第114話・暑い、熱い
さてと。
ツァトゥグァによって、俺はカリヴァーンごと転移した訳なんだが。
広大な宇宙。
そこに浮かぶカリヴァーン。
まあ、ものの見事に銀河漂流状態である。
「……おい、ツァトゥグァ。ここってなんだよ?」
『かよわきものよ。まだ聴こえているのなら、心して聞くが良い。我が送った先は、炎の鍵の管理者【クトゥグァ】の住処。奴は、フォーマルハウトの中心に存在する』
「フォーマルハウト? いや、分からないんだが」
『……』
あ、念話モードも途切れた。
この広大な宇宙の何処に、そのフォーマルハウトがあるんだよ?
「カリヴァーン、バックウェポンシステムをセンサータイプに換装」
『了解』
一瞬でバックウェポンを、センサータイプに切り替える。ここまできて、敵の襲来などない、あってたまるか。
まあ、現状報告のためにアマノムラクモに通信を送るためなんだけどね。
「さてと、超空間通信を……もしもーし」
『ピッ……かなり遠い距離かと。現在の位置は何処ですか?』
「ちょいまち……絶対座標軸……うん、知らない星系図だな。イスカンダルはいるか?」
『はい。現在のミサキさまの位置ですか?』
「ああ。炎の鍵の存在する星系図って、分かるか?」
『はい。アムネジア星系に当たります。ミサキさまにわかりやすく説明しますと、地球から二十二光年です』
「近っか‼︎ え? それじゃあ、此処から二十二光年先には、太陽系があるの?」
これは予想外。
まさかの太陽系キタコレ。
いやぁ、ステルスモードで地球に行ってきたいわ。
もうラプラス神の加護があるから、俺が出入りしたところで破滅のカウントは増えないんだよ。
それどころか、あのカウントも止めれる筈だからさ。
ラプラス神の説明だと、いけそうじゃね?
『はい。ミサキさまの故郷が、あります。それはもう、美しい星が』
「そっか……まあ、現在位置については理解した。さて、あとはクトゥグァの鍵さえ回収できれば、最後の水の鍵については宝剣の鍵を解析して複製を作り出す。ぶっちゃけると、これが最後の旅になるな」
『ご武運を』
「そのあとでアクシアを起動したり、帝国本星を攻めたりと、やる事はあるんだけどさ」
さて、そうとわかれば、やることは一つ。
フォーマルハウトを探し出して、そこに向かうだけ。
「カリヴァーン、センサーシステムを全開。指定探索物は惑星フォーマルハウト」
『了解……解析開始……この星系には存在しません』
「え? フォーマルハウトっていう星はないの?」
『再検索……恒星フォーマルハウト確認。モニターアップします』
──ピッ
おお、映し出されたのは青く輝く星。
これが恒星フォーマルハウトか。
って?
恒星?
「え? いま恒星って言った?」
『はい。詳細データをアップします』
──ブゥン
そしてコクピット内モニターに映し出される、恒星フォーマルハウトのデータ。
みなみのうお座α星
1.1等級
うん、これって地球から見えるわ。
おおよその大きさは太陽の倍近く、質量も倍近い。
これって詳しくないんだけどさ、まあ、そういうものなのだろうと認識。
俺は天文学とかは詳しくないからね。
それよりも問題なのは、フォーマルハウトの表面温度だよ。
モニターに映し出されたデータによると、恒星の表面温度は8590K。
日本人的にわかりやすく説明すると、8316℃。
地球上のいかなる元素も沸騰する。
「……なぁカリヴァーン。あの中心核あたりに、火の鍵があるっていうことだよな? クトゥグァがいるんだよな?」
『恐らくは。ちなみにカリヴァーンの表面装甲はオリハルコンですが、内部フレームはミスリルです』
「耐熱性能は?」
『魔力コートを行っていますので、オリハルコンでしたら4500度程度でしたら問題なく。なお、内部フレームに使用されているミスリルの融点が3000度です』
まあ、予想よりもミスリルの融点は高かったわ。
よく見るファンタジー世界で、ミスリルの武器を作るのに、普通の炉ではなく『ドワーフの力の炉』っていうのを使う理由がよくわかったわ。
それでさ。
詰まるところ。
「カリヴァーンでも、溶けるっていうことだよな?」
『五分は耐えてみせます』
「中の人間は?」
『熱伝導率の低いミスリルでも、一分後には内部温度が1000度を超えます。コクピットを包むマナゲルが乾燥して粉になるレベルです』
「うん、死ぬな、いくら俺でも死ぬわ。ちなみに、魔法でどうとでもなる?」
『レジストヒートという魔法があります。あれが使えるのなら、マグマの中でシンクロナイズドスイミングが可能かと』
「ほほう。フォーマルハウトでは?」
『一瞬で蒸発します。たとえ魔法といえど、自然の猛威には勝てません』
自然とか、そういうレベルじゃないよな?
なにかこう、対策がある筈だよね?
「耐熱性魔導具、レジストヒート……どれもダメか。完全に熱を遮断する魔法……|熱遮断(ヒートカット)は……ああ、賢者専用魔法だ」
俺は錬金術師なので、そういった魔法は一切使えない。使おうとしても、体内の魔力回路が焼け切れてしまい、二度と魔法が使えなくなる。
それじゃあ錬金術師だから、熱遮断の術式を組み込んだらって思うでしょ?
俺は、その術式を知らないんだよ。
錬金術師の基礎知識では、普通の魔術師の魔法ならおおよそ全て、術式として知っているよ?
魔導具を作るのには、幾つもの術式を組み合わせる必要があるからね。
でも、賢者専用は別。
あれは賢者と錬金術師、二つのジョブがないと無理なんだよ。
「いゃあ、詰んだわ……でも、何か方法はあるはずだよな? イスカンダル、いるか?」
『はい。艦橋にて待機しております』
「クトゥグァについて、教えて欲しい。今のままだと、そいつに近寄ることすらままならん」
『そうですね。では、基礎知識として……』
そこから三十分間。
淡々とイスカンダル先生のクトゥルフ講習が始まったよ。
あれは物語だと思っている人もいると思うが、全て真実。
ただ、俺たちの世界とは異なる、同じような並行世界での出来事を、あの作者たちが時空を超えて感知し、書き綴ったものである。
その知識データの中では、クトゥグアはフォーマルハウト、もしくはその近くに存在する惑星『コルヴァズ』にいるらしい。
説はいくつもあるものの、コルヴァズにある炎の神殿とやらを探し出せば、また話は進むのではないかもと推測できた。
「サンキュー。これで前に進める」
『お役に立てて光栄です。それでは、お気をつけて』
「ああ。さてと、カリヴァーン、センサーで近くにある惑星を探査してくれ」
『了解です』
そこからしばらくして。
現在位置から0.23光年の位置に、小さな星があるらしい。
細かい計測データが不明なのは納得がいかんが、まあ、センサーでは此処が限界らしい。
「よっし、そこに向かうとしますか。魔導スラスター全開、目標座標へGO‼︎」
──ゴゥゥゥゥゥゥ
目標はコルヴァズ。
さあ、今回は変な騒動がないことを祈るぞ。
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