第161話・風雲急を告げるけど
それは一発の凶弾が起こした悲劇。
世界中の人々がテレビで、パソコンで、スマホやタブレットでスターゲイザーから訪れた人々を見ている最中に起きた光景。
まさか、このタイミングでスターゲイザーの外交官が暗殺されるなど、誰も予想はしていない。
すぐさま護衛の李書文がマタ・ハリをモノリスに収納したのち、ケネディも逃げようとしたのだが、二発目の凶弾はケネディをも狙ったのである。
幸いなことに、ケネディを狙った弾は彼の側頭部を掠めてモノリスに直撃、アメリカ国民にとっては見たくなかった悲劇はまぬがれたといえよう。
それでも、その場に残された地球代表団の二人は事態を収めるべく、すぐさま待機していた海兵隊に連絡。
周辺調査及び証拠が何か残っていないか、弾丸が残っていないかなどの調査を開始した。
………
……
…
──日本
「あ〜? 何処の組織がスターゲイザーに手を出した! 誰でもいいから情報は持ってないのか?」
首相官邸では、マタ・ハリ狙撃事件の直後に緊急閣議が行われている。
声を荒げるように叫ぶ浅生総理大臣の元に、幾つもの資料が届けられてくるものの、確たる証拠は何処にもない。
ある情報筋では『ヒトラーの復活』を呟き、またあるものはスターゲイザーの資源により自分たちの利権を奪われかねない中東諸国の仕業であるとか。
他にも西側諸国がアメリカに罪を着せるためだの、賢人機関が暗躍しただのと、信憑性も何あったものじゃない。
「……私たちが入手した情報では、【ジ・アースプロテクター】が動いているという噂もありますが」
「ジ・アースプロテクト? ああ、【地球防衛軍】のことか。あれって、多国籍に渡る義勇軍だって話だよな? 地球は一つであるべきだってやつだろ?」
以前から、時折姿を見せている存在【地球防衛軍】。
表向きは反戦活動を行い、戦場に赴いては戦争反対を唱える組織である。
彼らの理念は、
【地球は一つの国家であり、その中での争いなど不毛である。資源、財産、権利、命、全てを共有し、管理する組織が必要である。それが我々、地球防衛軍である】
という実に馬鹿げたものであるものの、一部富裕層や貧困層からは絶大な支持を受けている地域も存在する。
世界各国にコネクションを持つ組織であるものの、その代表が誰であるのかは一切不明。
自分たちをコードネームで呼びあったり、表に出るときには『ジェミニ』『サジタリウス』などと、星座名で呼称しているから。
「彼らからの声明文が、国連本部に届いたそうです。『地球防衛軍は、スターゲイザーからの侵略には断固として抗議する』と。そのためには軍事テロも厭わないとまで記されているそうですが」
「……うちのメンツよりも早い情報か。まあ、それならばそれで、国連からも連絡は来るだろうさ。引き続き、情報収集を続けてくれ」
それで会議は終わる。
スターゲイザーの恩恵にあずかれるかどうか、ここが勝負のしどころであると浅生総理大臣は考える一方、この混乱期に乗じてどうにか解散総選挙まで持って行かせたい野党。
彼らにとっては、スターゲイザーの存在すら自分たちの政争の駒でしかないようで。
………
……
…
──一方、中国。
マタ・ハリの狙撃された瞬間を、欧阳オウイァン国家主席は目の当たりにし、思わず立ち上がってしまう。
「地球防衛軍が動いたのか? 奴らと連絡はつくか?」
「いえ、残念ですが彼らへの連絡手段は存在しません……以前、地球防衛軍の特使とかいう若造の話を無視し放り出してからは、我々中国も敵対国家として認識されていますので」
地球防衛軍は、中国にも基盤を作るために中国共産党にも助力を仰いだことがある。
だが、それはあっさりと拒否され、門前払いを受けていた。
それから先、地球防衛軍はなにかと中国に対して敵対意識を持っている。
「その若造の映像を引っ張り出せ。すぐさま全国に手配書を出せ、懸賞金をかけても構わん。ここまで動きが早いとは思わなかった……あの組織を放置しておくと、次は我々が狙われかねない」
「了解です」
すぐさま中国全域に手配書がまわされる。
罪状は『国家反逆罪』とし、地球防衛軍の名前は一切公表していない。
その高額すぎる懸賞金に、ここからしばらくは中国全域が、犯罪者騒動に盛り上がることとなった。
………
……
…
「……なんということだ……」
マタ・ハリの狙撃された瞬間を、パワード大統領はホワイトハウスのベランダから見ていた。
モノリスが輝きを見せると、彼は執務を途中で中断し、ベランダにでる。
許されるなら、彼自身がモノリスの前に立ち、地球の代表として握手したかった。
だが、それは世界の世論が許さない。
それ故に、パワードはベランダからモノリスを眺めるのを、密かな楽しみにしていた。
だが、あの瞬間から状況は一転。
モノリスの位置がホワイトハウス敷地内ということもあり、警備体制についての指摘が後を立たない。
海兵隊が詰めているにも関わらず、暗殺は実行された。
それも、ホワイトハウスの敷地内の要人が。
すぐさまCIAおよびSWAT、シールズが活動を開始。
どの地点から、いつ、誰が、どのように、どんな理由でなど様々な視点からの捜査が行われた。
だが、この情報国家であるアメリカでさえ、その足跡の一歩目すら掴むことができない。
一刻も早く、犯人を探し出さなくてはならないとパワードが焦りを感じ始めていた時、国連本部に【地球防衛軍】からの声明が届けられた。
「……よりにもよって、地球防衛軍を騙るテロ集団とはな……」
すぐさま大統領令により、地球防衛軍殲滅作戦が宣言される。
一刻も早く誤解を解かなくては、最悪は星間戦争にも発展しかねないから。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「それで、傷はどんな感じ?」
額に絆創膏を貼り付けたマタ・ハリが、艦橋のシートに座ってモニターを見ている。
無事に作戦は完了、マタ・ハリの様子を見に行こうとしたら、彼女が歩いてやってきたからびっくりだよ。
「まあ、頭部ユニットは生体パーツに置き換えていたものですから、見事なまでに貫通していました。やっぱりアルミじゃ貫通しますよね」
「……アルミ?」
「はい。オクタ・ワンからの命令で、頭蓋骨をアルミで再現したのですけど、アンチマテリアルライフルじゃ防ぎようがありませんね」
「……なあオクタ・ワン、マタ・ハリが壊れなかったから良かったものの、なんでアルミ?」
『ピッ……弾き返した場合、生命体であることが疑われます。ゆえに、アルミニウムによる頭蓋骨に、ドラゴンの血を詰めた袋を置きました』
生き物であるという証明をしたかったと。
それで、ドラゴンの血?
え? まじで?
どうやって手に入れたんだよ?
「ドラゴンの血って、どうやって手に入れた?」
『ピッ……献血してもらいました。2000cc程度、あの図体ではびくともしません』
「なんで献血?」
『ピッ……エリクサーの生成に必要ですから。ちゃんと代価を支払いましたし、ドラゴン達はオタルで豪遊していましたよ?』
「はぁ、それでいいなら構わないけどさ。それで次の手は?」
『ピッ……当分は様子見で。現地にいる諜報員たちからの情報を待ちたいところですが、どうにも腑に落ちません』
そりゃまたって思ったけど、うちのサーバントの諜報能力を持ってしても、地球防衛軍の全貌が掴めない。
いや、それってどうよ?
うちの技術力を上まる存在が、この地球にいるのかよ。
いたわ。
すっかり忘れていたわ、あいつら。
第三帝国よりも厄介な奴らがいたわ。
そうとわかれば、対応は若干変更だな。
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