第89話・アマノムラクモ、ギルティ祭り開催‼︎
アヤノコージ・マーロゥ。
どこにでもいるボンボンを通り越した、時代劇では成敗されそうなやつ。
執事のアレキサンダーの助命嘆願により、執行猶予一ヶ月が言い渡された。
さて、あのボンボンの性根が何日で改善されるか、見ものではあるのだが。
………
……
…
昨日は、散々な目にあった。
何故、この私が、あのような野蛮な女にフルコンボ決められなくてはならんのだ。
まあ、お陰でこの星の住民の戦闘力は理解した。
執事のアレキサンダーは、地元の人々との交流を大切にするようにと、礼節を持って接するようにと言っていたが、それはあいつらに言え。
この俺が、どうして奴らに合わせる必要がある?
私の父は、あの大銀河帝国に所属する惑星の統治者だぞ?
まあ、かなり辺境でもあったし、それほど大きな星ではなかったがな。そもそも移民星であったため、それほど裕福でもなかったが。
共和国サイドに所属する統一星団軍の侵攻の際は、我が星は最前線として勇猛果敢に戦っていたのだぞ?
まあ、彼らの侵攻ライン上ど真ん中にあったので、巻き込まれた感は高いがな。
それでも、我が軍は頑張っていた。
頑張ったが、王都は陥落した。
その前に、我が父は私と国民を逃した。
巨大な移民船に無理やり押し込められ、すぐさま衛星軌道外からのランダムワープ。
私は、両親の最後の顔を忘れない。
燃え盛る王城で、私に国宝の剣を渡していた。
あの時の、安堵した表情を。
最後の通信の時の、あの笑顔を。
私に心配をかけまいと、無理やり笑顔を作り、送り出してくれたことを。
その時から、私は誓った。
必ずや、王家を再興してみせると。
そのためには、まずは、この移民船を取り仕切ることにしよう。
無秩序ではダメだな。
まずは法を定める。
俺が法、これで決まりだ。
私は王家の血筋、いや、すでに両親は死んでいるだろうから、俺が王だ。
王の命令は絶対。
宿泊する場所も、こんな雑魚部屋ではない。
士官用の部屋でも最高のものを用意しろ。
そうだ、衣食住全てを、この私が取り仕切る。
食料が満足に行き渡らない?
それはお前たちの創意工夫が足りないからだ。
俺の分を回して欲しい?
ふざけるな、王家の私が飢えることなど、あってはならないだろうが。
故郷を旅立って一ヶ月。
そろそろ、今後のことを考える必要がある。
王家を存続させるには、血を絶やさないことだ。
よし、今日からは子作りもしよう。
俺の好みの女は、全て差し出せ。
私が直々に、相手をしようじゃないか。
なあに、逆らう奴らは、いないだろう。
この王家の剣の力は、星の民全てを従えることができる。
それゆえ、王家の命令は絶対だからな。
故郷を旅立って二ヶ月。
移民船の中で、クーデターが発生した。
俺と執事のアレキサンダーは、首謀者たちに捕らえられて、脱出ポットに押し込まれた。
それどころか、ワープドライブの最中に、俺たちを移民船から放逐したではないか?
ちょっと待て、そんな常識はずれなことはするな。
今ならまだ間に合う、俺たちを助けろ、これは命令だ。
移民船から放逐されて半年。
もう食料は尽きた。
この次元潮流と呼ばれている場所では、自力で推進できる船以外は満足に動くこともできない。
ただ運命に委ねるしかない。
そんな時。
次元潮流の中に、小さな星が見えていた。
あれだ、あれこそが、俺の星だ。
あの星で、俺は新たな王となる。
父上、母上、私は、偉大な王となります。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
さて。
アヤノコージがうちに来て三日目。
様子を見るためにエルフの里にやって来たのはいいのだが。
「ミサキさま、あのクソガキをどうにかしてください‼︎」
「うちが育てていた果樹園の果実を、根こそぎ持って行きました」
「うちの畑の野菜もです。いいところだけ見繕って、持っていかれました」
「倉庫にあった貯蔵用の肉が、まとめて持っていかれました」
「うちなんて、衣服関係をまとめてですよ?」
さて、しばくか。
「わずか三日で、ここまでやるとはなぁ。わかった、俺がどうにかするから」
「「「「お願いします」」」」
いくら我儘に育てられたとは言え、もうあいつは必要ない。
温情を与えた俺が間違っていたよ。
すぐさまバギーで奴の住んでいる緊急退避ポットまでやってくると、アヤノコージはポットの外にベッドを引っ張り出して、のんびりと日光浴の最中か。
そしてバギーの音に気がついたのか、ガバッと体を起こして俺の方にやってくる。
「貴様、いい乗り物を持っているな。王家がそれを貰い受ける」
堂々と宣言をして手を伸ばしてきたので、まずは穏便に顔面をぶん殴る。
──ドゴグシャッ
「貴様はアホか? これは俺の乗り物だ。ついでに言うが、お前、エルフの里から物資を強奪しただろう? あの執事はいないのか?」
「……殴ったな、王家の俺を殴ったな‼︎」
「ふん。二度でも三度でも殴ってやるわ。俺が殴ったのは温情と思え、うちの子たちが殴ったら、首から上が吹き飛んでいるわ」
「黙れ、貴様は処刑だ‼︎」
──スチャッ
いきなり腰の剣を引き抜いて切りかかってきたぞ。
まあ、なんで素敵なへっぴり腰でしょう。
「悪魔の右手、インスタント‼︎」
──ブゥン
生身の右手に『悪魔の右手』を発動すると、それで力一杯、剣をぶん殴る‼︎
──ドジュゥゥゥゥゥ
『ギィヤァァァァァァァォァ』
うん、力一杯蒸発したね。
しかも、刀身から絶叫が聞こえてきたね。
しかも一撃で王家の剣が蒸発すると、アヤノコージがヘナヘナとしゃがみ込んでしまう。
そして、口から泡をふいて気絶。
何が何だか、さっぱりわからないんだけど。
そして、俺が困り果てていると、ポットからアレキサンダーがやって来た。
………
……
…
私は、王の剣。
歴代マーロゥ家に伝えられている、伝承武具の一つ。
この広大な世界に存在する、神が作りし二十四の伝承武具の一つであり、『魂の器』という力を持っている。
我の中には、歴代マーロゥ家の主人の魂のコピーが封じてあり、王位継承の際に、それらの知識は全て、新たな王の中に刷り込まれる。
まあ、俺自身の意思も同時に刷り込むので、我は苦なくして王家を乗っ取ることができる。
そうして、代々マーロゥ家を支配していたのだが。
流石にこの度の戦争は、無理。
相手が悪すぎる。
敵もまた、伝承武具の一つを有しているじゃないか。
これはとっとと逃げるに限る。
だが、この肉体では無理だ、もっと若い肉体でなくては。
そうだ、皇太子がいるではないか、我は王位をアヤノコージ・マーロゥに託す‼︎
そう宣言して、息子に俺を手渡した。
こうなれば、いつでも息子を乗っ取ることができる。あとはこいつを上手い具合に操って、悠々自適の逃亡生活を送ることにしよう。
うむ、乗っ取り、失敗。
わしとこいつの精神が複雑に融合した。
だが、まあいい。
こいつが本体である剣を装備しているとき、それと眠りについている時は、ある程度はわしの自由に動かせる。
これで、王家は最強となった。
うむ。
クーデターが発生した。
ちょっと待て、この船に乗っているのは、あの星の住民ではないのか?
もしもそうならば、彼らはわしらに逆らうことなどできないのだぞ?
あ、やらかし過ぎたのか。
まあ、この肉体が滅んでも、剣の中の【魂の器】に全ての記憶を封じてある。
新たな宿主を見つけたら、そいつを支配すればいいだけだ。
うん?
ようやく辿り着いたこの星は、俺が支配するに良さそうなのだが、何か嫌な予感がする。
嫌な予感が何かって?
そんなの知らんわ‼︎
ただ、この星の主人とか言っていたあの女は危険すぎる。
とっとと周りから支配領域を増やして、あの女も始末するとしよう。
うん。
わし、折られた。
柄に残っている【魂の器】も損傷した。
もう支配力はない。
わし、ただの役立たずになってしまった。
ガキの自我も分離した。
こうなると、わしは何もできない。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……つまり、この王家の剣の前では、あんたらの星の人間は王家に逆らうことができなかったと?」
「はい。それでも私は、執事としてアヤノコージさまに苦言を呈していました。ですが、その全てが無駄であったようで、日を追うごとに、まるで先代国王のような傍若無人ぶりを発揮してきました。まるで、人が変わってしまったかのように」
「この剣がねぇ……」
ちょっと気になるから、
『ピッ……支配の宝剣(損傷)。内部に【魂の器】という
そこから必要な力を取り出し、使用することができるのだが、意志が弱いものは支配の宝剣によって傀儡のようになってしまう。
神のつくりし遺物の一つであり、神域における【神の祝福】の一つでもある』
うん。
見なかったことにしていいかなぁ。
禄でもないものだったということが、わかったわ。
「なるほどなぁ。これ、呪われた武器です。歴代王家の呪いが封じてあります。装備すると呪われて、支配されますが」
「な、なんと……しかし、処分するにも、正当な所有者はアヤノコージさまですから、私の一存では……」
「その通りだ、王家の剣の正当な継承者は私だ。それを処分することは、この私が許さない」
お、意識戻ったのか。
それなら都合がいいや。
「まあ、あんたのものだから、好きにすれば。それはそうとして、エルフの里から奪ったものの代価を貰うが、構わないな?」
「何をいうか、あれは、税金として受け取ったに過ぎない」
「それじゃあ、私はあんたから税金を徴収するからな。ヒルデガルド、ヘルムヴィーケ、外装甲板を50m平方分、ひっぺがえしてくれ」
──メキメキメキィィィィッ
脱出ポットの外から、金属音が聞こえてくる。
俺の通信を受けて、二人が勢いよく装甲板を引き剥がしているのである。
「な、何をする、貴様は、俺を誰だと思っているんだ!」
「流浪刑に処された、犯罪者だろう? まあ、代価はもらうからこれでチャラな。執行猶予まであと二十七日、まだ何かやらかすつもりなら、このポットに詰め込んで次元潮流に流すから、そのつもりで」
「そ、そんなことをしたら、外装甲板がなければ、耐え切れるはずはないではないか‼︎」
「知らんがな。まあ、せいぜい真面目に生きてくれればいいよ。そんじゃ、またね」
手をひらひらとふりつつ、俺は脱出ポットを後にする。
そして外では、一仕事終えた二人が、にこやかに装甲板を折り曲げている。
「ミサキさま、ご覧ください。鶴です‼︎」
「私のは
「なんで、装甲板で折り紙しているかなぁ。まあ、これは俺が収納するので、エルフの村に帰るよ」
「「了解です‼︎」」
このあとはエルフの村に戻って、奪われたものの補償を始めた。
全て許すわけではないが、今日のところは許してあげることにしたらしい。
まあ、一部のエルフたちは、里の物品や食料があのボンボンに盗まれたら、俺がもっといいものをくれると思い始めたらしく。再びボンボンが来襲するのを楽しみに待っているとか。
お前らは、四時間正座な。
ちなみに、この日から一週間後、つまりあと二十日になった時。
アヤノコージが里までやってきたらしいが、今回は脱出ポットに残っていた日用品と、里の食料を交換して欲しいと打診があったらしい。
なんでも、剣が折れてからは、人が変わったかのように弱気になっているとか。
いや、相変わらず慇懃無礼なのは変わらないらしいけどね。
さて、アヤノコージ君の運命は、如何に。
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