第149話・賢人機関 VS アマノムラクモ
俺が札幌市内で買い物三昧を楽しんだ三日後。
外交担当サーバントのマタ・ハリたちが、ホワイトハウス前のモノリスに定期巡回をするらしく、俺はオタルの郊外にあるモノリスの前にやってきた。
まあ、普段ならアマノムラクモの艦橋で報告を受けておしまいなんだけどさ、このまえ札幌に行ってから、どうもウズウズするんだよ。
やっぱり地球人なんだよなぁ、俺も。
「ということなので、見送りに来たんだが」
「え、あ、あのですね、ミサキさま。見送りに来るのは嬉しいのですが、どうして宇宙服スタイルなのですか?」
ガッチリと宇宙服を着込んだ俺。
つまりは理解しろ。
「マタ・ハリ、ミサキさまは自分も連れて行けということらしいのです。そうですよね?」
「ケネディの言う通り。いい加減に、向こうの代表も決まった頃だろうからさ。少しは話を進めてもいいんじゃないかってね』
モノリスを用意して、間も無く一月が経とうというのに、未だに地球の代表は誰なのか決定していないとかはないよね?
俺としても、気軽に地球に立ち寄って買い物ができればいいかなぁって思っているだけなんだけどさ。
話が纏まらないのなら、この前のように札幌で買い物をするだけだからなぁ。
「では、向かうとしましょう。まず私が先に進みますので、ミサキさまは最後にやって来てください」
「了解だ、よろしく」
俺の言葉で李書文が先頭を切ってモノリスに突入。
続いてマタ・ハリ、ケネディがモノリスに入り、最後はオレが入っていく。
さて、どういう反応を示すか楽しみだよ。
………
……
…
ホワイトハウス。
目の前のモノリスが虹色に輝くたびに、ホワイトハウスとその周辺は緊張に包まれる。
モノリスを通ってくる異星人が、いつ、攻撃的になるか予測がつかないから。
賢人機関のシャンポリオンが彼らとのコミュニケーションを成功させてからは、地球代表団は異星人の言葉を学び始めた。
もっとも、代表達も学んではいるのだが、本気で取り組んでいるのは各国の通訳者たち。
何分、彼ら異星人の言葉はまだ表向きに翻訳したものは出回っていない。
賢人機関が中心となって、必要最低限のことを教えてはいるものの、まだ市井の人々にそれを学ばせるのは危険であると判断したから。
どこで間違って、彼らに喧嘩を売るようなものが現れるかわかったものではない。
危険性のある部分は最小限にするべきである。
──ブゥゥゥゥウン
その日の正午にも、モノリスは虹色に輝く。
最近は虹色に輝くまでは遠目にモノリスを見ようと、ホワイトハウス近くには大勢の人が集まり始めている。
そして虹色に輝いた時、すぐさまアメリカ軍が包囲網を展開し、ホワイトハウス周辺は非常警戒体制に移行する。
「……さて、用意はいいですか?」
ホワイトハウス一階ホールでは、この時のために集まった地球代表団のメンバーの姿があった。
「本日は私たち日本とアメリカ、ドイツの3カ国の代表しか準備していませんでしたから」
「中国は明日の到着と聞いていますが、ロシアとサウジアラビアは明後日の到着だそうです。フランスは今頃空港に到着したとかで、大慌てでこちらに向かってくるようですが」
「まあ、いつモノリスが輝くかなんて、我々でも予測はつかなかったからな。本格的な異星人相手の活動は明後日からということであったが、どうするのかな?」
流暢な英語で話している日本代表とドイツ代表に、パワード大統領が問いかけている。
本来ならば、まだ出番ではない。
そのため、非公式的に話し合いをすることも許されてはいない。
「パワード大統領、今回は向こうも一人多いようですが、どうしますか?」
ロビーの窓から外を眺めていたシャンポリオンが、パワード大統領に問いかける。
彼もまた、明後日からの異星人とのコミュニケーションのために、イギリスから遠路はるばるやってきたのである。
「ほう、向こうも一人増やしてきたか」
「……まずいなぁ」
シャンポリオンが、最後に姿を表したミサキの動きを見て、顎に手を当てて考え始める。
「シャンポリオン、何がまずい? いつもの偵察のような雰囲気ではないのか?」
「一人増えたと言いましたよね? その増えた人物、恐らくは彼らよりも身分が上ですね。他の三人の動きが、いつもとは違います」
以前なら、李書文がマタ・ハリとケネディを守るような立ち位置であった。
だが、今日は違う。
モノリスを背にして、三人がミサキを守るような形で立っているのである。
いつものように庭を散策するそぶりもなく、明らかに最後の一人を守るような動きである。
「パワード、その重要人物と話をしたいのだが」
ドイツ代表のミヒャエル・ヴェーバーが提案する。
今日、その重要人物が姿を表したのは偶然かもしれないが、今度はいつ、姿を表すかわからない。
それならば、このタイミングで少しでも話をしてみたいというのがミヒャエルの本音である。
「ミヒャエル氏の意見に賛同します。ここは、我々としてもチャンスなのですよ」
興奮を抑えるように呟く、日本代表の大沢正一。
その横にいるアメリカ代表のティモシー・クルーザーも、大沢の意見に頷く。
「さて。私は君たちの活動を制限するような権限は有していない。なので、君たち独自の判断で動くといいのではないか?」
パワードは大きく手を広げて、大袈裟に告げる。
地球代表団は国連機関の代表であるため、アメリカ大統領に彼らをどうこうすることはできない。
それならばと、ミヒャエルが大沢とティモシーをみて頷く。
「シャンポリオン、通訳を頼む。まだ我々の通訳はここに到着していない。君しか、彼らの言葉を翻訳することはできないんだ」
「はぁ……異星人言語の講習会には参加したのですよね? まだ覚えていないのですか?」
「君とは違って、我々は凡人だ。たった半月程度で彼らの言葉を覚えるなど、不可能だよ」
そう言われると、シャンポリオンも仕方なしに彼らの前に立つ。
「では、行きましょうか。前回とは違い、今回は地球の代表団です。堂々と胸を張って、話をしようではないですか‼︎」
その言葉に代表たちも頷くと、覚悟を決めた代表たちはロビーから外に向かって歩き出した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──同時刻、日本
北海道は深夜一時。
ホワイトハウスで待機していたアメリカ軍の連絡を受けて、電撃作戦のように手稲山山中に向かう陸上自衛隊と米海兵隊による合同作戦群。
【|対異星人特殊部隊(エイリアン・タスクフォース)】と命名されたチームは、イギリスの賢人機関からの資料提供を受けて、もう一つのモノリスの存在を確認するために、山の中を進んでいた。
『……現在地点から北に265メートルです』
「了解」
ソールズベリーのアヴァロンから、御船千鶴子が指示を送る。
それに合わせて、特殊部隊が無人の山中を進んでいく。
「オペレーター・ミフネ。あなたが現地に来てくれたなら、もっと指示が早かったと思いますが?」
『ええ。モニターを通しての指示ですので、確かにタイムラグは発生しますわ。ですが、私は危険があるかも知れない現地に赴くなど、できないのです。あと12メートル北へ、そこから2メートル西です』
「了解」
指示通りに、まるで機械のように動く特殊部隊。
そして指示のあった場所に到達したが、そこは山中でも開けた場所であり、特におかしいものは何もなかった。
「オペレーター・ミフネ。この場所には何もありませんが」
『ええ。空間座標軸がズレているとアルバートが説明していましたわ。そちらに持たせてあった荷物をそこに置いてくださるかしら?』
予め、今回の作戦では賢人機関から荷物を預かっている。
それを降ろしてマニュアル通りに組み立てを始めると、1メートル立方の機械が完成する。
「オペレーター・ミフネ。組み立ては完了しましたが」
『それでは電源を入れてください。その後で、スイッチの横にあるダイヤルをゆっくりと回してもらえますか?』
指示に従って、ダイヤルを回す。
最初は何も起こらなかったのだが、あるタイミングで突然、目の前に透き通った何かが見え隠れを始める。
高さ3メートル、幅2メートルの金属板。
それはまさしく、ホワイトハウスに姿を表したモノリスそのものである。
「こ、これは……アメリカのモノリスと同じものですか?」
『さぁ? 私はその辺りは専門ではありませんので、ここから先はアルバートに変わります』
『ということだよ諸君。早速だけど、ここからは私が指揮を取らせてもらうよ。まず、そのダイヤルをもっとゆっくりと、細かく調整してモノリスが一番はっきりと見える数値を出してもらえるかな?』
通信機の向こうの声が、御船からアルバートに変わる。
そして、ここからが作戦の本番。
モノリスをとにかく解析し、可能ならばここからドローンを送り込んで調査を行う。
ホワイトハウスのモノリスが稼働しているタイミングなら、相手も意識が分散しているだろうという作戦。
今回はモノリスの稼働波長を調べて終わりだが、今後はモノリスを地球サイドから遠隔操作して起動させようとアルバートたちは企んでいる。
その後三十分ほどでモノリスの安定波長を捉えると、この日の作戦は完了。
特殊部隊は装置を分解して、すぐさま撤退を開始した。
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