第79話・神々の戦い・祈る相手は誰だろうか

 敵・巨大機動戦艦が出現して。


 四機の天使型マーギア・リッターは機動戦艦の護衛として残り、残る量産型マーギア・リッターが、地球圏に向けて降下を開始する。


 カリバーンの再起動までの時間、俺は何もできない。

 体内保有魔力をカリバーンの起動に回しても、それでも再起動するまでの時間が足りなさすぎる。

 せめて、背部ブラストユニットだけでも動かせたら、翼の部分の魔力集積パネルが稼働してくれれば。


「……くっそぉぉぉぉ‼︎」


──ガン‼︎

 思わずサイドコントロールレバーを力強く引き絞る。それでも、カリバーンはうんともすんとも言わない。

 何かないか?

 俺の中の何か、無限収納クラインの中を漁りまくっても、頭の中に浮かぶ錬金術の術式を探しても、瞬時に魔力が回復する手段なんてない。

 いや、ある。

 正確には、あれがあった。

 先日、魔導転送システムで購入した神の果実。

 あれさえあったら。

 一発で魔力が全開になり、一時的に魔力が神力という神の力に置き換えられる。

 くっそ、対神装備を作るのに、全て使い切ったわ。


「ここまでは、あのデカブツが出てくるまでは想定していなかったわぁ」


 深々とシートに座り込む。

 幸いなことに、地球圏に降下したのは量産型のマーギア・リッターであり、天使型ではない。

 しかし、何故、天使型が降りていかない?

 あのランス・パニッシャーなら、結界もいとも簡単に貫けるはずなのに。


「おかしい。世界を滅ぼす武器を使わず、どうして量産型に任せる?」


 ランス・パニッシャーが、使えないのか?

 なんらかの使用条件があるのか?

 それなら、一撃で世界が消滅しないのなら、まだ勝ち目がある。

 いや、負け筋を躱せる。


 そう考えていた時、モニターの向こう、降下中の敵マーギア・リッターの一部が消滅した。


──ドッゴォォォォォォン

 宇宙空間なら、豪快な爆発音が響いただろう。

 真っ赤に燃え盛る量産機、その向こうからヒルデガルドのマーギア・リッターが飛来してきた‼︎


『……マイロード、お待たせしました』

「本当に、無茶するなぁ……」


 ヒルデガルドの声を聞いて、即座に四機の天使型を見るが、動く素振りもない。

 何故だ?


「ヒルデガルド、オクタ・ワンから何か聞いてきたか?」

『はい。オクタ・ワンからの連絡は一つです。アマノムラクモで二十四機分のフォースプロテクションを補うため、四機のワルキューレと二十機の戦闘型マーギア・リッターは、敵量産機の殲滅に当たるようにと』

「それだけか‼︎ あの天使型はどうするんだ?」

『トラス・ワンが、四機のシステムに干渉しています。解析データでは、不完全ですが一つの答えが出ています』

「それだ、それを教えてくれるか」

『はい……後続の機動戦艦は、この世界の破壊担当ではないと。先に出現した機動戦艦からの援軍要請でやってきたので、パニッシャーは使えないかと』


──パン‼︎

 それでか。

 もしもそうだとしたら、この窮地を救う手段はある。

 援軍できた機動戦艦も、何らかの神の管轄だとするならば。他世界の破壊について、担当以外の神の干渉はあってはならない。


 この予測が成り立つ。

 そしてアマノムラクモを攻撃する理由は、そもそもアマノムラクモは地球のものではない。

 神の供与物であり加護の塊。

 予想外に人間が使っているだけだが、俺は一度死んで、この体に作り替えられている。

 つまり、俺は地球人ではないので、機動戦艦は俺たちアマノムラクモを攻撃できる。

 この理屈が本当に正しいのなら。


「ヒルデガルド、俺は無視しろ、小型の機動戦艦を破壊しろ‼︎」

『……イエス・マイロード‼︎』


 俺の前で方向変換すると、ヒルデガルド機が小型機動戦艦へと進路を取る。

 すると、巨大機動戦艦と四機の天使型が、ヒルデガルドに向かって態勢を変えた‼︎


「ストーップ‼︎ 全力で回避行動‼︎」

『了解です』


──ギュンギュンギュン‼︎ 

 ヒルデガルド機目掛けて、一斉砲火が始まる。

 天使型もランス・パニッシャーをライフル形態に変化させて、ヒルデガルド機を狙撃しようとする。

 だが、実践経験がある分、ヒルデガルド機の動きは素早く、敵の砲火を潜り抜けている。


「あと一分……いや、このエネルギーで十分だ」


 右手をコンソールに触れて、解析アナライズを開始。

 起動用魔力バイパスを確認し、それを背部ブラストユニットに切り替える。

 制御信号は俺からダイレクト接続、手動で魔力集積回路を起動した‼︎


──ヒュンヒュンヒュンヒュン

 宇宙空間に僅かに漂う魔力。

 そして先に分解し塵芥となった四機の騎士型マーギア・リッターの残留魔力を回収すると、すぐさまバイパスを切り替える‼︎


──ギン‼︎

 カリバーンの瞳が輝く。

 それと同時に、敵天使型は攻撃対象をヒルデガルド機からカリバーンに切り替えた。

 そうだよ、お前らにとって、カリバーンは災厄以外の何者でもないよなぁ。

 

「ヒルデガルドは小型機動戦艦を破壊しろ、何があっても、あいつの主砲は撃たせるな!」

『了解です』


 あいつだけが、地球圏を攻撃できる。

 それさえ破壊すれば、俺たちの勝ちだ‼︎



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



『ピッ……ピッ……トラス・ワン、解析は終わりましたか?』

『……解析完了。敵大型機動戦艦のターゲットは、私たちアマノムラクモです。……干渉が途切れました、天使型マーギア・リッター『プリンシュパリティ』が自律行動を開始』

『ピッ……了解です。今までご苦労様でした』

『……スベテハ、ミサキサマノタメデス……』


 アマノムラクモの主魔導力システム『サラスヴァディ』は、周辺の滞在魔力及び太陽光を魔力に変換する。

 だが、地球全域を覆うフォースプロテクションは、魔力の生産量よりも過剰なほどに、魔力を消耗する。

 オクタ・ワンの計算では、すでに戦闘は終わり、敵機動戦艦は破壊されていた筈。

 だが、大型機動戦艦の出現によりフォースプロテクションを維持し続けなくてはならない。

 結果、余剰動力システムを全て稼働し、必要のない部分をカットしなくてはならない。


 今現在、アマノムラクモで最も重要な部分は魔導ジェネレーターを守るフォースブロックシステム、魔導頭脳二基のバリア及び稼働ジェネレーター、そして、ミサキのラボ。

 

 フォースプロテクションを維持するのなら、ミサキのラボの魔力バイパスを切断し、プロテクションシステムに回せばいい。

 けれど、そうするとようやく刷り込みが始まったばかりの子供たちの生命維持システムが停止する。

 内部の余剰部分では、もう、他に回すものがない。

 それゆえに、トラス・ワンは決断した。


 自分を独立維持しているジェネレーターをカットし、フォースプロテクションに回すことで、まだプロテクションシステムを僅かでも稼働させられる。


『ピッ……トラス・ワンのバックアップ完了、回路を切断します』


──ブゥゥゥゥウン

 アマノムラクモ中心部上部ブロックにあった、戦闘用魔導頭脳【トラス・ワン】が停止する。

 そしてプロテクションシステムが唸りを上げると、地球圏を包むフォースプロテクションの維持時間の再調整を開始した。

 敵ターゲットとなる機動戦艦側、つまり昼の部分と反対側の夜の部分での出力の再調整を行い、効率よくエネルギーを分配できるように。


………

……


──ガギィィィィーン‼︎

 大気圏内では、マーギア・リッター同士の激しいぶつかり合いが始まる。

 敵総数は、オクタ・ワンのカウントでは五千。

 それに対して、アマノムラクモサイドは迎撃用の二十四機。

 これにアマノムラクモ上部甲板からの『神の鉄槌』による砲撃が加わっても、圧倒的大差でしかない。

 サーバントの駆るマーギア・リッター一騎に対して、敵量産機は六機による波状攻撃を開始。

 一つ、また一つとサーバント機が破壊され、墜落していく中、残りの敵量産機はフォースプロテクションの【面】ではなく【点】目掛けて、攻撃を集中。

 

 プロテクションシステムを維持するマーギア・リッターに攻撃対象を切り替え始めた。


………

……


「うぉりやぁぁぁぁぁ‼︎」


 天使型マーギア・リッター目掛けて、俺はひたすらに拳を振るう。

 狙うのはランス・パニッシャー及び敵頭部。

 俺たちの乗るマーギア・リッターと同じなら、頭部はセンサーの塊。

 しかも、あっちは無人機なので、サーバント機のように緊急時にコクピットハッチを開いて、有視界戦闘を行えることもない。


──ガギィィィィーン

 一騎の天使型を塵芥に分解すると、大型機動戦艦が、カリバーン目掛けて『神の鉄槌』を斉射した。


──ドシュゥゥゥゥゥゥ

 細いランス型ミサイルによる、面攻撃。

 射程距離の長い弾幕といえば、おおよそ理解できるだろう。

 それが打ち出されると、流石にカリバーンでも接近は不可能。

 神の鉄槌は、魔力を中和する力があるから。

 俺たちの予測では、小型機動戦艦もそれを使ってくることを予測していたのだが、サイズ的にも『神の鉄槌』は装備していない。


「近寄らせないどころか、ヒルデガルドも接近不可能かよ」

『はい。小型機動戦艦側には射出されていませんが、そちらに回り込もうとすると、弾幕が強くなり近寄れません』

「了解、周辺を調査して回り込めないか、確認してくれ」

『イエス、マイロード‼︎』


 とにかく厄介なこと、この上ない。

 しかも、こっちはまだ天使型が三機もいるのにか?


──ガギィィィィーン

 ヒルデガルドとの通信が終わった刹那、突然カリバーンが停止した。


「なんだなんだ‼︎」

『Dアンカーにより、機体が固定されました』

「振り解けぇぇぇぇぇぇ」


──ゴゥゥゥゥゥゥ

 悪魔の右手が赤熱化し、見えない次元の鎖を破壊するよりも先に、大型機動戦艦の神滅波動砲がカリバーン目掛けて撃ち込まれる‼︎


「くっそ、間に合え、パニッシャーぁぁ!」


 両手を組んで、飛んでくる神滅波動砲にカウンターでパニッシャーを打ち込む。

 それは真っ直ぐ中心部分の波動魔力を吹き飛ばし、大型機動戦艦を貫いたが。


──ドッゴォォォォォォン

 中和しきれなかった余波により、カリバーンが砕け散る。

 コクピットブロックはどうにか無事で、球形の脱出ポットとして浮かんでいる。

 そして、機動戦艦が音もなく爆発すると、三機の天使型も機動を停止した。


「ふぅ……生きてる……」


 外部モニターをどうにか繋ぎ、外を見る。

 すると、大型機動戦艦の爆発の余波により、小型機動戦艦が吹き飛ぶ姿が見える。

 その主砲が全て放たれ、地球圏に降下していく姿と共に。


「打ちやがったか……だが、地球圏は、フォースプロテクションが守っている……」


 安堵と同時に聞こえたのは、一つの声。

 

『ピッ……ご安心ください。この一撃さえ、止められたら……よろしいのですよね?』

「大丈夫なのか、現在の状況は?」

『ピッ……フォースプロテクションシステム破壊。敵量産機が地球圏各地に向けて侵攻……しかし、機動戦艦が破壊されたことにより、すべての量産型は活動停止、墜落しています』

「待て、それでどうやって止める気なんだ‼︎」

『ピッ……ありがとうご……』


 俺にはわからない。

 ただ、宇宙から見えたのは.地球圏での巨大な爆発。

 通信で呼びかけても、オクタ・ワンもトラス・ワンも、ゲルヒルデとジークルーネも、オルトリンデもシュヴェルトライデも、ヴァルトラウデもグリムゲルデも、ヘルムヴィーケもロスヴァイゼも、誰からも返答はない。


『ピッ……こちらヒルデガルドです……』

「ヒルデガルド、無事か、小型機動戦艦の砲撃は仕方ない……急ぎ地球に降りたいが、迎えに来れるか?』

『……システムダウン。マーギア・リッター再起動までお待ち下さい』

「わ、わかった。アマノムラクモがどうなったか、それだけでもわからないか?」

『……敵主砲を受け止めるために、上部甲板にフォースフィールドを展開、同時に威力を削ぐために『神の鉄槌』をカウンターで斉射。そこまでです……』


 言葉が出ない。

 アマノムラクモは、その通り盾になったのか。

 アマノムラクモを失ったが、地球圏は無事か。

 代償が、大きすぎる。

 

「ヒルデガルド……地表に降下後、可能な限りサーバントたちを集めてくれ……」


 それ以上、俺は何も話せない。

 言葉ではなく、嗚咽だけが、コクピットの中に響いていた。

 

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