61話


 「それじゃしゅっぱーつ!」


ある日曜の朝、深愛姉に叩き起こされた俺は脳がほとんど動いていない状態で

バイクの後ろに深愛姉を乗せて駅前のショッピングモールに行くことに。

目的は買い物でもなく、深愛姉が好きなデザートではなく……


モールの最奥にある映画館だった。

中に入ると日曜の午前中だからか中に入ると何組もの親子連れが縦横無尽に歩いていた。

映画館の案内に載っているタイトルには見覚えのあるタイトルと身の毛もよだつ

一枚の絵が載っており、キャッチコピーには『地球人も宇宙人も驚愕した!』と書かれていた。


「……まさかとは思うけど、これじゃないよな?」


俺は恐る恐る深愛姉に聞く。


「違うよ、こっちだよー!」


そう言って深愛姉が指を指したのは……


「……マジ?」


日曜の朝に絶賛放映中、対象年齢が女子小学生に大人気のアニメ。


「うん!」

「……何かの罰ゲームでもうけてるのか?」

「違うよー! 小さい頃から琴葉と一緒にずっと見てるんだよ!」


深愛姉は迷いのない笑顔で答える。


「で、それは良いとして……なんで俺を連れてきた?」

「特典が欲しいから!」


そう言って深愛姉はスマホを俺に見せてきた。

映っているのは、これから見る映画のホームページ。


「ここに特典のこと書いてあるでしょ?」


深愛姉が華やかにデコレーションされた人差し指で画面を指した箇所に

『特典はこちら!』と書かれていた。


「入場時にペンダントとブローチどちらか1点差し上げます……」

「今日が上映最終日だからどうしても欲しかったの!」

「つまり、俺は特典のために連れてこられたと……」

「もー! そういうこと言わないの! 悠弥も絶対に楽しめると思うよ!」


深愛姉は小動物のように頬を膨らませて怒る。

俺は聞こえるようにため息をつきながら、わかったと諦めを込めた返事をする。


チケットは事前に買っていたようで、受付にて座席が載ったチケットと交換を

行い、飲み物を買ってから入場口へと進んでいく。


「私はブローチを選ぶから悠弥はペンダントね!」


俺の前に並ぶ深愛姉はよほど楽しみなのか、俺を見る表情から感じることができた。


「……わかったよ」


入場口でスタッフにチケットを見せると


「特典はどちらになさいますか?」

「……ぺ、ペンダントで」


震えながら答える俺に対して、スタッフは表情を変えないまま

スタッフの目の前にある机から指定の特典を取り出して俺に渡す。


「右奥の4番のスクリーンになります。どうぞお楽しみください」


俺はスタッフの案内通りに目的のスクリーンに向かっていく。


「あ、悠弥! こっちこっちー!」


大きく『4』と書かれた壁の前で深愛姉が俺の方を向いて大きく手を振っていた。


深愛姉の後をつきながら、中に入っていくと既に多くの人が指定の座席に座っていた。

大半が親子連れ、所々どう見ても俺や深愛姉より倍以上の年齢だと思われる男が1人だったり、2〜3人のグループもいたりした。

……うん、人の趣味はそれぞれだ。

そう思いながら自分達の座席に向かっていく。




「ごめんなさーい!」


俺たちの座席は列の中央にあるため、既に座っている人たちに声をかけながら進んでいく

ようやく自分達の座席に着く頃には若干の疲れが出てきていた。


「早く始まらないかなー」


座席に座ると深愛姉は待ちきれないといった表情でスクリーンを見ていた。


「もうすぐ始まるだろ……」

「始まったらあっという間な気がするんだよねー」

「……俺はものすごく長い気がするけどな」


背もたれにどっしりと全体重をかけながら答える。


「とか言って終わる頃には悠弥もハマってたりね」

「……それは絶対にない」


2人で話しているうちに明かりが消え、正面にあるスクリーンに映像が映し出された。


近日公開予定の映画の予告から始まり、ビデオカメラと警察官の寸劇による禁止事項の説明などが終わると、おそらく俺以外の誰もが待望の内容がはじまり出した。


少しして、主題歌が流れ出した時に俺はふと……思っていたことを呟く。


「……せめて9時からのヒーロー物だったらよかったのにな」





「おわっちゃったー!」

「長かった……」


エンディングが流れ終わり、辺りが明るくなると座っていた人たちが一斉に立ち上がって出口に向かって歩き出していた。


「俺たちも行くか……」


立ちあがろうとするが、右手を引っ張られる

もちろん引っ張っているのは隣に座っている深愛姉だ。


「急ぐ用事もないし、もうちょっとゆっくりしようよ」


そう言われて、仕方なく再び座席に座る。


出口の方を見ると長蛇の列ができていた。

この分なら出るまでに時間がかかりそうだ。

たしかに落ち着くまで座っていたほうが疲れなくて済みそうだ。



「楽しかったねー」

「……そうだな」

「なんかすごい不満そうな顔してない?」

「……察してくれ」

「そう言ってる割にはあのシーンではノリノリに見えたけど?」


深愛姉が言うあのシーンとは劇中、窮地に立たされた主人公が世界中から人たちから作品特有の力をもらうシーンがあったのだが、見ているこちらからも送って欲しいと案内があり、入場口でもらったペンダントやブローチを掲げていた。


隣の深愛姉はもちろんのこと反対側に座る親子連れ、座席に来る途中みかけた男性客までもが必死に掲げていた。

何とも言えない無言の圧に負けて、仕方なく俺も持っていたペンダントを掲げたのである


「……知ってたなら先に言っておいてくれよ」

「だって知ってたら面白みがないでしょ?」

「……面白みよりも覚悟が重要なんだけどな」


俺はため息をつきながら、目の前を見る。

先ほどまでできていた長蛇の列がなくなっていた。


「そろそろ出ようか!」


深愛姉も気づいたらしく、席から立ち上がっていた。


「そうだな……」




「どうもありがとうございました! またお越しください!」


入場口をでて、すぐに外に出ようとしたが深愛姉がグッズを買いたいと言い出したため

俺は人の少ない入口付近で待っていた。


昼が近いせいか、映画館の中は先ほどよりも人が少なくなっていた。

昼過ぎたらまた、人がごった返すだろうなと思っていた。

……できることならそうなる前に家に帰りたいが。



「おまたせー!」


しばらくして映画館のロゴが入った袋を持った深愛姉が戻ってきた。


「……おかえり、何を買ったんだ?」

「パンフレットとキャラクターのアクリルスタンド!」


深愛姉はそれぞれ商品を袋から取り出して、俺に見せてくる。


「……パンフレットって始まる前に買うんじゃないのか?」

「そうなんだけど、ネタバレもあるから買うのは終わってからにしてるの」


深愛姉は出したグッズを袋にしまいながら答える。


「それじゃ帰ろうか!」

「そうだな……」


ようやく家に帰れると思い、外に出ようとするが……


服を下に引っ張られる感覚がしていた。


「……なんだよまだ用事あるのか?」


俺は深愛姉の方を向く


「え? どうしたの?」

「だって今、俺の服を引っ張っただろ?」

「してないよー」

「え?」


俺と深愛姉は同時に下を向くと……


「ふぇ……! パパ……じゃない!」


見知らぬ女の子が俺の服を掴みながら今にも泣きそうな表情をしていた。


「……深愛姉、これってアレだよな?」

「うん、迷子だね」


家に帰れるのはもう少しかかりそうだなと思った俺は

自分でも気づかないうちにため息が漏れていた。



==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は5/11(水)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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