第166話・それはまるで、砂場のお城にゴールキックするかのように
──ピッピッピッ
機動戦艦タケミカヅチの艦橋には、次々と戦局データが転送されてくる。
『A12からA25ブロックの制圧完了』
『こちら梅花、地球防衛軍のベースキャンプに到達、撤収作業を行なっていますので、そのまま制圧します』
『こちら夏侯淵。敵機動部隊接近。呂布と関羽がフォースフィールドで施設を防護、我々は迎撃に回ります』
次々と届いてくる戦局データ。
それをモニターに並べながら、ヘルムヴィーケがオクタ・ワンと共同で指示を飛ばしている。
あ、俺は格納庫でカリヴァーンのスタンバイですが。
「はぁ。本当に優秀すぎるなぁ。どんどんと戦闘データを蓄積していくし、それを共有してスキル化しているし……」
『ピッ……未確認戦闘機が接近。対応をお願いします』
「はぁ? 何処から?」
『ピッ……洋上に浮かぶ、未確認空母かと』
「いや、ちょいまち、そんなの存在するはずないじゃないか? どの国も自国の兵器の数は把握しているだろうさ。条約で取り決まりもあるから、そんな未確認なんて」
──ブゥーン、ブゥーン
格納庫にレッドアラートが光る。
いや、随分と大袈裟だなぁどの思いつつ、後部カタパルトを展開してそこに立つ。
すると、一直線に飛んでくる戦闘機が見え始めていた。
「……敵の機体コード解析‼︎」
『ピッ……所属不明機、メッサーシュミットMe163改良型ジェット機かと。搭載兵器は空対空ミサイルが二門のみです』
「はぁ? 第二次世界大戦の機体をジェット機に改造? なんだそりゃ?」
『ピッ……迎撃をお願いします‼︎』
まあ、オクタ・ワンが叫ぶのなら何かあるのだろうということで、カタパルトに出て左手を構える。
──ドシャゥゥゥゥゥゥ
それとほぼ同時に、敵機からミサイルが射出されたのだが、一瞬、寒気を覚えた‼︎
──ザワッ
「武装変更、悪魔の右手デモンズライト、カウンターモード‼︎」
飛来してきたミサイルは真っ直ぐにカリヴァーンの右腕でカウンターシュート‼︎
右手から放出された破壊の魔力がミサイルを包んだ時、ミサイルが銀色にパパパパッと輝き、分裂した‼︎
「月の槍の小型版かよ‼︎ 神の左手ゴットレフトっ」
速攻で左手に再生の魔力を纏って力一杯振りまわす。
これでバリアを発生して受け止めると、それを網のように変形させて一網打尽に捕まえる‼︎
──ゴウゥゥゥゥゥ
そのまま敵機は旋回して海上目掛けて飛んでいくが、予想よりも高速で飛んでいくじゃないか。
『ピッ……敵機データを確認。月面基地の監視者達と同じ組成のミサイルかと。なお、敵機は超硬スチール製です』
「また半端な……って、地球にもあれがあるのか? アララト山脈の母船とやらから引っ張り出したのか?」
『ピッ……現地調査員からの報告では、アララト山脈に動きはないそうです。なお、彼らの村はもぬけの殻で、村人全員がどこかに避難した可能性があります』
「……黒か? いや、グレーなのか? 判断が難しいところだな」
消滅した未来の記録では、村の人々は極めて温厚であり、積極的に戦闘を行うような民族ではない。
やはり第三者の関与が疑われるところである。
「オクタ・ワン、戦局を随時報告。手が足りないところに降りる」
『ピッ……賢人機関敷地内、中央塔の正面にお願いします。あとは現地の左慈の指示を聞いてください』
「了解だ。カリヴァーン出る‼︎」
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
それは、全く予想もしていない光景。
地球防衛軍の襲撃を受けて、もはやこれまでかと思っていたところに、まさかの援軍である。
「アルバート、システムを取り返した。すぐさま別バイパスでセーフティーシステムを構築するから、それまでの指示を頼む‼︎」
「了解だ、何分必要だ?」
「三分でいい。この程度のシステムの書き換えに10分も必要ない」
速攻で奪われたシステムを取り戻し、セキュリティの書き換えを開始するノイマン。
モニターをはじめとした監視システムはすでに取り戻し、敵である地球防衛軍の動きはすべて手にとるように見えるのだが……。
「こ、これが、スターゲイザーの本気なのか?」
モニター上では、地球防衛軍の特殊部隊が一つ、また一つと制圧されていく姿が映し出されている。
忍者装束のスターゲイザー特殊部隊、そして降下して地上で砲撃を開始した巨大な人型兵器。
地球防衛軍も何処からか集めた戦車や戦闘機で対抗するものの、それらの直撃を受けてもなお損傷することなく反撃を続けている。
「な、なあアルバート‼︎ あの金属組成、知りたいと思わないか?」
「落ち着けレオナルド‼︎ お前の気持ちはここにいる全員が思っていることだ」
「そうじゃない、そこは左舷に回り込んでからの制圧だろうが‼︎ スターゲイザーの司令官は素人か? 兵器の運用を知らないど素人か‼︎ この俺に指揮権をよこせ‼︎」
アルバートが暴走しかかったレオナルドを制している最中にも、カール・グスタフは戦闘状況を歯痒そうな面持ちで睨みつけている。
「まあまあ、良いかいカール。スターゲイザーは私たちの味方ではない。そして敵でもない。今、どうして彼らが協力してくれているのかはわからないけれど、ここは彼らの戦い方をみていようじゃないか」
「シャンポリオンか。まあ、お前がいうのなら仕方ない」
「な、なあ、アルバート。敵の捕虜、バラして良いか?」
「良い訳あるかぁぁぁ、お前ら、この極限状態で本能を剥き出しにするな‼︎」
あまりにも異様な光景に、賢人たちの興奮も冷めやらない。
そんな中、モニターの向こうでは制圧された兵士たちが捉えられ、一箇所に集められている。
『……この角度だな。私はスターゲイザー特殊部隊の
左慈。賢人機関の者たちに告げる……無駄な、いや、あれ? 張飛、ここはなんだった?』
『降伏勧告なら地球防衛軍とやらだ。賢人機関には、ええっと』
『お前ら黙って下がってろ‼︎ 私はスターゲイザー星王のミサキだ。訳あって援軍にやってきたが、これ以上の地球への干渉は望ましくないため、我々はこれで撤退する』
中央塔正面に着地したカリヴァーンが、左腕の盾を地面に突き立てて叫ぶ。
「外部音声に切り替え‼︎ 私は賢人機関代表の一人、アルバート・シュタイナーだ。今回の援助に感謝します。安全のため、建物内部からの返礼をお許しください」
アルバートがマイク片手に叫ぶと同時に、ノイマンが絶望的な顔でアルバートを見た。
「た、大変だアルバート……」
「どうした? ちょっと待っていてくれるか?」
『返礼については了承した。敵の捕虜数名はこちらで預かるが、残りはそちらで処分するように。では、失礼……する』
そう叫んでから、カリヴァーンをはじめとしたマーギア・リッター隊が上昇を開始。
引き続き降下艇がゆっくりと降りてくると、忍者部隊と捕虜を回収して上昇、そのまま何処かへと飛び去っていった。
「ふぅ。外部音声切断。それでノイマン、何があった?」
──プゥン
モニターがいくつも浮かび上がる。
日本の国会議事堂、アメリカのペンタゴン。
ロシアのクレムリンの合わせて3カ国の政治中枢が映し出されている。
そして、それら全てに、見たことのない旗が掲げられ、付近の建物が炎上していた。
「アメリカのペンタゴン、日本の国会議事堂及びその周辺地域、そしてクレムリンとその周辺地域が、地球防衛軍によって同時制圧されたらしい……」
「……はぁ? そんな馬鹿な‼︎」
「まだ中国とオーストラリアは無事だが、どこまで耐えられるのか……」
「ヨーロッパはかなりの被害が出ている。まだ制圧された国はないんだが、いったいどうやって、これだけの部隊を動かせたというのだ?」
「知るか‼︎ それよりもまだ地球防衛軍の手が伸びていない国を探し出せ、このままじゃまずい‼︎」
慌てて通信システムを稼働させ、女王陛下のいるバッキンガム宮殿への直通回線を開く。
だが、本来ならば普通に接続されるところが、全く反応がない。
地球防衛軍は、賢人機関の制圧と同時に世界の掌握を開始。
運良く主要参加国の制圧は完了したものの、まだ予断を許さない状況である。
地球防衛軍による世界同時制圧作戦が始まっていたことを、ここに来てようやく彼らは理解した。
予想よりも早く、そして予想外の戦力投入。
これだけのものがどこに隠されていたのか?
いや、どこにも隠されてはいない。
普段からそれらを運用しているものたちが、地球防衛軍として動いただけである。
各国の中枢にまで存在していた『戦士の末裔』は、今、ようやく本来の仕事を再開したのである。
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