62話

 

 「えっと、この子迷子みたいなんです」


俺の服を掴んだまま今にも泣きそうになっている女の子を連れてスタッフの元へ行くと

深愛姉が映画館の女性スタッフに説明をしていた。


「えっと、お名前は?」


スタッフは腰を深く落として女の子の視線に合わせて話していた。


「のだ……いちか……」


女の子はまだ泣き止んでいないようで、鼻声で自分の名前を伝えていた。


「うん、ありがとう!」


スタッフは立ち上がると、胸元についていた無線機を使って話し出す。


「迷子の女の子です、名前はのだいちかちゃん。 緑のパーカーに白のスカートです」


スタッフが伝えるとすぐに迷子がいることを伝える館内放送が流れた。


「ご協力ありがとうございます、あとはこちらで対応いたしますので」


スタッフは俺らに軽くお辞儀をしていた。

あとはこの子の父親を待つだけなので俺達がいる必要はなくなったので

帰ろうとしていたが


「だめ……!」


いちかが俺の服を再び掴んでいた。

しかもかなり強く。


「いっちゃだめ……!」


目尻に涙を溜めながら俺の顔を一身に見ていた。


「……ダメって言われてもな」


助けを求めるように俺は深愛姉を見るが、ふふっと笑いながら


「もしかしてこの子、悠弥に一目惚れしちゃったのかもね」


と話していた。


「……冗談だろ?」





何とか理由をつけて帰ろうとするも、服を掴む手を離してもらえず

無理矢理離そうとすると、泣き出される始末。

仕方なく、先ほどの女性スタッフに話してこの子の親が来るまで俺たちもいることになった。


「ここおもしろかったね!」

「……そうだねー」


ただ待っているだけでは暇だっていうことで深愛姉が気を利かして

先ほど買った映画のパンフレットを出していちかに渡すが……


「ぷにあくあはものすごいかっこいいんだよ!」

「……へぇーそうなんだー」


事あるごとに俺に話しかけてきていた。

ずっと生返事をしている俺を見兼ねた深愛姉が会話の間に入る。


「いちかちゃんはプニアクアが好きなの?」

「うん! プニキュアの中でまりんちゃんが大好き!」

「たしかにまりんちゃん、可愛くて強いもんねー!」


いつの間にかいちかと深愛姉で会話が弾みだしていた。


ちなみにまりんというのはプニアクアの変身前の名前で

プニキュアメンバーの中で背が高く、中世的な顔立ちのため

女子に人気があるようだ。その見た目にも関わらず可愛いもの好きや白馬の王子が

自分の元に来るのを待っているといった乙女思考を持ったキャラだとか


……言っておくが、パンフレットに書いてあったのをそのまま

読み上げただけだらな。


深愛姉との話に夢中になったことでいつの間にか服を掴んでいた手が

離れていた。


「……それじゃ今のうちに」


深愛姉もそれに気づいたらしく、行こうとしている方を指差すと

声に出さず、軽く頷いていた。


俺は急いで映画館の奥にあるトイレに駆け込む。

……バイク乗る前に行っておこうとしていたが服を掴まれて動けなかったので

ずっと我慢していた。





「なんとかなった……」


トイレを済ませて2人がいるところへ戻ると

深愛姉といちかの他に薄いピンクのTシャツにジーパン姿の男性が立っていた。

手元を見るといちかと手を繋いでいる。

ってことはもしや……


「あ、悠弥! いちかちゃんのお父さんきたよー」


深愛姉が俺の方を見ると大きく手を振っていた。


「一果(いちか)の父親です、すみませんこの度はご迷惑をおかけしました」


まん丸の顔に突き出たお腹といった小太りの男性は持っていたタオルで額の汗を拭くと

深々と頭を下げていた。


「いいんですよー! ってそんなに頭をさげないでください!」


深愛姉は慌てていちかの父親に頭を上げるように促す。


いちかの父親は娘と一緒に俺たちと対応してくれた映画館のスタッフに頭を下げると

そのまま映画館の映画館の出口に向かっていく

そして、いちかは俺たちの方を向いて


「お姉ちゃん! ありがとう!」


と大きな声を出しながら大きく手を振っていた。


「……って俺にはなしかよ」

「フられちゃったね、悠弥がちゃんと相手してあげないからー」


深愛姉のからかいの言葉に俺はため息をつく。


「それじゃ私たちも帰ろうか!」

「そうだな……」


いつものように深愛姉は俺の腕を掴んできた。


「帰ったら今日の分、録画してあるからもう一度みないと!」

「ご自由に……先に言っておくが俺は見ないからな」

「えー! なんでよー!」


夕飯時に見る羽目になったのは言うまでもない。





「ただいまー……」


次の日の放課後、ショッピングモールの本屋で発売した漫画を買って

家に帰ると、深愛姉のとは別の革靴があった。


「学校指定の革靴……?」


そしてリビングからどこかで聞き覚えのある声と曲が漏れていた。

恐る恐ると、ゆっくりリビングのドアを開けると……


「がんばれー! 魔王なんてやっつけちゃえー!」


制服姿のままソファに座ってテレビに向かって必死に応援する深愛姉と


「いけっス! やるっス!」


深愛姉の隣で食いつくようにテレビを見て大声を上げる習志野の姿があった。


「あ、おかえり悠弥、ナギちゃんもプニキュア好きなんだって!」

「まさか深愛さんも好きだったなんて、感謝感激っス!」


俺に声をかけたと思ったら、すぐにテレビの方を見る2人


「……ごゆっくりどうぞ」


俺は2人に聞こえることはないだろう言葉をかけると

冷蔵庫から飲み物をとって早々に部屋に向かっていった。



部屋に入るとすぐに着替えて椅子に座って一息つく。

リビングと自分の部屋のドアをきっちり閉めたはずなのに

音がここまで聞こえていた。


「……自分の世界に入るか」


スタンドにかけているヘッドフォンを取り出しつけようとしたところ

机に置いたスマホが震えており、画面を見ると『佐倉和彦』と表示されていた。


「珍しいな、どうしたんだ?」


ヘッドフォンを元に戻して通話ボタンをタップする。


「もしもし、悠弥か?」


スマホのスピーカーが壊れるんじゃないかと思えるぐらいの大きな声が流れ出した。


「俺以外がでたら怖いだろ……あと、声でかいから」

『む、そうか? 周りがうるさいからついつい、すまんな』


どこかの部屋に入ったのか、ドアをバタンと閉める音が聞こえた。


『ここなら平気だな、それよりもどうだ深愛ちゃんと仲良くやってるか?』

「……それなりに」

『何だ曖昧な返事だな、いくら姉だからって迷惑ばっかかけるんじゃないぞ!』

「はいはいわかったよ、まさか説教するために連絡してきたのか?」

『そんなわけないだろ……』


そうだと言われたら問答無用で通話を切るけど。


「それで、どうしたんだ?」

『さっき深月さんと話して決めたんだけどな』

「なに?」

『今週末にそちらへ戻ることにしたんだ』

「え……?」


突然のことすぎて理解するのに少し時間がかかってしまっていた。



==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は5/14(土)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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