第88話・あんたは誰だ?

 エルフがやってきて半年。


 グランドリーフ大森林のエルフの里も、しっかりとした集落として確立し始めた。

 集落の真裏にあるヒラヤマ山脈には、彼らの作った坑道があり、鉱石などの発掘作業も始まった。

 そして機動戦艦アマノムラクモの停泊している内湾でも、いくつかの実験が始まっていた。

 

 港町が完成し、エルフたちのための宿の経営も始まった。

 なによりも凄いのは、『商業ギルド』の設営。

 納税はここで行われるのだけど、それ以外にも彼らが狩猟や採取してきた素材を買い取っている。

 

 ちなみにだが、アマノムラクモ城下町での通貨は『ドル』と『セント』、『ルーブル』とカペイカで統一してある。

 これがまた、俺の無限収納クラインに大量に余っていてね。

 俺がわかりやすくするために、こんな感じに設定したわ。


・1ドル=1ルーブル=10セント=10カペイカ


 まあ、硬貨も紙幣も、桁が多いものまであるんだけどさ。そこはうまく流通させる事にしたし、実際に通貨の概念はあったらしいから、すんなりと受け入れてくれたよ。


 雑貨屋に関しては、あえて大きな店舗を構えることなどしないで、こじんまりとした店を構える事にした。

 そこでコンビニ感覚で、雑貨を扱う。

 他にも食料品店や鍛冶屋、酒場までノリと勢いで作ったんだよ。

 正直いって、やりすぎた感は満載。


 そして港町ができたので、街の中に『役所』を建築し、内部にはようやく完成した『転送装置』も設置した。

 これでアマノムラクモとも自由に行き来することができるのと、俺が作った携帯用転移装置はアマノムラクモに接続できるようにしてある。

 こうなると、巨大な機動戦艦は、この街としては風情がない。


──グォングォン

 内湾上空1000mにゆっくりと移動させると、そこで光学迷彩のように船体を透明化させる。

 

「あの、ミサキさま。この街の名前は、どうするのですか?」

「そうだなぁ……それじゃあオタルで」

「オタル。良いですね」


 これで街も完成。

 このままゆっくりと、繁栄してくれたら良いよなぁ。

 何事もないのが、一番だよ。


………

……


──ドッゴォォォォォォン‼︎

 ある日の深夜。

 いきなり爆音が響いた。


「うぉあっ‼︎ なんだなんだ何事だ! オクタ・ワン、状況を説明してくれ」


 ベッドから飛び起きて、すぐさまオクタ・ワンに問いかける。

 この防音設備フルパワーの機動戦艦アマノムラクモの、俺の部屋まで聞こえる爆音ってなんだよ?


『ピッ……謎の落下物です。突然空間が湾曲して飛来しました。さすがに重力波動と同時に感知しては、対応は不可能です』

「そこまで巨大なのかよ? すっごい音がしたぞ?」

『ピッ……臨場感を出すために、外部集音装置で記録した音声をダイレクトに艦内にながしました』

「いらねぇから‼︎ そんな臨場感欲しくないわ。それで、落下地点は?」

『ピッ……グランドリーフ大森林の東方。ヒラヤマ山脈のハズレの森の中です。危険確認のため、インターセプト隊が出撃しました』

「了解。艦橋に向かうわ」


 まだ夜中の三時じゃないかよ。

 こんな時間に敵襲とは大したものだよ。

 俺の睡眠の邪魔をした奴は、覚悟しろよ‼︎



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 謎の飛来物の落下地点。

 その調査のためにやってきた夏侯惇らインターセプト隊は、森の木々を薙ぎ倒して滑り落ちた物体を確認。

 直径20mほどの球形のカプセルであることがわかった。


「……サーチ開始。この様子だと、中に生物がいたとしても無事ではあるまい」

「そうですなぁ。この郭嘉が調べた限りでは、大型移民船団に所属する船の脱出ポットかと思われますが」

「さすがは郭嘉。よくぞ、そこまで調べられたものだ。帰ったら殿に報告して、報酬を取らせよう」

「ありがたき」


 そんな話をしながらも、しっかりとマーギア・リッターの観測システムが脱出ポットをサーチしている。


「……内部に生体反応。人型、地球人タイプだと助かるのですが」

「生体反応は幾つだ?」

「二つだけです。それ以外は確認できません」

「そうか、分かった。残りは全滅だと言うのか」

「いえ、本当に二つだけのようです」

「……訂正だ。移民船団は、二人を残して全滅だと言うのか」

「可能性はあります。さて、ここからどうするか、ですが」

「ミサキさまに報告したら、嬉々として飛んでくるからなぁ」


 本気で考える夏侯惇と郭嘉。

 その最中にも、他のサーバントたちはマーギア・リッターを着陸させて、脱出ポットの周りを調べているところである。


『郭嘉、内部の生体反応は無事のようだが? 地球人的バイオリズムチェックでは』

「そうですか。では、これで調査は終わりにしましょう。中に生きている人がいる、その時点で、これから面倒くさいことが起こるのは必死ですから」

『全くですなぁ。ミサキさまの好奇心が全開になる前に、戻るとしましょう』


 そう考えた夏侯惇ら一向は、一旦、機動戦艦アマノムラクモへと帰還し、艦橋でミサキに報告を行うことにした。


………

……


「ふぅん。地球人型だと良いんだけどなぁ。移民船団の生き残りか……それは辛い思いをしたんだろうなぁ」


 エルフ族の時のように、この星に移民してくる人がいるのは大歓迎だ。

 悪意さえなければ。

 とりあえずは無事そうだから、あとは明日にして今日はゆっくりと寝る事にしよう。

 二度寝だ、二度寝。

 万が一ということもあるので、サーバントを二人派遣して、監視を頼む。

 さあ、明日からが楽しみだわ。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「あれはちょうど、深夜二時ごろだった。向こうの山の中腹が突然輝いて、人型の謎の生き物が姿を表したんだ」

「深夜三時ごろに、空間転移した何かが斜めに飛来して、中腹に突き刺さったのです」

「……楽しいか?」


 早朝、バギーで調査に向かった俺とヘルムヴィーケ、ヒルデガルドの三人を迎えてくれたのは、落下物の周りに集まっていたエルフたちであった。

 いや、何が起こったのか説明してくれるのは良いんだけど、怪しい英語で話しているところに日本語吹き替えをつけたような説明などいらんわ。

 どうも、エルフ族のノリはたまについていけなくなる。


「まあ、真面目な話はロビンの説明通りです」

「そっか……まだ生き残りがあるかもしれないけど、恐らくは移民船団の最後の人間だ、暖かく迎え入れてやってくれ」

「ミサキさまのお言葉でしたら……」


──プシュゥゥゥゥゥ

 俺がエルフたちと話をしていると、突然、脱出ポットの外部ハッチが開いた。

 そして、人影が見えてくると、俺たちの姿を見て驚いている。


「ふむ、見た感じ、ろくな原住民ではないようだな。そこの女、この俺が、この惑星の新しい支配者だ、へいふくしろ、無礼ではないのか?」


 黒いスーツ姿に金髪ショート。

 歳の頃は二十代というところだろう。

 地球人タイプの外見だけど、額にあるツノらしきものはなんだろう。


「おい女、聞こえないのか? もしかして私の声が、言葉が理解できないと? それでは仕方ない。私はアヤノコージ・マーロゥ。マーロゥ家最後の当主であり、この星の支配者となるものだ‼︎」


 アヤノコージ……綾小路かな?

 マーロゥって、麿だよなぁ。

 まあ、めっちゃ俺様目線の、とんでもないクソガキっていうことだけは理解した。


「何をいうか、貴様は流れ者のくせに。この星の支配者はミサキさまだ、貴様こそひれ伏せ‼︎」

「なんだとこの蛮族が‼︎ この剣の紋章が目に入らぬというのか‼︎」


 お、いきなり腰のサーベルを抜いて、刀身に刻まれている紋章をチラつかせてきたぞ。

 それで、あのクソガキは何者なんだろう。


「知るか‼︎ ということで、俺たちはお前など知らない。よって平伏すことも、貴様を主とすることはない。俺たちの生活を邪魔するのなら、覚悟しろよ‼︎」

「き、貴様ぁぁぁぁ、そこになおれ、成敗してくれるわ」

「何がなおれだ。貴様こそ、そろそろ目を覚ませ‼︎ こちらに合わすお方をどなたと心得る、この惑星アマノムラクモの支配者、ミサキ・テンドウさまだ‼︎」

「そんな名前など知らん‼︎」


 ふむ。

 面白そうだけど、そろそろ止めるとするか。


「おーい、そこのマロ、それ以上偉そうにしているのなら、脱出ポットにねじ込み直して次元潮流に流す。素直に頭を下げるのなら、許す。ついでにエルフたちも、煽られて言い返すようなことはしない」

「は、はい、かしこまりました」

「何が許すだ‼︎ 俺は、生まれてから一度も頭を下げたことなどない‼︎ 貴様こそ、なにがミサキだ、このビッチがフベシッ‼︎」


 あ、俺の横にいたヘルムヴィーケがいない。

 そしてマロが、ヘルムヴィーケの確殺乱舞を受けて宙に舞っている。

 手加減して打撃のみで相手するなんて、ヘルムヴィーケも優しいなぁ。


「あの、ミサキさま、ひょっとしてお怒りですか?」

「ん? なんで?」

「いえ、いつもなら、とっくに止めているところですが」

「まあ、あのクソボンボンの口調や文句がさ、俺の働いていた会社の二代目と同じでさぁ。上から目線で文句言うだけで、お前たちの手柄は俺のもの、俺のミスはお前たちのものっていう感じで……ヘルムヴィーケ、そろそろポットの中に放り込め、マーギア・リッターで送り出すから」


 あれ、俺って、いつのまにか親指で首を掻っ切るポーズしているわ。

 いけないいけない、もっと冷静にならないとね。


──ドダダダダダダッ

 そう自分に言い聞かせていると、ポットの中からもう一人の人物が姿を現した。

 歳の頃は老齢七十代前後、プラチナブランドオールバッグの、いかにも紳士である。


「お待ちください。マーロゥさまの御無礼、平に謝罪します。ですので、もう流浪刑だけはお許しください」


 実に綺麗な謝罪である。

 しかし、流浪刑だったのかぁ。

 紳士さんと二人で流浪刑とは、なかなかハードモードだよなぁ。


「ヘルムヴィーケ、紳士さんの謝罪を受け入れる。戻ってきてよし‼︎」

「かしこまりました」


 すぐさまヘルムヴィーケは戻ってくるが、依然としてアヤノコージに対しては敵意満々である。


「そんじゃ、執事さん、詳しい話を聞きたいからこっちにきてくれるか? クソボンズはそこにいろ」

「フガフガフガ」


 あ〜。

 顔が腫れているけど、まあ、後で直してやるか。

 ということで、執事さんがやってきたので、無限収納クラインからキャンプ用テーブルと椅子のセットを取り出し、客人として対応する。


「これはご丁寧に、ありがとうございます。私はアレキサンダーと申します。代々マーロゥ家に仕えている執事でして」

「ほう、そのマーロゥ家は置いておくとして、なんで俺たちの星に流れ着いてきたのか、説明してくれる?」

「はい。話せば長くなりますが」


 ここで説明タイムとなりました。

 まあ、よくある星間戦争で、マーロゥ家が統治していた小惑星が占領されたらしい。

 その際に、移民船団により一人息子のマーロゥとアレキサンダーが、国民と共に宇宙に逃げ延びた。ここまでは良いね、ここ迄は。

 そのまま移民先の星を探しながら旅をしていたらしいんだけど、備蓄していたはずの食糧が不足し始めたそうで。


 その理由は簡単で、『庶民の食べるものなど、俺に食べさせるのか』『俺を誰だと思っている、食料の配給を決めるのは俺だ』『貴様、良い体をしているな。今宵の伽を命ずる』。

 はい、あのクソボンズの言葉の例だそうです。

 結果として移民船団の住民の怒りは爆発し、避難ポットに閉じ込められて、ワープ中に次元潮流に放り出されて、今、ここ。


「そっかぁ。うん、アレキサンダーさん、あなたの忠誠は認めますが、あのガキはいらない」

「お待ちください。アヤノコージさまの態度が気に入らないことは謝罪します。ですが、ここが最後の地と覚悟を決めます。どうか、流浪刑だけはご勘弁ください」


 ついに土下座をするアレキサンダー。

 いや、あなたが頭を下げる必要はないのですよ、うーん、参ったなぁ。


「ミサキさま。私の意見ですがよろしいですか?」

「お、ヒルデガルド、何かいい案があるのか?」

「はい。縛り首など」

「ミサキさま、私は焙烙をお勧めします」

「いや、処刑方法じゃないから、助けるか助けないか、そこだから」

「「助けない方向で」」


 まあ、散々俺のことを罵倒していたからなぁ。

 腹にすえかねるのは理解できるわ。

 でもなぁ。

 アレキサンダーさんは普通の人だし。


「執行猶予一ヶ月。その間、脱出ポットを家にして生活してみてくれるか? 当然だけどクソボンズの教育をしっかりとすることも条件で。何かやらかしたら、こちらとしても考えがあるからな」

「は、はいっ、ありがとうございます‼︎」

「それから、この薬でも飲ませてやれ、魔法薬だから怪我なんてすぐ治るからな」

「魔法?」


 あ、科学の世界の人でしたか。

 そりゃあ魔法の意味はわからんよなぁ。


「この星の住民は、魔法畑の人が多い。って言うか、そっちが専門だ、くれぐれも無礼な物言いとかしないように」

「はっ、心して。お薬、感謝します」


 再度頭を下げてから、アレキサンダーはまん丸顔のマーロゥの元へと走って行った。


「はーい、今の俺たちの話は聞いていたよな? 一ヶ月の猶予期間をくれてやったから、様子を見てやってくれ。礼節のない対応を仕掛けてきたら無視して構わんし、事件でも起こしたらエルフ族の法に照らし合わせて処分しても構わん」

「殺すのは?」

「そこはやめてやれ。でも、3度、同じことをしたらアホだから、やって良し‼︎」

「「「「「サーイエッサー‼︎」」」」」


 その返事、誰から学んだんだ?

 まあ、そんなこんなで惑星アマノムラクモに、新しい住民候補が二人増えました。

 事件を起こさなければ良いんだけどなぁ。

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