第250話・成功確率? そんなの気合いだ!!
──スターゲイザー・オタル迎賓館
アマノムラクモの改装計画が始まってから。
ミサキは頻繁にオタルに顔を出すようにしていた。
作戦開始までアマノムラクモは行動不能状態。
しかもタケミカヅチ型機動戦艦、タヂカラオ型駆逐艦も全て改装となったので、それが終わるまではミサキはやることがない。
作戦の詳細その他はオクタ・ワンとトラス・ワンが、作戦開始後のスターゲイザーについてはイスカンダルがミサキの代わりに責任者として就任することになっている。
それらの地球へ向けての説明は、サーバントを通して国連に連絡してあるため、本当に暇になっている。
「それで、その暇な私を呼び出すとは。アルバート、何かいい対策でも見つかったのかい?」
「対策……まあ、これが上手くいくかどうかは、ミサキさまの決断に関与していますが」
迎賓館の会議室で。
アルバートとミサキは二人だけで話し合いをしている。
そしてアルバートが壁のモニターに映し出された作戦内容を説明し始めると、ミサキは頭を抱えたくなっている。
「虚無を包み込む次元アンカーで構成された巨大なネット……か。あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて、これが賢人たちの持ち出した作戦とは思えない……って笑いたいんだけどなぁ」
「まあ、自分で何を話しているのか、俺たちにも理解できない部分が多すぎますけど。この作戦では、地球圏の人間では何もできそうもありません」
タケミカヅチ型機動戦艦を大量に用意し、お互いにDアンカーで固定。
さらにDアンカーによって構成された巨大なネットで虚無を包み込み、広がるのを阻止する。
実に馬鹿馬鹿しいほどのスケールであるが、端末を通して話を聞いているオクタ・ワンがどういう判断をするのか、ミサキは静かに待っていた。
「……この作戦、地球は全くと言っていいほど何もしていないよね? タケミカヅチの準備、それを配置する座標軸の弾き出し。これが地球圏の総意ってこと?」
「まあ、そもそも銀河系の消滅なんて、スケールが大きすぎて、何もできるはずがないんですよ。地球にいる人間にとっては、百年後に星が滅ぶから素直に諦めろとしかいえませんからね」
「そりゃそうだ。今から光速を超えて移動する巨大な移民船を用意することなんてできないからなぁ」
流石のミサキも、アルバートの意見には頷くしかない。
その上で、アルバートは別の図面を開いた。
「これが、地球が用意する巨大移民船です。スターゲイザーから提示された、先日地球を襲った異星人の移民船をベースに、かなりの改良を施しています。これなら、建造に二十年は掛かりますが……」
ミサキはモニター上の『地球製大型移民船』の図面を眺める。
(オクタ・ワン、これはどう考える?)
『ピッ……不可能ではない。だが、これを建造するには、資源が足りない。基礎設計は賢人機関で、それをNASAを中心とした国連宇宙部が清書した、頭でっかち科学者の希望的理論によって構成されています』
オクタ・ワンの判断では、建造は可能。
ただし、地球人全てを避難させることは不可能。
コールドスリープシステムを用いた生命維持システムなど、机上の空論を未だ越えることはできない。
だが、それを搭載しなければ、人類を救うとはできない。
「まあ、私から見た感じ。この巨大移民船については進めて構わないと思う。でも、アマノムラクモは独自で虚無対策を練っているから、移民船建造はその保険的な準備になると思って構わないからね」
「……やはり、スターゲイザーでは対策は練り終わっていますか。虚無に飛び込んで、Dアンカーで虚無の広がりを固定するとか?」
口元に笑みを浮かべながら、アルバートが呟く。
「そ。アルバート、それが正解だよ。よく理解していたね?」
「え? い、いや、今俺が話したのは、我々賢人機関が不可能と判断した作戦で……。Dネット作戦を思いついてから、応用としてこういうのもありかなぁと…」
「いやいや、アマノムラクモはそっちの作戦を開始するからさ。だから、作戦が始まったら、賢人機関は万が一のためにエクスカリバーで待機しているといいよ。計算上、エクスカリバーは作戦に同行させないから」
そう説明すると、アルバートは真面目な顔で。
「ミサキさまは、人柱になると? アマノムラクモで虚無に飛び込んで、自らを犠牲にして地球を救うと?」
「あ〜。考えすぎ。うちの遠隔コントロールシステムを舐めるなよ? お互いの作戦のことは理解できた。まあ、余力があったら、Dネット作戦も視野に入れてみるから。それと」
「ここでの話し合いは、外に漏らさない。理解してますよ」
そう。
ここはあくまでも、ミサキとアルバートがお互いの作戦についての提案をすり合わせを行う場所。
それを外に持ち出すことなど、あってはならない。
スターゲイザーが動くとなると、地球圏は油断する可能性がある。
何もかもスターゲイザーに任せてしまえという輩もいないわけではない。
そんな奴らを増長させないためにも、この場の話し合いはこれでおしまいである。
「では、地球圏は大型移民船建造計画を」
「スターゲイザーは、Dアンカーによる虚無固定作戦を」
お互いに確認したら、振り向いて部屋から出ていく。
ここから先、お互いの作戦に干渉することはない。
今はそれぞれが、やれる限りのことをするだけだから。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──スターゲイザー・アマノムラクモ艦橋
アルバートとの会談ののち。
俺はずっと艦橋に引き篭もっている。
アルバートの提案した作戦、そして俺たちの作戦。
この二つを並行して行った場合の安定度の計算。
そして算出されたデータを眺めて、決断をするべきかどうか考えている。
「……スターゲイザー、ヴァン・ティアンに勅命。俺たちが虚無を固定している間に、周辺惑星から資源を回収してタケミカヅチ型機動戦艦の建造を開始してくれ。仕様は、賢人機関の提案した作戦である『Dネット射出型』に。可能か?」
『……可能。されど、直径1.5光年を覆い尽くすネットを構築するために必要な船を建造するには、ドック船を建造したのち、銀河中心へ向かいつつ建造するしかありません』
つまり、資源不足は否めないので、目的地に向かいつつ途中で資源を回収し、建造を続けるということ。
とんでもなく壮大な作戦であるが、ぶっちゃけると亜神である俺には寿命の概念はないからなぁ。
「それで構わない。ネットを展開するタイミングで、オクタ・ワンに連絡してくれればいい。何十年、何百年経っても構わないからな」
『……拝命。スターゲイザーはどうしますか?』
「現在地点で待機。管理はヴァン・ティアンとイスカンダルで。アクシアをスターゲイザー内部に搭載してあれば、問題はないだろう?」
『……拝命』
宜しく頼む。
さて、あとは全ての艦隊の換装が終わり次第、銀河中心部へ向かって進むだけ。
やり残したことはないし、地球に挨拶する必要もないよな。
どっちかっていうと、地球圏には何も知られずに動いた方が都合がいい……って、そうか。
「オクタ・ワン、俺の魂をコピーして、眠らせてあるホムンクルス素体に移しておいてくれ。俺が虚無に向かっている間は、スターゲイザーで俺の代理を任せるから」
『ピッ……適切な判断です。ホムンクルス素体が虚無に突入した場合、恐らくはマナ分解される可能性があります。次元潮流の渦の中での長期間生存は不可能と判断』
「つまり、俺の代わりに虚無に向かわせることもできない……まあ、それは構わないわ。そっちの準備が終わったら、ホムンクルス・ミサキはすぐにスターゲイザーに配置して……表に出しておいてくれ」
『ピッ……了解です』
さて。
最後の調節。
俺としてもやることはやったし。
怖くないかと聞かれるとさ、怖いことは間違いないんだけど。
今日まで、いろんなことを経験してきたから、肝が座ってきているわ。
まあ、あとはなるようになれ。
………
……
…
半年後。
アマノムラクモをはじめとする、スターゲイザー艦隊全てが、次元潜航を開始。
地球圏およびスターゲイザーの住民に何も知られることなく、虚無空間へと移動を開始した。
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