第160話・騒然とするアマノムラクモ

 惑星スターゲイザーに突然やってきた、賢人機関の三人。


 シャンポリオン、アルバート、三船千鶴子の三人に、オタルで購入した靴を届けに来たんだけど、ただ届けるだけで終わるはずもなく、そこから話し合いなり会談なりの手筈を整えるぐらいはするのかと思ったのだが。




 あっさりと帰ってきたよ、三人とも。




「いやぁ、本当に、靴だけ届けて帰ってくるとは。なかなか予測を裏切ってくれて楽しいわ。それで、何があった?」




 彼女たちは、俺の言葉を忠実に守るだけ・・のサーバントではない。


 当然、何かしらのトラブルがあって然りだと予測したし、あったということも確信している。




──スッ


 すると、李書文が懐から何かを取り出して、俺に見せてくる。




「はぁ。NATO弾か。口径は…… 0.51だって? アンチマテリアルライフル? はぁ?」




 最大射程なら2000mを有に越える。


 これがヘカーテⅡから打ち出されたとしたら、その背後にいる黒いコートのお兄さんの方がよっぽど怖いんだが。




「角度的には上空から、賢人機関敷地外を飛んでいたマスコミ関係もしくは軍の同胞のものと思われます」


「これが命中したのか?」


「まさか。飛んできたので受け止めただけです。たかが秒速800m、加速した世界では停止しているも同じです」


「うん、やめような、その例は。どこで覚えてくるんだよ、全く。それで本当は?」




 そう問い直すと、李書文が右手を軽く上げて、手のひらを見せる。


 たしかに焦げているのだが、外皮にも傷一つついていない。


 さすがは新型皮膜のドラゴンスキン。


 脱皮した竜の皮を分けて貰ったものを、俺が錬金術で加工したんだよ。


 量がないので、最前線で動くメンツとワルキューレ、イスカンダルにしかまだ使っていない。




「焦げた程度です。自己修復不可能なので、後ほどラボに向かいます」


「宜しく。しかし、この土壇場で攻撃してくる奴らがいるとは予想外だよ。オクタ・ワン、そいつらの正体ぐらいは、判別したんだろう?」


『ピッ……不確定要素が多すぎること、こちらからの監視カメラなどが不足していたことなどを考慮してください』


「いつになく、反省モードか。まあ、正体不明の敵対組織ってところか」


『ピッ……敵は【地球軍】を名乗っています。宇宙の外敵から地球を守るための組織とか抜かしているテロリスト集団ですが、まだ実体の解明までは終わっていません』




 わかっているのかーいって突っ込みたかったんだが、まさかの情報不足。


 地球にアマノムラクモの外部組織でも作ったほうがいいのかなぁ。


 そんな奴らにいきなり攻撃されたら、たまったものじゃないわ。




「それじゃあ、ホワイトハウスや手稲のモノリスもマークされている可能性があるってことか」


「はい。ですから一度、狙撃されてみようかと思います」




 あっさりと告げるマタ・ハリ。


 まあ、そうなったら地球サイドの動きも読めるだろうし、この弾程度でどうこうなるサーバントではないからな。




「それじゃあ、敵さんには藪を突いて貰ってTレックスでも見てもらうとするか」


「誰が撃たれる役割で?」


「マタ・ハリでも李書文でも、ケネディでも構わないよ。基本的には、君たち三人が外交官扱いなんだからさ」


「ミサキさまは向かわないのですか?」


「俺が出て行って撃たれたとして、誰がうちのフルメンバーを止められる? 狙撃音が聞こえて俺が倒れた時点で、地球とスターゲイザーは開戦状態に突入だからな」




 それぐらいは想像がついている。


 それどころか、今の戦力は神竜族もいるんだからな?


 スターゲイザーごと移動して、デススター宜しく惑星破壊レーザーを撃ち込みかねないからな。




『ピッ……星間戦争……スターウォーズ。いいすね。それこそ、キ◯トでもキ◯コでも、かかって来なさいってところです』


「前者はともかく、後者はやめろ‼︎ そして艦橋のワルキューレ、【敵対したら怖い相手しりとり】もやめなさい‼︎」


「マイロード。キ◯コ→コ◯ラ→ライン◯ルト提督→黒崎◯護までは繋がったのですが、ここまでは異存はありませんか?」


「……よろしい、俺に聞こえないところで続けたまえ。いいな、巻き込むなよ‼︎」




 全く。


 どういうしりとりだよ。


 それはそうと話を戻すことにして、作戦的には炙り出しを行う方向で一致。


 さあ、まだ見えない敵対組織よ、かかってきなさい。






 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯






 ここ最近、モノリスからの来訪がない。




 惑星スターゲイザーとの対談を行うため、【地球代表団】はワシントンdcに新たに設置した【国連宇宙部(United Nations Office for Outer Space Affairs)】のワシントン事務局に詰めている状態である。




 モノリスが虹色の光沢反応を示したとき、すぐにヘリポートからホワイトハウスへと向かう手立ては出来上がっている。


 それ以外にも、常時二名の代表国責任者が、賢人機関から派遣されてきた通訳と共にホワイトハウス隣のアイゼンハワー行政府ビルの一画に設置されたフロアに詰めている。




「……先日の賢人機関の件については、正式に抗議文を送らせてもらっているが、相変わらず【きれいな返答】を貰えない状況だな」


「まあ、あそこの機関はイギリスに存在するものの、裏の国連のような存在ですからねぇ」




 本日の詰所担当は、アメリカのティモシー・クルーザーと日本の大川正一。


 お互いに通訳を通すことなく、流暢な英語で雑談を楽しんでいる。


 もっとも、その議題の中心にあるのはやはり、先日訪れたスターゲイザーの機動兵器と、彼らがもたらした物品の数々。


 国連宇宙部としては、それは一旦は宇宙部に預かりたいところであるのだが、賢人機関は自分たちが弾き出した解析データのみを宇宙部に送達してくるだけで、物品については送ってこなかった。




 その理由は簡単で、『あの靴や薬品は、個人が貰ったものであり、それを提出する義務はない』ということであった。


 そんな子供騙しみたいなと関係者は憤慨したものの、相手は【子供の体に頭脳は賢人】という、宇宙部に言わせると化け物集団である。


 しかも、彼らがスターゲイザーに向かったという情報も届いているのだから、宇宙部を差し置いての越権行為以外の何者でもない。




 一体どうやって、彼らはスターゲイザーに行くことができたのか。


 この問いかけに関しては、彼らは現在も黙秘を貫いている。


 だが、彼らがスターゲイザーに姿を表したことは、マタ・ハリというスターゲイザーの外交官がはっきりと話をしていた。




「……いっそのこと、賢人機関を解体したいな」


「そういう話があることも知っていますが、あの機関についてはブラックボックスの塊ですよ。初代賢人機関会長の意思でもありますが、代替わりした現在は、どこの国の諜報機関も侵入困難な要塞のようなものですからね」




 そもそも、賢人機関は独自の特殊部隊を有する。


 名目上はイギリス軍特殊部隊ではあるものの、命令系統は賢人機関が所有する。


 前衛組織が女王陛下直属機関であるがために、誰も、何も言えないというのが現状である。




──パパパパッ


 すると突然、モノリスが虹色に輝いた。




「きたぞ‼︎」


「了解です‼︎」




 すぐさま上着を着て外に出る。


 襟を正して堂々と前に進むと、モノリスの中からは宇宙服を着ていないマタ・ハリとケネディ、李書文が出てきた。




「こちらでは素顔を見るのは初めてですね、フロイライン・マタ・ハリ」


「そうですね。今日は、お二人は地球代表団としてこの場に立っていると考えてよろし‼︎」




──チュン


 そう話しながら握手を交わそうとした瞬間。


 突然、マタ・ハリの額が撃ち抜かれ、後ろに倒れていく。


 すぐさま李書文がマタ・ハリを抱き抱えてモノリスの中に飛び込むと、ケネディが呆然とする二人に向かって指差し怒声を浴びせた。




──チュン


 今度はケネディの頭を掠めてモノリスに直撃。


 慌ててモノリスに飛び込むケネディと、何が起こったのかようやく理解したティモシーと大沢である。


 すぐさま自分たちも頭を下げて、ホワイトハウスに逃げていく。


 モノリスの前には、マタ・ハリの頭から流れたと思わしき、赤い血のようなものが少しだけ残されていた。


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