第148話・補充からのオカルト
──ピッピッピッ
今俺は、業務用スーパーにいます。
純国産調味料を次々と箱買いしては、サーバントたちに運ばせている最中です。
札幌市清田区にある業務用スーパー、その正面駐車場には、俺が購入した商品の箱の山が、堆く積み上げられている。
これをどうやってアマノムラクモに運び込むのかというと、答えは簡単。
──ブゥン
段ボール箱の真下に広がる巨大な魔法陣。
その|無限収納(クライン)と直結している魔法陣の中で、段ボール箱がゆっくりと霧のように消えていく。
まあ、人目があるのはこの際無視、慌ててスマホで写真を撮ったりカメラを回す人たちもいるけど、そこに軽く手を振ると、俺たちはステルスモードでその場で姿を消す。
ちなみにだが、この戦法を取るために俺はしっかりと変装してきたからな。
ミサキのままでこんな事をすると、後々が面倒くさくなるからさ。
『よし、急いでこの場を離れる‼︎』
『次はどこに向かうのですか?』
『本屋だな。ずっと日本を離れていたからさ、日本語に飢えているんだよ』
『ピッ……その程度でしたら、私がインターネットに接続して必要な書籍を全てダウンロードしますが?』
『あ〜そういう手もあったかぁ。ちなみに支払いは?』
『ピッ……そんな必要はありません‼︎』
『ダウトォォォォォ。電子書籍でも、必要なものを買ったら金を払わないとダメだからな』
危ねぇ危ねぇ。
さすがはアマノムラクモの魔導頭脳、俺が絡むと平気で犯罪行為を肯定化しそうだわ。
でもさ、いつでもどこでも手軽に読める電子書籍もいいけれど、やっぱり紙媒体をペラペラって捲る感触は何ものにも変え難いよね。
今は電子書籍の印刷、POD(プリントオンデマンド)っていうのもあってさ、登録した住所に製本した紙媒体を送ってもらえるんだよ?
『……うん、ざわついていますなぁ』
ついさっきまで俺がいた場所には、大勢の人が集まっている。
あちこちにカメラを向けて何かを探していたり、地面をぺたぺたと触っていたり。
そんな事をしても、そこに私はいません。
さぁ、TSUTAYAにレッツゴー‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
夕方のニュース。
北海道は札幌市、清田区に突然姿を表した謎の集団の動画が、ニュースに流れていた。
大量の買い物をした人々が、スーパー正面の駐車場で忽然と姿を消したのである。
それはスーパーだけではなく、菊水のスーパーアークス、TSUTAYAなど、市内あちこちの店舗で同じような集団がカメラに映されていた。
その正体が何者であるかなど、現時点では誰にも予測はつかない。
ただ、NASAやJAXAをはじめとした【スターゲイザー調査班】は、映像に写っている人物はスターゲイザーからやってきた異星人ではないかという推測に達した。
なぜ、異星人が地球で普通に買い物をしているのか、その動機や目的についてはまだ推測の域を脱しないものの、しっかりとお金を支払っているため犯罪行為ではないということだけは見解の一致を見せた。
………
……
…
「……流石の賢人機関でも、これは笑うしかないだろうなぁ」
「全くだ。NASAも調査班をスーパーの駐車場に送り出すらしい。なんらかの元素でも確認できればいいということじゃないか?」
JAXAのオペレーションセンターでは、神田川涼と羽田野純一の二人のアストロノーツが、ニュースを見て笑っている。
彼ら二人と及川祐希、合わせて三名は、【惑星スターゲイザー】に向かうアストロノーツとして、JAXAで訓練を行っている。
その休憩中に見ていたネットニュースがいかにも滑稽だったため、笑うしかなかったのだろう。
「JAXAは動かないのか?」
「もう動いているわよ。そろそろ訓練再開だから二人を呼んで来いって言われたんだけど、こんなところで油を売っていたの?」
「まあね。それよりもJAXAも動いたって本当なのか?」
「ええ。現場責任者として飯田チーフも連れて行かれたわよ」
困った顔で説明する及川。
それで無くてもスケジュールがかなりキツイところに、今回の異星人のお買い物イベントである。
調査班が動かないはずもなく、さらに日本政府からも専門委員会が設立したらしく、そこのお偉いさんたちも調査に向かうことになったらしい。
「はぁ、チーフも大変だなぁ」
「他人事も良いけれど、これ以上、買い物現場が増えたら私たちも駆り出される可能性があることは、忘れないようにね」
それだけを告げて、及川はオペレーションセンターを後にする。
そして波多野と神田川もまた、午後の訓練のためにセンターを後にした。
………
……
…
「ヒーッヒッ……ふぁははははっ‼︎」
腹を抱えて笑っているのは、ノイマン。
異星人のお買い物イベントについてはインターネットのニュースで全世界に広がっていった。
当然ながら、賢人機関でもこのニュースを見ていたらしく、ノイマンがツボに入ったかのように笑い転げているところであった。
「い、異星人がお買い物だって、金を払って‼︎ なんで異星人が日本の金を持っているんだよ、考えればわかるだろうよ……」
「ノイマンの言う通りなんだけどなぁ。と言うことなので、ここはシャンポリオンの意見を聞きたいところだが?」
ポテトチップスを食べながら、アルバートがテレビモニターを眺めているシャンポリオンに問いかける。
するとシャンポリオンもこめかみに手を当てて少し考えてから、こう答えを導き出した。
「私がモノリスから出てきた異星人たちに手渡したイーグル金貨があっただろう? それを日本で換金してから、買い物をしたって言う理論は普通に考えられるとは思わないかい?」
「い、異星人が換金して買い物……ブフォっ‼︎」
さらに笑い転げるノイマン。
だが、アルバートは顎に手を当てたまま頷いている。
「可能性的にはあり。宇宙服越しなので中の異星人の姿はわからなかったけど、買い物をしていたらしい異星人の姿は日本人だったそうだよなぁ……」
「擬態も可能なのか、それとも私たちのような外見なのか、興味に尽きないとは思わないか?」
チラッと床でヒクヒクしているノイマンに問いかけるが、すでにノイマンは冷静になっているらしく、床に転がったまま何かを考え始めていた。
「……買い物がしたいのなら、ホワイトハウス前のモノリスから出入りすればいんじゃないか? なんでわざわざ日本で? そう考えると、モノリスは複数枚存在し、世界各地に隠されていると考えるのもありじゃないか?」
「お、正気に戻ったようだな。ノイマンの意見が正しいかどうかは、これから調べることにしようじゃないか。レオナルド、彼女を呼んできてくれるか?」
アルバートがレオナルドに話をすると、すぐさまレオナルドはうなずいて部屋から出て行く。
そして五分ほどで、一人の少女を連れて戻ってきた。
「あ〜、いや待て待て、アルバート。彼女の能力は危険すぎないか?」
「それなら問題はないさ。彼女は最終調整もしっかりと終わらせた成功例だからな。そうだろう、千鶴子」
千鶴子と呼ばれた少女は、アルバートの言葉に対してにっこりと笑って頷いた。
「そうね。それで、私に『|透視(み)して欲しい』ものは何かしら?」
まだ目覚めて間もない『御船千鶴子』は、近くの椅子に座って目の前のモニターに手を当てる。
すると、電源も入っていないモニターに様々な映像が浮かび上がった。
脳内に加速チップを組み込まれた御船千鶴子のクローン。
その能力はモニター越しの透視と遠視能力。
「日本に姿を表した異星人、そいつらが使っているであろうモノリスの位置を見てくれるか?」
「ふぅん……それって、これかしら?」
ざらついた画面が薄らと鮮明になりつつある。
そこには、人気のない山奥に姿を表した、半透明状のモノリスの姿が映し出されていた。
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