第62話・深淵からの挑戦・謎の解析、結末とは
国際宇宙ステーションの人たちを救出して欲しい。
そうNASAからの『依頼』を受けたので、速やかに契約書を交わして近くに待機していたサテライト1に連絡して、無事に救出完了。
まあ、基本的に干渉する気はないんだけど、『人命救助』依頼なら、仕方ないよね。
『ピッ……人が良すぎるというか、優しさというか』
「なんだよ、言いたいことがあるんなら、はっきり言えばいいだろうが」
『ピッ……干渉したいけど、アマノムラクモの立場上は干渉できない。それゆえに、人命救助と依頼という大義名分が手に入ったから動く。非常に面倒くさいという事です』
「はっきり言い過ぎだろうが。まあいい、もう一つの方はどうするんだ?」
もう一つ。
つまり、国際宇宙ステーションを守ること。
こっちも依頼として受けているのだが、これは成功報酬である。
さすがに、守り切れるって言い切ることはできないし、このあとは月面の後始末が待っているからさ。
「月の槍についても、地球では対応不可という結論に達したそうですが、そちらはどうするのですか?」
「別途、契約だよ。何を代価に寄越すのかは、これからの話し合いってところだろうさ。どのみち、俺たちが月面調査を終わらせない限りは、月面開発なんてできないだろう?」
ゴキゴキッと腕を回しながら、マーギア・リッター『カリバーン』に向かう。
すでに長距離移動用ブースターも追加されているので、安心して宇宙に飛ぶことができる。
「それじゃあ、行ってきますか。成功報酬は『月の未確認飛来物』の残骸、この前のやつは国連にくれてやったけど、今回のはまとめてこっちのものだ」
『ピッ……解析結果としては、ミスリルを加えて合金化する事で、アダマンタイトと同等の硬度を持たせることができます』
「よし、これで暫くは魔導転送装着で資材を買う必要がなくなる……カリバーン、出る‼︎」
──ゴゥゥゥゥゥゥ
ゆっくりと背部スラスターを吹かしつつ上昇を開始。
そして宇宙ステーションへと軌道を変更すると、急ぎ宇宙空間まで飛んでいった。
………
……
…
目の前では、巨大な球形生体金属が飛んできている。
インターセプト隊の作戦は失敗したので、速やかに第二作戦に切り替わる。
まあ、月の槍攻略戦の段階で、マーギア・コレダーの情報は届いていた可能性があったのでね。
通信じゃなく、情報の共有という意味で。
そんな事になった場合の切り札、俺。
「それじゃあ、最終戦と行きますか」
カリバーンの右手に魔力を集め、『悪魔の右手』を発動する。
そして、真っ直ぐに飛んでくる真球目掛けて、カウンターの一撃を叩き込むために加速を開始した‼︎
──キィィィィィン
宇宙空間だから、音は響かない。
相対速度を考えても、正面からぶつかった場合はどちらかが砕け散るか、どっちも粉砕する。
「まあ、真正面からやりあう気はないよ‼︎」
直線軌道から背部スラスターの角度を変えて横に飛ぶと、目の前を通り過ぎる生体金属球に向かって右手を突き出す‼︎
「ライトブレイク‼︎」
──ドゴォォォォォッ
宇宙空間なので、音は響かない。
錬金術の『分解』をまとった右手が生体金属の胴部に突き刺さる。
触れる先から分解していくため、抵抗もなく右腕が突き刺さると、ミサキはすぐさま|解析(アナライズ)を発動し、解析を始める。
──ビシビシビシッ
宇宙空間なので音は響かない。
生体金属の表面が鱗状に変化すると、至近距離からカリバーンに向かって鱗を射出する。
だが、それはカリバーンの胴体に突き刺さる前に停止した。
カリバーンのフォースフィールドが全てを受け止め、瞬時に磁界を発生させて鱗を無力化していく。
サテライトシリーズでは不可能な、カリバーンならではの技である。
──ピッピッ
生体金属はもがきつつも、直進を続ける。
すでに鱗を射出することもなく、表面で金属の槍を作り出して打ち出しても、カリバーンには届かなかった。
「……解析完了。トラス・ワン、やれぇぇぇ‼︎」
『……了解。停止コード送ります』
解析した生体金属の中のナノマシン群体目掛けて、トラス・ワンから放たれた『停止コード』を右手から放出する。
すると、それまでは抵抗していた生体金属が停止し、鱗状の表面もスッキリと消滅した。
「トラス・ワン、このまま解析をそっちに回すから、こいつらのコントロール権を奪えるか?」
『……解析開始します。並行して、制御コードを製作し、送り出します』
「よろしく‼︎」
ここから先は時間の勝負。
生体金属が停止コードに対してのカウンタープログラムを構築するのが先か、こちらがコントロール権を奪えるか。
幸いなことに抵抗は無くなっているので、スラスターを使って国際宇宙ステーションへの軌道から外れるように誘導することもできた。
「さて、こっちからもバックアップしますか。もう一丁、|解析(アナライズ)‼︎」
さらに深層に潜り込み、球体の中心にある『核』にアクセスする。
そこが中枢であり、月面で全ての金属生命体を統括していた『管理者』であることは理解した。
「……なるほどなぁ」
彼らが銀河系までやってきたのは、今から一億五千万年前。
彼らの主人達が、滅びゆく星から逃げて新天地へと向かうために放たれたのが、この『管理人』による恒星間探査システム。
幾多もの星系を旅し、主人達が居住可能な惑星を見つけては、調査を行っていたらしい。
太陽系にやってきたのはこの個体のみであり、地球に目をつけて月面での調査を始めていたのである。
「直接、地球に降りなかったのは……ああ、降りて調査していた個体もいたのか」
残念ながら、地球圏での調査と月面からの遠隔観察、そしては地球圏衛星軌道上に飛んでいる『観測者』により、地球は移住に適切ではないと判断。星の進化を待って、再度調査を始めることにしたらしい。
「……一千万年前から、母星との連絡はできなかった……そうか、滅んだことは理解していないのか」
今から一千万年前には、彼らの主人達の母星は崩壊した。
宇宙船で脱出したもの達は、新たなる星を探し、恒星間観測システムが発見した星々を旅して、新たなる新天地に向かっていったらしい。
そして、人類が月面に到達した日、彼らはゆっくりと活動を再開した。
月の各地に置かれているマーカーを理解できる人類が生まれたことを知り、主人達のために、原生体の処理を始めようとしたのである。
アマノムラクモがいなければ、彼らは地球圏を制圧していたであろう。
「……トラス・ワン、解析完了だ。もう、こいつらは、休ませてやる。長い旅だったよな、おつかれさま」
──ピッピッピッ
カリバーンの右手から、彼らの意思が届く。
主人達のために。
彼らのために、新しい故郷を探したい。
主人達が待っているから。
「だいじょうぶだ。お前達の主人は、ちゃんと新天地に到着している。子孫も残した、今も、新しい故郷で、静かに生活しているよ……」
──ピッピッ
生体金属から聞こえる波長が弱くなる。
やがて、彼は沈黙した。
長かった任務を、終えることができたのを、ようやく理解したのである。
「じゃあな……」
──シュンッ
ミサキは、金属生命体を|無限収納(クライン)に回収した。
すでに月面にも、彼らの施設は残っていない。
そして監視者が停止したことにより、ブラックナイト衛星も観測を停止、物言わぬ、触れられないモニュメントとなって、周回軌道をゆっくりと巡ることになった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ミサキが謎の球体を停止し回収してから。
最後に残っていた月の槍も機能停止していたため、インターセプト隊に回収を依頼。
そのままアマノムラクモでインゴットに精製して、倉庫に収められている。
「……それじゃあ、戻しますので。三日間の休憩、お疲れ様でした‼︎」
国際宇宙ステーションから避難していたアストロノーツ六名は、三日間のアマノムラクモ本艦での休暇を終えて、避難カプセルに乗って再び国際宇宙ステーションへと送り届けられた。
何名かはアマノムラクモの設備に驚き、亡命を希望しそうになっていたのだが、やはり家族がいるので断念。
泣く泣く宇宙ステーションへと戻されることになった。
NASAからの依頼は全て完了となり、月の槍及び球形生体金属は正式にアマノムラクモの資源となる。
まあ、他国からは条約違反だなんだと言ってくるところもあったものの、そんなものは無視。
「どうせイギリスとフランスだろうよ?」
「イエス、マイロード。今回の月の管理者たちの一件では、流れに乗り切れなかった国がクレームを出しています」
「なんだよ、そりゃ」
「アマノムラクモと少しでもお近づきになれれば、という輩ですね。主に、国際宇宙ステーションに関係ない国々ですので、無視して構わないかと」
つまりあれか?
宇宙開発関係とは無縁だった国が、今回の事件に干渉できなかったから、月の槍とかの資源を手に入れられなくてごねていると。
知らんわ、どこの国だか知らんが。
『ピッ……日本国から、謝罪のメッセージが届いていますが、どう対応しますか?』
「……輸送船が到着したら教えて。謝罪は受け入れるけど、それだけ。ロスヴァイゼが未だに戻って来れないっていうことは、未だに日本は外交政策で揉めているんだろ?」
「まともに話し合いができていないとか。ロスヴァイゼは、一旦戻ってきて、また日本に向かうそうです。ミサキさまにお土産があるとかで」
「へぇ、日本のお土産かぁ……いいねぇ」
久しぶりのメイドインジャパーン‼︎
それは後日、ゆっくりと堪能することにしますか。
「さてと、そんじゃ、俺は少し篭るから。緊急時以外は取り次ぐなよ。それとオクタ・ワン、あの件の調査は終わっているのか?」
『ピッ……全て完了です。依頼されたデータと、該当者との照会も完了しています』
「ナイスだ、あとは任せろ」
そういうことで、俺は自分のラボに戻って、管理者の解析をさらに始めた。
まあ、その後でやることなんて、一つしかないけどな。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
月の槍事件から一ヶ月後。
トルコ共和国のとある地方。
一人の旅人が、その村に到着した。
「……こんな僻地に旅人とは、珍しいね。どこから来たんだい?」
村人は、旅人に優しく問いかける。
すると、彼は、涙を流しながら、一言だけ伝えた。
「ここから遠い場所です。私は、皆さんにお会いできて光栄です……すごく遠いところから来たのに、こんなに近くにいたのですね……ご主人さま……」
村人は、笑顔で彼を迎え入れた。
彼らは、長い間、祖先からあれを受け継いでいた。
彼らの先祖が、この土地にやってきたときに乗っていたと伝えられる船。
それが、聖地アララト山にある。
彼らは、この地で待っていた。
いつか訪れるであろう、友人たちのために。
「ゴル・ス・ナザリ・メイヤ……先祖から伝えられていた言葉だ。貴方には、わかりますか?」
それは、彼の主人たちの星の言葉。
彼は理解している。
それに対する、対になる言葉も。
「はい……|ただいま戻りました(ゲ・トン・リ・ドム)、|ご主人さま(ウー・スラ)」
何も変わらない。
ずっと、今までと。
ただ、村には新しい住人が増えただけ。
昔からの友であり、彼らの先祖の友人が。
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