第2話・機動戦艦アマノムラクモ‼︎
札幌上空に浮かぶ巨大な飛行物体。
この突然の出来事に、北海道はもとより日本政府も、その対応に追われることになった。
同時に、札幌市内の報道各局が一斉に報道ヘリを飛ばし、上空から飛行物体の撮影を開始した。
最大全長は2500mの、鋭角の鋭い二等辺三角形型。
一番分厚い部分の高さは500mはあろう。
後部の幅は1500mほど、わかりやすく説明すると、『艦橋部分のないスターデストロイヤー』といえば、スターウォーズファンなら、ご理解いただけるだろう。
違う点は、この船体らしき部分の上下には、無数の砲塔が備えられている。
我が日本国が誇る戦艦大和、その口径を遥かにうわまわる砲塔が、上下左右合わせて四〇門。
地球人のサイズに合わせたかのような窓らしき部分も見られることから、この内部には生命体が、それも高度な知性を持つものが存在している可能性がある。
その未確認浮遊物体の周囲を、多くの報道ヘリが旋回を繰り返しつつカメラを回している。
………
……
…
「これは異常事態です。何処の国のものかもわからない飛翔物体が、札幌上空にうかんでいるのですよ? すぐに自衛隊なり在日米軍なりに出動要請をするべきではありませんか?」
「すでに防衛省から、緊急出撃要請は出ています。今は、この飛行物体の周辺の人々の避難を誘導するのが先決と思われます。まさか、札幌市上空で空対空ミサイルを放てと? 地上から地対空誘導弾を打てというのですか?」
この異様な事態に、日本国政府は緊急事態宣言を発令。すぐさま航空自衛隊からもE-2C早期警戒機が出撃し、この未確認浮遊物体の周囲を旋回しつつ情報の収集を開始していた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
一方、機動戦艦アマノムラクモでは。
「はわわわわ、どないしよ。あれって自衛隊の偵察機だよね? ヘリも局地戦闘ヘリとか、あ〜!報道も集まってきたわぁ‼︎」
モニターに映っているのは、映画でよく見る光景。
未確認飛行物体が現れて、緊急出撃するあれだよ。
札幌市上空、ちょうど真下が大通公園ってことはだ、少なくともいきなりミサイルをぶっ放してきたりはしないだろう。
けれど、ヘリで近づいてきてさ、アマノムラクモに飛び乗って潜入されて捕まったりしたら、俺、犯罪者だよ?
「うわぉ、ええっと、制御コンピュータさんや、この船って自衛できる?」
『是。私は魔導頭脳。呼称はオクタ・ワンです』
「オクタ・ワンさんや、いきなりヘリが取り付いて侵入されたら、なにか対処方法ある?」
『是。船体表面に魔力波長によるバリアを形成することで、内部に潜入することはできなくなります。同時に、この世界の物理的な攻撃に対しては、全てを無力化できます』
「それだ‼︎ そのなんとかバリアを頼みます」
『了解。フォースフィールド展開……』
ふぅ。
これで迎撃される心配は無くなったし、突入部隊による制圧戦も無くなった。
でも、いつまでもここにいると、市民の皆さんの迷惑千万間違いない。
それなら、何処か広い場所に移動するのが得策だよなぁ。
「オクタ・ワンさんや、移動できる?」
『是。座標指定による自動航行、ブリッジからの視認による指定移動、私オクタ・ワンによる全自動航行、そして、キャプテン・ミサキによる手動操縦とあります』
「……地図広げて……ええっと、俺の世界の地図ってわかる?」
『GPSに介入……データの習得完了』
「なにを、いきなりハッキングしているの? まあ、やっちまったものはしゃーないけど……。とりあえず、石狩湾へ向かって移動。その沖合の上空に停泊してくれるか?」
『是。大気圏内巡航移動開始。速度は時速60kmで固定。周辺の障害物の削除を開始しますか?』
オクタ・ワンが説明すると同時に、モニター上には、ターゲットロックされた報道ヘリの映像が映っている。
待て待て、なんでいきなり攻撃する気なの?
「まっまてまて、攻撃中止。こっちからの攻撃はなし、そもそも装備なんてあるのか? 俺、この船の内部システムや搭載機兵器なんて……あ〜、あるわぁ」
頭の中には、さっき刷り込まれた【機動戦艦・説明書】が入っていますわ。
78口径・三連装魔導パルスカノン。
フォースバルカンカノン
時空潜航型誘導弾
その他もろもろ。
ついでにいうと、とんでもないものまで搭載しているよ。
全高14mの人型兵器。
巨大なロボットというか、戦闘用強化ゴーレム。
うん。
神様、これ返品したい。
俺、俺、死んだところからやり直して、普通の生活に戻りたいわ。
「こんなの、ひとりでどうしろっていうんだよ‼︎」
『ピッ……サポート用ゴーレム及び戦闘用ホムンクルスの作成を推奨します。機動戦艦アマノムラクモの制御は、私オクタ・ワンで可能ですがね、ふふん』
「錬金術かぁ……あの、人を作るのって禁忌じゃないの?」
『人ではありません。ホムンクルス、使役生命体です。完成したら、ちゃんとなまえをつけてあげてくだいね、そうすると喜びます』
「知らんわ‼︎ なんだよそれ、名前をつけたら愛着が湧くだろうが」
『是。マスターは、ホムンクルスを自爆特攻させるような方ではないと認識していますが、万が一の保険です……』
うわぁ、オクタ・ワンが怖いわ。
まるで人間のような思考回路持ってるわぁ。
魔導頭脳というのも、伊達じゃないのか。
『ピッ。あとの移動は私にお任せください。お腹が空いているようなので、食堂へどうぞ』
「なんで、俺の空腹まで見透かしているの?」
『ピッ……人は、空腹になると怒りっぽくなります』
「その程度で怒りまくるのなら、国会の野党なんて常に飢餓状態だわ」
『ピッ……人が話をしているときにギャーギャー騒ぎまくっている時点で餓鬼です。子供の時の道徳の時間に、一体なにを習っていたことやら。人が話をしているときに騒ぎまくる奴らが国会議員とは……』
「あの、オクタ・ワンさんや。なんで日本の情勢に詳しいの?」
『ピッ……先程、衛星をハッキングしたときに、地上の放送関係のデータベースにもついでにアクセスしました、テヘ』
もう、いいわ。
さすがに腹が減ったから、食堂にでもいくとしますか。
エレベーターで降りて……と。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「未確認浮遊物体は、現在ゆっくりと移動を始めました。その目的地は不明ですが、明らかに知的生命体が存在しているかと思われます。我々地球人以外に、知的生命体が存在している。これが、いったいなにを意味するのか……」
テレビでは、何処のチャンネルも緊急報道として謎の浮遊物体の特番を放送している。
まあ、一局だけは何事にも動じず、ニチアサのアニメ『二人はマスキュラ、ワールドツアー』を放送しているが。
そんな平和な日本とは違い、世界各国では、この未確認浮遊物体についての論議が行われている。
──アメリカでは。
「まだスターウォーズ計画は発令していない。にも関わらず、日本が我々よりも先に巨大飛行戦艦を建造したというのか?」
アメリカ大統領、パワード・ブレンダーは集まった官僚に向かって怒鳴り散らしていた。
我がアメリカこそ、世界を導く存在である。
それを率先するために、かなり無茶な政策を押し倒してきた。
軍事的優位に立つための政策、新型空母や戦闘機の開発など、他国の追随を許すことなく進めてきた。
にも関わらず、まさかの、我々アメリカの庇護下にある日本が、我々よりも先にあのような物体を作り出すとは何事か?
「サー・プレジデント。日本国の公式声明では、あの飛行物体は日本国所有ではないと申しております」
「では、何処の所属だ……いや、いい。日本の防衛大臣に連絡をいれろ。日米安保条約により、我がアメリカが率先して未確認船を捕獲すると」
「サーイエッサ。三沢基地と沖縄の海兵隊にも連絡をいれておきます」
敬礼ののち、官僚たちはすぐに部屋から出て行った。
「巨大な飛行物体。あのテクノロジーは、日本にはやらん。それこそ、我がアメリカが使うのが正しい道だろうが」
暴走する大統領の異名を持つ、パワード大統領。
口元にいやらしい笑みを浮かべつつ、椅子に座ってモニターをつけると、日本の緊急報道をゆっくりと眺めることにした。
──ロシア
「日本から、あの物体は日本のものではないという報告を受けています。どうしますか?」
外交官からの報告を受けて、ロシアのフーディン大統領は笑みを浮かべている。
技術大国である日本。
そこが作り出した超兵器であると思っていたら、まさかの『無関係』という報告が届けられたのである。
「すぐさま在日ロシア大使館に連絡をしろ。我がロシアは、日本と共同であの浮遊物体に対する防衛、及び必要ならば攻撃を補助すると」
「了解。しかしですね、日本がこちらの提案を受け入れるでしょうか?」
「受け入れさせるのだよ。切り札はこちらにいくらでもある。あの浮遊物体がオーバーテクノロジーの集合体であったとしたら、あのちっぽけな四つの島などくれてやる。いいな、それぐらい、あれは価値があると思え」
フーディンの言葉は絶対。
すぐさま集まっていた閣僚たちは自分たちの持ち場へと戻っていった。
──中国では
「あれは、我が国のものだよな? なんらかの理由で、領土侵犯してしまっただけだな?」
中国最高指導者である
日本からの公式声明では、あれは未確認物体であると。それなら、我々のものであると宣言し、すぐさま軍を送り込んで回収すればいい。
「しかし、そうなると日本国の領土を侵害したことになります。そうなった場合、今後の外交問題にも発展するかと」
「外交問題? そんなものはない。あの物体が何ものかわからないが、日本の動き、ロシア、アメリカの動き、それがわかった時点で、あれは十分な脅威であると認識した。あれは、オーバーテクノロジーの固まりだ。宇宙から流れてきた、異星人の船だ」
発想が八艘飛びしている
この国では、主席の言葉は絶対である。
すぐさま幹部たちは日本に打診すると同時に、保有する軍艦に対して、一斉に出撃するように命じた。
「軍を動かす理由は?」
「我が軍の部隊が、新型兵器を持って逃走したとでも伝えておけ」
野心なくしては、中国の首席は務まらない。
この即決力と行動力こそが、今の中国を引っ張る力であると、
──韓国はというと
「あの浮遊物体は、我が国が起源、我が国のものだよな?」
「ネットでも噂されているよ? あれは日本が奪った我が国の超兵器だって」
「マジか、最低だな日本。早く、我々エリートである韓国の属国になればいいのに。今の政府はなにをやっているんだよ?」
そんな適当な、証拠もなにもない噂が走りまくる韓国のネットワーク。
だが、それとは別に、韓国政府の腰は重い。
「はぁ……日本に対しては、常に上から目線で外交しないと私の支持率がヤバいのに。これ以上、私の胃が痛くなるようなことをして欲しくなかったのに……」
ギリギリと痛む胃袋を押さえつつ、韓国の
我が国と隣国日本の仲は最低レベルであると断言できる。
それは、まあ、様々な問題があったのだが、我が国には一つも非があるとは思えない。
それよりも、国内の私の支持率の低下が心配だ。
今はまぁ、日本が悪い、日本を許すなと日本叩きをしていれば、ある程度の支持率は受けられる。
だが、それはごく一部の人民にしか通用しないことも理解している。
一昔前の、手を取り合える隣人であった日本を知る者たちからは、私の方策は批判しか受けていない。
本当に日本を知っているもの、日本の報道が作り出した『虚偽たる真実』が真っ赤な嘘であることを知るものたちには、私は歴史上最悪な大統領と見られるだろう。
それでも、そのような発言は全て封じてきた。
いや、封じているのは部下であって、私はなにも、手を下してはいない。
「はぁ….とりあえず、日本には話を通しておくか。その『浮遊物体』は、我が国が作った秘密兵器であり、後日回収するので手を出すなと」
「大統領、ちょうど今しがた、中国の
──ダン‼︎
「先を越されたかぁ……ならいい、我々は中国に乗る。そう返事を返しておいてくれ」
「了解致しました」
はぁ。
また出遅れたよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「いくら丼ウマ〜」
食堂にまできてみても、厨房でおじさんおばさんが作っている雰囲気はなくて。
ほら、昔のドライブインってわかる?
うどんやら蕎麦やらラーメンやら、しまいにはハンバーグ弁当とかザンギ弁当まで、全て『自販機』で売っていたやつ。
あんな感じに自販機が並んでいてさ、ボタンひとつで三分以内に出来上がるんだよ。
硬貨を入れる場所はあるんだけど、俺が入れようとしたときに『マスターはフリーです』という音声が聞こえてきてな、今、ここ。
「しっかし、なんで、こんな巨大戦艦で生の新鮮ないくら丼が食えるのやら。まあ……食料プラント区画もあったから、野菜とかはそこで栽培しているんだけど……肉や魚とかは、何処なんだろ?」
お茶を飲みつつ考える。
まあ、頭の中の館内見取り図では、温泉旅館もゲームセンターもあるし、小さいながら街もある。
ここはマクロスか?
そんなツッコミをしたくなるんだけど、肉や魚だけは、『魔導転送プラント』というところに送られてくるらしい。
何処から?
まあ、よくわからない未知の世界か?
『ピッ。動物性タンパク質及び艦内で製造不可能なものは、全て提携店からの仕入れとなります。なお、お金は掛かりません。神様払いです』
「うん、オクタ・ワン、君の言葉がわからないよ。提携店ってなに?」
『ピッ……カナン魔導商会及びウォルトコグループです。その他、35社の提携が行われています』
ウォルトコはわかる。
アメリカの巨大マーケットグループだろ?
元々は戦争中に傭兵相手に戦闘機や兵器を売って財を成した老人がつくったマーケットだろ?
でも、他のは知らんわ。
なんだよカナン魔導商会って、魔導ってついている時点で怪しいわ。
『ピッ……まもなく石狩湾です』
「了解。一休みしたらブリッジに戻るから、フォースフィールドは常時展開していて」
『ピッ……了解です』
「あ、ちなみにフォースフィールドって、人間が触れても問題ないの?」
『ピッ……目に見えない壁として認識されています。まあ、万が一に破られたとしても、このオリハルコン積層構造による船体装甲、太陽がぶつかっても象が踏んでも、百人乗っても大丈夫です』
だんだんと規模が小さくなるんだが。
象が踏んでも大丈夫と、百人乗っても大丈夫って、どっちが丈夫なんだろう?
まあ、いいか。
とっととブリッジに戻るとしますか。
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