から尋ねられたが、正直何も考えていなかった。
俺が口篭っていると、白井は呆れた顔になる。
「数撃ちゃ当たる、じゃないけれど、どんどん答えないと正解になんて行き着かないわよ。何のために誤答ペナルティーになしにしてると思っているのよ……」
──確かに!
白井の言葉で、ハッとなった。
それでようやく理解した。
これはひたすら数を当てるゲームなのだと。
「このペースでやっていたら、年単位はかかるでしょうね」
「うぅ……」
俺は困惑してしまった。
そんな俺を見て、白井は笑う。
「まぁ、ゆっくりでも私としては構わないけれど……。どうかしら? 時間があるというのなら、ご飯でも食べに行かない?」
白井が目を向けた先に食堂の看板が見えた。
もしかして白井は俺を監視しに来たのではなく、単にご飯を食べに来ただけなのでは──。
時計など一切見ていなかったが、唐突にお腹が鳴った。どうやら丁度、お昼時であったらしい。
講堂でなかなか次の講義か始まらなかったのも、そういう理由であったからのようだ。
「うん。行こうか」
断る理由などなかった。
俺が頷くと、白井も嬉しそうに食堂に向かっていった。
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