第34話



 「来月に会社を立ち上げることにした」


あれは忘れもしない、中学生になって数ヶ月が経ったある日いつものように俺と父親と元母親の3人で夕飯を食べている時に父親が話したことだ。


「立ち上げるってどういうこと?」

「会社を作ったってことだな」

「ってことは父さんが社長に!?」

「そのだな!」

「ってことは金持ちになれるの!?」

「おいおい、社長と金持ちをイコールにするなよ」


父親が楽しそうに話していたので、俺も一緒になってはしゃいでいた。


だが、父親の隣に座る元母親だけは違っていた。


「どういうことなの!?」


テーブルを勢いよく叩き、父親をみていた。


「ずっとやりたかったことがあってな、1人で考えていたんだ」

「もちろん、今の会社には残るのよね……?」

「いや、今月いっぱいで辞める。さすがに両立させるのは厳しいし下手視したら会社に迷惑をかけてしまうからな」


残念そうな表情で父親が答えていた。


「そ、それじゃこれからの生活はどうなるの!?」

「それは安心してくれ、まったく貯蓄がないわけじゃない。 それに今の会社での繋がりをうまく使っていくので0からのスタートじゃないから、すぐじゃなくても軌道に乗せられる計算はできてるよ」


父親が勤めているのは名前を出せば誰もがわかる会社だ

しかもそれなりの役職についていると前に話していた。


「いつ!? いつ軌道に乗せられるの!」


元母親は大声をあげて父親に問い詰めていた。


「まあそうだな……2〜3年はかかるんじゃないかな?」


父親は手を顎に置き、目を瞑りながら答える。


「2〜3年!? それじゃそれまではどうすればいいのよ!」


母親は段々と声が荒くなっていた。


「さっき言ったじゃないか、貯蓄はあるから、そこまで不安そうな顔をするなよ」

「冗談じゃないわよ! これからこの子の高校や大学の入学費用など莫大なお金がかかるのよ!」

「そんなに怒鳴るなよ、隣近所に丸聞こえだぞ」


父親は元母親の怒りを鎮めようとするが、元母親の怒りはヒートアップしていった。


結局、食事中は元母親の怒りの声を聞きながら食べ終わった。


「悠弥、ちょっと部屋に行っててくれないか?」

「うん……わかった」


俺はよく理解できないまま部屋に戻っていった。


部屋に入った瞬間、元母親と父親の口論が始まった。

口論自体、なかったわけじゃないが今回の件に関しては何時間も続いていた。


バン!と勢いよくドアを閉める音が聞こえ

口論は終わりを迎えていた。


2〜3日もすれば仲直りするだろうと思っていたが

1週間経っても元に戻ることはなかった。


2人は顔を合わせれば口論となっていた。

よく元母親は『安定』という言葉を使って父親を責めていた。



いつの間にか怒りの矛先は父親だけではなく俺にも向くようになっていった……。


テストが返ってきた時は2人に見せていたのだが

これまでは、極端に悪くなければ小言もなく済んでいた。

父親はテストの結果が良ければゲームを買ってくれることもあった。


だが、あの口論以降1点でも点数が低ければ、元母親は

「なぜ!?」「どうして点数が低くなったの!?」と

何時間も問い詰めるようになっていた。


最初のうちは点数が悪くなったのは勉強不足だったから次は頑張らないと……と自分に言い聞かせていた。


人間、いい点数が続くときもあればうまくかずに点数が下がることもある。


元母親に問い詰められるようになったから

少しずつ点数が下がり始めていた。


それでも見せなければいけなかったので

不安になりながら見せると……


元母親に勢いよく頬を叩かれた。


「これはどういうことなの!! ずっと点数が落ちているじゃない!」


俺は叩かれた頬を押さえながら黙っていた。


「あなたはねこの家を支えていかなければならないのよ! こんなことでどうするの!」


俺は言っている意味が理解できなかった。


元母親の表情が怖かったことが印象に残っていた。しばらくすると、穏やかな表情に戻ると、俺の手を握り


「これはね、悠弥のためを思って言ってるの。 わかってちょうだい」


と、話していた。

優しい表情とは裏腹に俺の手を力強く握りしめていた……。




「何で悠弥に手をあげた!」

「あなたには関係のないことでしょ!」

「関係あるに決まってるだろ! 最近のおまえ何かおかしいぞ」

「誰のせいでこうなったと思っているの!」

「それなら俺に怒りをぶつければいいだろ、悠弥は何も悪くない」


父親は前に勤めていた会社を辞め、自分の会社に専念するようになってから帰ってくる時間が遅くなっていた。


たまたまこの日は早く帰り、俺の顔を見た父親はすぐに元母親を問い詰めていた。


口論は収まることがなく、ずっと続いていた。


自分が原因で両親が口論しているため居た堪れなくなり、自分でも知らないうちに泣き出していた。


その日は俺が泣き出したことにより口論が終わったが

再び顔を合わせれば口論が始まり日々が続いていった。


ある土曜日の夜、父親が帰ってくるとまた口論が始まった。


すでに2人ともヒートアップしているためか

耳を塞いでも耳の中に2人の声が聞こえてきていた。


「……もう嫌だ」


俺はジーパンのポケットにスマホと財布を押し込み家を飛び出していった。



家を飛び出した俺は駅の方に向かって歩いていた。

駅のショッピングモールの中なら本屋やゲームコーナーがあるから

時間を潰せるだろうと思ったからだ。


モール内に入ると、土曜だからか夜でも人が大勢いた。

仲良く腕を組んだカップルや男女それぞれ数人のグループそして3人で仲良く手を繋ぐ親子の姿も……


俺はため息をつきながら、ゲームコーナーに向かっていた。




「腹減ったな……」


休憩用に置かれたベンチに座りながらゲームコーナーでたまたまゲットした小さなチョコを食べていた。


スマホを見るといつも夕飯を食べている時間だった。

まだ両親の口論は終わっていないだろう……


「本屋に行くか……」


座っているだけだと余計空腹が押し寄せてくるので立ち上がり、上の階にある本屋に行くことにした。


所々にあるサンプル冊子を読んでいると館内に閉店を知らせる

放送と寂しそうなBGMが流れ始めた。


ギリギリまで粘っていたが、警備員から外に出るように言われてしまったため、渋々モールの外に行くことに。


財布に残った最後の小銭で缶コーヒーを買ってすぐそばの広場にあるベンチに座ってコーヒーを飲んでいた。


「もうそろそろ終わってるか……」


スマホを見ると中学生はよほどの理由がなければ外出してはいけない時間になっていた。


缶コーヒーの中身が空になったので、ゴミ箱に捨てて帰ろうかと思ったいた。


「君? こんな時間に何をしているんだ?」


後ろから声をかけられて振り向くと

白いシャツの上に紺色のベストを着ている中年男性が立っていた。

……どっからどう見ても警察官だった。


別に悪いことはしていないが、なぜか俺はその場から逃げ出してしまった


「こら、待ちなさい!」





「はぁ……はぁ……!」


必死に声を押さえながら息を整えていく。


警察官が追いかけてくるのを全力で逃げ出していくうちに

駅の反対側にあるレストラン街に来ていた。

柱の影に身を隠し、何とか逃げ切ることに成功した。


ようやく息切れが落ち着いたのでレストラン街を出て帰ることにした。


駅の方に向かって歩いていると、後ろから肩を叩かれた。

見つかったと思い、逃げ出そうとしたが


「もしかして、ゆうねるくんだよね?」


先ほど追いかけてきた警官の声ではなく女性の声だった。

安心して振り向くとそこには……


「ゆ、ユーイさん……?」


唯香さんが笑顔で手を振っていた。







「……で、そこで唯香さんとあったんだけど」


話しているうちに相槌の声が聞こえないことに気づき自分の膝下をみると……


「……寝てるのかよ」


深愛姉が穏やかな表情のまま静かに寝息を立てて夢の中へと旅立っていた。


イラッときたので深愛姉の頬を軽く引っ張る

たっぷりと保水された頬がゴムのように伸びる


「……ふあああ! いふぁいよー!」


寝ぼけ眼のまま手をブンブンを振り回していた。


「寝るなら自分の部屋に行ってくれ」

「寝てないよー! 目を瞑って状況を整理してたんだよ!」

「それ、自分から寝てるって言ってるようなもんだからな……」

「それで? その後どうしたの?」


深愛姉は目をパッチリと開けて、俺の顔を見ていた。


「……次寝たら、話さないからな」

「うん! 頑張るよー!」


俺はため息をついた後、コーヒーを飲み込んだ。



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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!


お読みいただき誠にありがとうございます。


読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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「続きが気になる」

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