第35話


 「こんな時間にどうしたの?」


ユーイさんこと唯香さんはにこやかな表情で俺の顔を見ていた。


唯香さんとリアルで会うのはこれで2回目だった。

1回目はゲームでの会話で理人と唯香さんが近場に住んでいることがわかりその流れから会おうよ!

となったのがきっかけだったような気がした。

できれば2回目はまともな形で会いたかったけど……


俺はさっき追っかけてきた警官に見つかるのではないかと思い

のんびり話している余裕がなかった。


「うん? 誰か探してるの?」

「そ、そんなところですね……」


たしかに探しているけど、できることなら会いたくはない人だ

辺りを見渡していないことを確認するとホッと胸を撫で下ろす。


「あ、こんなとこにいたのか!」


ホッとしたのも束の間、先ほどの警官が奥の方から俺を発見し、

すぐに走ってきた。


「さあ、一緒にくるんだ!」


警官は俺の手を掴もうとするが、俺は必死に捕まるまいと抵抗をする


その光景を一部始終見ていた唯香さんは


「あの……『弟』がなにかしましたか?」


その言葉に俺と警官は動きを止める。


「お、おとうと……」

「なに? この子はあなたの弟なのかい?」

「えぇ、さっきまで一緒にいたんですけど、私が目を離したらいなくなっちゃって」


迷うこともなく平然と答える唯香さん


「お姉さんなら、こんな時間にこんな小さな子を外に出すんじゃないよ」

「はーい、ごめんなさーい」


警官は唯香さんに文句を言いたいだけ言うと、そのまま去っていった。

……それよりも小さいってなんだ


「おまわりさんが言う通り、こんな時間までいるのは良くないよね。 たしかゆうねるくん中学生だったよね?」

「そ、そうです……」


俺は顔を背けて答える。


「それじゃ家まで送って行こうか?」

「だ、大丈夫ですから!」

「でも、1人でいたらまたおまわりさんが来るかもね? しかもお姉さんとまたはぐれたのか! とか言ってきそうだけど」


たしかにそれは嫌だった……。


「……何か家であったの?」


俺が座り込んで頭を抱えていると唯香さんも俺と目線を合わせるために

しゃがんでいた。




「なるほど、ゆうねるくんのことでお父さんとお母さんがケンカしてるから帰りづらいんだ」

「はい……」


唯香さんは何度聞いてきたため、俺は仕方なく事情を話した。

聞いていた唯香さんは「うーん……」と唸っていたが

何か思いついたのか、すぐに柔かな表情に戻った。


「ゆうねるくん、明日暇?」

「え……家にいると思うので暇だと思います」

「それじゃ、明日の11時駅で待ち合わせしようか?」


その時の俺は疑問に思うところはあったが、唯香さんの

勢いに押されてそのままわかりましたと答えることに


「とりあえず今日は……うん、まあいいや行こうか?」


そう言うと唯香さんは俺の手をとって歩き出していった。


「ちょ、どこに!?」



唯香さんが俺を連れてきたのは、駅にあるタクシー乗り場だった。

並んでいる人はいなかったのですぐに乗ることができたが


「タクシー乗るほどのお金もってないですよ?!」

「わかってるよ。 はいこれ」


そう言って出してきたのは5千円札だった。


「え、いや……何ですかこれ?!」

「今日はこれで帰って、余ったらお釣りは返してくれればいいから」


そう言って、唯香さんは俺をタクシーに乗せた。


「お客さん、どちらまで?」


俺は5千円札を握ったまま、タクシーの運転手に自分の住所を言った。



家の前で停めてもらい、清算をすませてタクシーから降りた。


玄関の前についたのはいいが、鍵を持っていなかったので

どうやって入ろうか悩んでいた。


すると玄関が開き、出てきたのは……


「悠弥!?」


父親だった。

一瞬ドキっとしたが、顔を見た時は安心した感じがあった。


「……ただいま」

「どこ行ってたんだ、心配したぞ」


怒られるかと思ったが、父親はいつもと変わらない表情だった。


「……まあ、逃げ出したくなるよな、悪かったな」


すぐに申し訳なさそうな表情になり、声のトーンも少し低くなっていた。


「とりあえず家の中に入ろう、母さんは寝てるからお前も風呂入って部屋に行ってなさい」


「……ごめん」


俺が謝ると父親は俺の頭をポンポンと叩いていた。


「悪いのは父さんのほうだ……」



翌朝、唯香さんと約束した時間に駅に向かった。

着いてから辺りを見ていると……


「ゆうねるくんこっちだよー」


駅の改札の方から声が聞こえたたので

そちらを向くと、白いワンピース姿の唯香さんが手を振っていた。


「おはよう、ゆうねるくん!」


俺も挨拶を返すとすぐにカバンから茶封筒を出して

唯香さんに渡した。

中身は昨日のタクシー代の残ったお金だ。


受け取りながら唯香さんはふふっと笑い出していた。


「ゆうねるくん真面目だね。私、忘れてたのに」


この人もしかしてお金持ちのお嬢様なのか……?


「それじゃ、行こうか!」

「どこへですか?」

「それは行ってからのお楽しみかな」


唯香さんは切符売り場で切符を2枚買い、そのうち1枚を

俺に渡した。

金額をみると急行で次に停車する駅と同じ金額だった。


「4番線に電車が参ります、白線の内側に——」


駅員のアナウンスのあとにきた電車に乗った。

休日のためか、電車内の座席は全て埋まっていた。


「次の駅で降りるから立ってようか」

「そうですね」


そう言って俺は唯香さんに連れられ、反対側へ向かった。


「そういえば、ゆうねるくんご飯食べた?」


スマホを見ていた唯香さんは何かを思い出したかのように

俺に話しかけてきた。


「食べてないですね」


朝起きるのが遅かったのと、母親がリビングにいて

顔を合わせたら何を言われるのかわからなかったため

早々に着替えてでてきたため、何も食べていなかった。


「うん、りょうかいー」


唯香さんはウインクをしながら親指と人差し指で小さく作っていた。


目的の駅に到着して、改札をでるとすぐ横にあるファーストフード店に入った。


「ゆうねるくん何にする?」

レジの前で唯香さんはメニューを見ていた。


「先いいですよ、俺はこの後に頼むので」

「だったら一緒に頼んじゃおうよ、店員さんもその方が楽だし」


そう言われ俺は店の店員を見る。

メニューにあるような営業スマイルで立っていた。


「それじゃ、俺はこれのポテトとコーラのセットで」


俺はメニューを指差して唯香さんに伝えた。






「さすがに悪いから出させてください!」

「気にしなくていいよ」


ファーストフード店の会計は全て唯香さんが出していた。

昨日のタクシーといい、電車賃といい出してもらってばかりだったので

財布からお金を取り出して渡そうとするが唯香さんは一切受け取ろとしなった。


「私の方が年上だから、素直に甘えちゃいなよ〜」


唯香さんはニコッとした表情だった。


「わかりました。でも、せめてこれだけはさせてください」


そう言って俺は唯香さんが持っていた2つの紙袋を取った。


「ゆうねるくん、優しいね」


突然後ろからそんなことを言われ、自分でもわかるぐらい真っ赤になっていた。




「到着〜!」


辿り着いたのは駅直結のマンションのエントランス。

俗にいうタワーマンションってやつだった。


「こ、ここって……?」


俺が震え声で聞くと唯香さんはバッグの中からカードキーを取り出しながら


「私の住んでるマンションだよ?」


平然とした声で答えていた。

もしかしなくてもこの人お金持ちのお嬢様だろ……


エントランスの扉をあけてからエスカレーターで10階で降り

一番端っこ1001と書かれた場所が唯香さんの家だった。


カードキーでドアを開けて中に入ると


「汚い部屋だけどはいってー」


言われるがままに中に入っていった。


この時の俺は、とんでもない所に来てしまったと

何だか、悪いことをしているような気分だった。







「あ! そうだ冷蔵庫にプリンがあったんだ!」


話をしているにも関わらず深愛姉は突然起き上がった。


「夕飯前だろ、食べれなくなっても知らないぞ……」

「おやつ食べてないから平気だよー!」


ソファの後ろから窓の外を見ると、夕陽が差していた。

スマホの時計は良い子は帰る時間帯が表示されていた

随分長く話してたんだな……。

途中深愛姉を起こしたりしてたが……


「ねえ、悠弥! どっち食べたい?」


戻ってきた深愛姉の手には2つの容器が。


それぞれ容器には『和風!黒胡麻プリン』と『超甘!生クリームプリン』

と書かれていた。


「両方食べたいんでしょ……」

「うん! だからシェアしようよ!」

「はいはい……」


すぐ理解できてしまう自分も大概だな……


俺は笑い混じりのため息をつきながら『和風!黒胡麻プリン』を

受け取った。


深愛姉は『超甘!生クリームプリン』を食べるとご満悦な表情になっていた。


「悠弥、そっちもちょうだいー!」


そう言って餌をもらう雛鳥のように口を開ける深愛姉


「俺はいつから親鳥になったんだぁ……」


一人ぶつぶつと文句を言いながらスプーンを深愛姉の口の中に運んで行った。



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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!


お読みいただき誠にありがとうございます。


読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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「続きが気になる」

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