【完結】機動戦艦から始まる、現代の錬金術師

呑兵衛和尚

はじまりの物語

第1話・異世界トラック事故案件、待ったなし‼︎

 俺は……死んだ筈。


 冒頭から、こんな書き出しで始まる小説を、俺は何度も読んだことがある。

 まあ、俺 俺が死んだ理由も、その小説の内容と似たり寄ったりだったよ。

 残業残業の山、上司に媚びて部下を使い潰す課長。

 結婚適齢期を迎えた俺を、両親や親戚が放っておくはずもなく、連日連夜のお見合い騒動。

 よくいるでしょ?

 親戚の中に、仲人をするのが大好きな人。

 その人が、次のお見合いを成立させるとちょうど100組目らしく、今回のお見合いは是が非でも成立させたいとかで。


 その結果、白羽の矢が俺に突き刺さりましたよ。

 それで仕方なしに故郷に帰る途中、雪深い峠道でのカーブ。

 突然のホワイトアウト。

 前から走ってくる、運転手が居眠りしてたトラック。

 これでスリーアウト、この世の人生をチェンジ。

 ああ、トラックの運転手さんの、意識が戻ったらしい表情と、口パクが、今でもはっきりと記憶にありますよ。


『やっべ、居眠りしてターゲット間違えたわ‼︎』


 え?

 なにそれ?

 そして突然の衝撃。

 俺の運転していた車は、哀れ崖下にダイビング。

 その前に、ちらっと見えたトラックの荷台の文字。

 畜生、生き残って、あんたの会社を訴えてやる。

 でもさ、死の直前の意識って、思ったよりもはっきりとしていますよね。

 でも、書いてあった会社名。

 あれは頂けません。


『有限会社・異世界トラック。どんな魂もお客様の元へ直送します』


 は?

 はぁ?

 はぁぁぁぁぁ?


 巫山戯るなよ、なんでここにきて、俺がラノベを体験しないとならないんだよ。


………

……


 白い空間。

 天も地もない、ただ真っ白な空間。

 その中に、俺は立っていた。


『……あ、いらっしゃいませ。ようこそ、天と地の狭間、魂の安息の地へ。貴方はこれから、天国と地獄、どちらに向かうのか診断を受けます』

「いやいや、そこは、閻魔大王の裁判があるんじゃなくて?」

『あは。閻魔大王はですね、今日は裁判が多すぎて手が回らないそうです。ですから、貴方のようなイレギュラーな方の魂の診断は、我々、統合管理神が行うことになっているのですよ』

「そうですかそうですか。それじゃあ、お願いします」


 俺が挨拶をすると、声の主らしき女性がス〜ッと姿を表した。

 そして手にしたバインダーを俺に差し出すと、一言だけ。


『では、まずは簡単なアンケートです』


 まあ、なにが起こるのかと思ったら、アンケートですか。

 とりあえず、各項目を確認。

 普通に住所氏名とか各項目があるのですが、これってアンケートというよりも履歴書ですよね?

 賞罰とか職歴もありますし。

──ピッ

 あ、性別欄を間違えちまった。

 男なんだけど、女に丸つけちまったよ、なんで日本の書類とは別表示なんだよ? 女性が先ってあれか? フェミニスト対策なのか?

 天界もフェミニスト対策する時代とはなぁ。

 大体10分ほどで殆ど書き終わったので、最後の項目欄の記入。


『死亡原因』


 正直に書いてもいいか。

 トラックに追突されて、崖から落ちました。


 はい、これで完了。

 

「これでいいですか?」

『はい、確認します……』


 そう告げると、神様は自分の机に書類を持っていくと、パソコンを起動して作業を始めた。

 その机、いつ出したんだ?

 そしてしばらく経つと、神様が、何か乗っている小さなトレーを持ってきた。


「では、異世界転生ボーナスを決定しますね」


 右手を高らかに挙げる神様。


──ジャラララララ……ジャァァァン‼︎

 演出過多とも思える、華麗なドラム音が響く。

 すると彼女の真後ろに、巨大なダーツの的が浮かび上がった。

 よく見ると、的は細かく分割されており、そこに数字が記されている。

 いや、数字以外にもカタカナ三文字があちこちに見えるんだけど。


「これって、ダーツだよね? あの数字は多分、スキルに割り振られたものだとは思うんだけどさ、確率1/2にある『タワシ』って何?」

『タワシですよ。ほら、貴方たちの世界じゃ常識ですよね。遊び心ですよ』

「人の人生を左右するものに、タワシを入れられると困るんですが」

『……君みたいに、真面目な反応をする人も久しぶりだねぇ。大抵のやつは、この、タワシの部分に思いっきりツッコミを入れてきてね、それを楽しみにしていたのにさ』


 そんなことを不満げにつぶやかれても困るのだが。

 そして、トレイから手渡されたのは!金のダーツが三つ、銀のダーツが三つ、銅のダーツが三つ。


『それを投げて、当たったところの能力やアイテムがもらえる。因みに的を外すとペナルティスキルがランダムに当たるから、そのつもりでね』

「ペナルティって、例えば?」

「性転換。戻りたかったらわざと外さないとならないからね。つまり、それだけで二つ損するから』


 うわぁ。

 これは本気でやらないとならないぞ。

 気合を入れて……GO‼︎

 

 最初は銅のダーツから。

・初期異世界セット(自動翻訳スキルと初期装備)

・所持金ボーナス(銅なので、プラス一桁)

・基礎魔力   (銅なので、プラス一桁)


 続いて銀のダーツ。

・鑑定眼(銀なのでレベル5)

・錬金術(同、レベル5)

・錬金術(ダブったので+5、合計レベル10)


 最後が金のダーツ。

・能力値ボーナス(金なので、全てプラス二桁)

・錬金術 (さらにダブったのでオーバーリミット)


 そして最後の一本が、的のど真ん中に命中した。


『カラーンカラーン。おめでとうございます、ど真ん中はスーパーアビリティ。神にも等しいスーパーチートです‼︎』

「はぁ、それで何が貰えるのですか?」

『それはこちらです』


 そう叫ぶと、さらに細かく区分されているダーツの的が現れた。

 よく見ると、そこには『賢者の資質』とか、『神世の鍛治師』、他にも『伝説の聖剣』やら『公爵家の血筋』なんていうのも記されていた。


「これって?」

『それは、貴方の職業やアイテムです。一般的な人の職業、つまりジョブは村人とか、農民とか、生活スキルの中の最も高いものが自動的に与えられます。今のままですと、『錬金術師』か『冒険者』になりますねぇ』

「……イメージ的には中世ヨーロッパのような感じか。随分とファンタジー要素もあるようだが」

『お、そこは分かるのですね?』

「姉さんがゲームを持っていたので、聞き齧り程度なんだよ。それで、最後の的に投げればいいんだな?」

『はい、どうぞ。ちなみに外したら『タワシの伝道師』になりますので』

「なんだよ、そのタワシの伝道師って‼︎」


──ズドーン

 思わず全力で的に向かって投げたわ。

 そして的がゆっくりと止まると、見事にトリプルの的に命中。


『おめでとうございます‼︎ ゴッドアイテムの『機動戦艦』が貴方に付与されます。異世界最強の機動戦艦、これさえあれば列強国など恐るるに足らず、世界征服も夢じゃありません』

「……なんで、機動戦艦?」

『まあまあ、あとがつかえていますから、とりあえずこちらに受領印をお願いします。拇印でも構いませんよ』


 どこからともなく取り出した書類。

 確かに『付与スキル及びアイテムの受領書』と書いてある。

 まあ、変更なんてないだろうし、ここでゴネても碌なことにならないだろうから。


──ポン

 親指を出して朱肉をつける。

 そしてポン、と押したら、書類が光になり、俺の体の中に入ってきた。


『はい、これで完了です。それでは、これより貴方を異世界に送ります……ごほん、トラック事故で非業の死を遂げた貴方ですが、異世界ではきっと幸せが訪れフベシッ‼︎』


──スパァァァァァン

 突然、白い世界に亀裂が入ったかと思うと、目の前にさらに神々しい女神が姿を表した。

 両手装備のような、巨大なハリセンを持って。


『こらファスニール、この人の死因についてはちゃんと確認した? トラック事故でって書いてあるけど、さっき、異世界トラックの責任者が頭を下げにきたよ?』

『え? この人って、異世界トラック案件だったのですか?』

『ちっがうから。異世界トラックの運転手が居眠りして、別の、全く関係ない人を轢き殺したらしいのよ。しかも、それでノルマをクリアしようと誤魔化したらしくて、転送先の創造神が異世界トラックを訴えたのよ』


 なんだか、俺を無視して世知辛い話しているよなぁ……嫌な予感しかしないわ。

 

『そうなのですか‼︎ あ、まだこちらの『異世界転生許可書』のサインは貰っていません、では、戻しますね、バーイ・サンキュー‼︎』

『待て待て、まだ加護を引っ剥がして遅かったかぁぁぁ』


 あ、俺の身体が光ってるわ。

 まあ、元の世界に戻れるのなら、それはそれでよし。

 異世界転生も楽しそうだったけどさ、元の世界の方が好きだからね。


──シュウンンンン‼︎



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



『ピッ……ピッ……ピッ……』


 なんの音だ?

 電子音だよな。

 スマホのアラームか?

 もしそうだとすると、今までの話は、全て夢だよ。

 そっか。

 まあ、夢でも楽しかったわ。


「あ〜。それじゃあ、今日もくだらないブラック企業に出社しま……す……かぁ?」


 ベッドから起きていつもの日課。

 そう考えていたのだけれど、目の前はなにかの部屋。

 よくあるアニメの、戦艦のブリッジ。

 ガバッと立ち上がって周りを見渡すけど、間違いはない。


「さっきの夢は、現実かぁぁぁぁ‼︎」


 思わず叫んだよ。

 甲高い声で。

 甲高い? はぁ?


「えええ、待て待て、現実を確認しよう。ここは戦艦なのか? さっきの話で出てきた機動戦艦なのか?」


『オペレーションセンターより。マスターの覚醒を確認。マザーシステムに移行します』

『了解、マザーシステムより魔導頭脳へ移行。これより先は、マスターの指示に従いなさい』

『了解。こちら魔導頭脳『オクタ・ワン』。マスターの登録を行います、マスターはキャプテンシートへ』


 部屋中から声がする。

 そして振り返ると、確かに部屋の中央にシートが浮かんでいる。


「これか?」


 恐る恐るシートに座ると、目の前にスクリーンが次々と浮かび上がったよ。


『ピッ……アストラルサーチ開始……マスターの魂を、機動戦艦に接続。これより、機動戦艦はマスターの所有物であり、マスターの分身となりました。マスターの名前を登録してください』


 ふむふむ。

 この目の前のスクリーンだな。

 これは異世界転生ものでよくある、ステータス表示か。

 名前はまだ未登録で、性別は女。

 え? 女?

 なんで女?


「ちょいとまて、なんで俺が女なんだ?」

『ピッ……登録された魂の履歴書『系譜』には、女性と登録されています。それに伴い、転生体を構成する際に、性別は女性に変換されています』

「……あの、もう変更は……」

『統合管理神ファスニールが、貴方の系譜を受諾しました。変更は不可能です』


 マジかぁ。

 いや、それならしゃーない、無理なものは無理なので諦めるか。

 別に身体が女になったからといって、俺が変わるわけでは……あるよなぁ。


「名前か。俺の名前が天童幸一郎だから、そのままというわけにもいかないか」

『ピッ……貴方の肉体は死亡し、現実世界での火葬も終わっています』

「つまり、俺の戸籍は存在しないと。それで、俺は女として生まれ変わり、この巨大戦艦を手に入れたんだな?」

『はい。名前の登録で完了です』

「名前……ミサキ。俺の名前は、ミサキ・テンドウ。漢字で書くと、天童美咲だ‼︎」


 昔、親父が話していた俺の名前。

 男だったら幸一郎、女だったら美咲だって話していたから。


『ピッ……登録完了。キャプテン・ミサキ。この機動戦艦の名前を登録してください』

「機動戦艦……』


 やべぇ、ナデシコって言いそうになった。

 他にもヤマモトヨーコとか、機動戦艦というとアニメの知識が爆走する。

 それじゃあ駄目だよ、オリジナリティがないからね。


『機動戦艦……名前……』


 神様から貰った機動戦艦。

 神様かぁ。

 そう考えると、ふと、一つの単語が頭をよぎった。


『この機動戦艦の名前は……天叢雲。機動戦艦アマノムラクモだ』


──フウィィィィィィン

 俺が名前を宣言すると、室内外一斉に輝いた。

 そして、頭の中に、この機動戦艦の扱い方、見取り図、装備、全てが入ってきた。

 俺のいた場所はメインブリッジ。

 

「モニター展開、外を映し出してくれ」

『了解。フルモニター、オープン‼︎』


 正面、側面、上下にモニターが広がる。そこに見えていたのは、札幌市の大通り公園。

 機動戦艦アマノムラクモは、札幌市上空に浮かび上がっていた……。

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