第30話

 「うーん、これもいいけど、こっちも捨てがたいなー」


「あのさ、深愛姉……」

「うん? どうかしたの??」

「いや、何でそんなに張り切ってんの?」


駅前のショッピングモールの中にあるメンズ向けのショップにて、訳あって服を買いに来たのはいいんだが……


「だって、明日はオフ会で、女性がたくさん来るって理人くんが言ってたでしょ?」

「そうだけど、別に家にあるので充分じゃない?」

「もー! そんなんじゃモテないよ!」

「モテたくないんだけど……」



事の発端は2日前に遡る。

学校帰りに理人が家にやってきたのが始まりだ


「急だけど土曜にオフ会やることになったから」

「俺は自分探しの旅に出たことにしてくれ」

「学校休む理由なら面白いけど、オフ会に関しては認められないな!」


なんでだよ……


「たまにはゲームから離れてリアルで遊ぶのもいいことだぞ!」

「そうだぞ! いつも悠弥は部屋に籠ってゲームばかりしているんだからたまには外にでないと!」

「さすがは深愛さん! いい事言いますね!」

「でしょでしょ!」


リビングの奥でテレビを見ていた深愛姉の援護が入った。

水を得た魚のように理人が饒舌になっていった。


「深愛姉、コイツの援護しないでくれよ」


下手に調子づいた理人を黙らすのは面倒なことこの上ない。


っていうかたまに外でてるけどな。

バイクでぶらりとだけど……。


「たまには外に出て色んな人に会うのもいいと思うよ」

「そうだそうだ! 引き籠もってても得るものはないんだぞ!」


たまに学校サボってゲームやってるやつに言われたくない


「それにそのオフ会って合コンみたいな感じなんでしょ?」

「ですです!」

「だったら頑張らないと!」

「……あえて聞くけど何を頑張れと?」

「もちろん彼女作り!」


……前に遊べなくなるからやだって言ってなかったか?!


ついにはため息も出なくなった。


「あ、そうだ! 悠弥の当日のコーディネート考えてあげるよー」




とまあ、こんな経緯があり次の日、つまり今日に買い物に来ているというわけだ。


「うーん、男性のコーデって難しいなぁ」


スマホを見ながら商品を手に取っていく深愛姉。


「流石にこれだとチャラいだけだし、悠弥のイメージとはかけ離れちゃうしなー」


後ろから深愛姉のスマホを除きこむと画面にはテレビドラマにでるようなホストのような男が数人肩を組んでいた。


見出しなのだろうか、大きな字体で


『俺の前では美の女神アフロディーテでさえ、男に飢えた雌になる』


と書かれていた。


「……ファッション感覚0の俺でもわかるぐらい間違ってる気がするけど」


「やっぱりそうだよねー」


見ていたサイトを閉じるとスマホをバッグにしまう。


「色々見ながら決めていこうか!」


深愛姉はそう言って俺の手を引っ張っていった。




「悠弥、開けるよー」

「ちょっとまっ——」


待ってと言う前に試着室のカーテンを開けられる


「全部着てるけど、何がマズかったの?」

「……聞くな」


深愛姉は俺の言葉の意味を深掘りすることはなく

俺の着ている服を念入りに見ていく。


俺が試着しているのは紺のデニムジャケットにクリーム色のシャツ下は黒系のズボン


「うん、これでいいかも!」


深愛姉はようやく納得したようだ。

今のこの服装になるまで何回試着を繰り返したことか


「あとはこれをつければ……」


最後に手に持っていたネックレスを頭からかける


「これでオッケー! かっこいいじゃん!」

「……そうか??」

「後ろに鏡があるから見てみなよ」


言われるがままに真後ろにある鏡の方を向いてから

鏡に映る自分の姿を見るが、何がよくなったのかわからなかった。


試着した服から着替え、先ほど着ていた服をカゴに入れて

レジへ持って行く。


ジャケット、シャツ、ジーパン、ネックレスの4点合計で

ギリギリ諭吉さんで間に合う金額となった。


財布をバッグから出そうと思ったが深愛姉に止められてしまう。


「ここは私が出すから、そのお金は出来た彼女のために使ってあげてよ」


……いや、何でできたこと前提で話してんだ


「さすがに自分のものは自分でーー」

「ここはお姉ちゃんに任せるの!」


そう言って深愛姉は諭吉を1枚トレーに勢いよく乗せていった。


「……変なところ頑固だな」





「いただきまーす!」


目の前に置かれたジャンボチョコパフェを食べる目の前の姉


流石に家族とはいえ、あんなに大金を出してもらってそのままで俺の気が済むわけがなかったので、休憩したいと言ってフロア内にある喫茶店に入った。


好きなものを頼んでくれと言ったらジャンボチョコパフェを頼んでいた。

……全部食べれるんだよな?


「悠弥、あーんして!」


毎度の如く、スプーンを差し出す深愛姉。

黙っていても口の周りにつけられるだけなので素直に口を開けることにした。


口の中に運ばれたのは濃厚なバニラアイスとサクサクのフレークだった。

どうやらアイスにくっついていたらしい。


「別に気を使わなくてもよかったんだよ、私が好きで買ったものだし」

「そのお金で深愛姉も自分の服とか買えただろ……?」

「そうでもないよ? 撮影後に使った洋服貰えるから最近は自分で買ってないし」


そういえば、この前の撮影後も貰っていたな。


「それにね……」

「それに?」

「悠弥がカッコよくなれるなら無駄なんて思わないから!」


目の前の深愛姉は溢れんばかりの笑顔で俺をみていた。


「ッ!」


見られたこっちが恥ずかしくなり、注文したコーヒーを飲む


「どうしたの? 顔真っ赤だよ?」

「……何でもない、早くしないとアイス溶けるぞ」


……自分の情けなさに小さくため息が漏れていた。



「ご馳走様でしたー! 美味しかったよー」

「……それはよかったことで」


あれから深愛姉はパフェを食べていたが……


「残りは悠弥にあげる!」


いつもの様に食べ残しを俺が処理することになった。しかも半分以上俺が食べていた。


「大丈夫?」

「……当分パフェは食いたくない」



ショッピングモールを出る頃にはすっかり日は沈みかけていた。

2人で他愛もない話をしながら歩いていたため、家に着く頃には日は完全に沈み、辺りは真っ暗になっていた。


「「ただいまー」」


玄関をあけると珍しく2人の声が揃っていた。


「はい、明日は頑張ってね!」


リビングに入ると先ほど買った洋服一式を渡される。


「……期待に応えれるかどうかわからないけどな」

「悠弥なら絶対にうまくいくよ!」


どんな根拠だよ……

と、心の中で思いながら紙袋を受け取る


「……ありがとう」

「いえいえ、どういたしましてー」


……とりあえず明日は行くとしますか。

相手ができるとかそんなことはどうでもいいが。





「おいおい、嫌そうなこと言ってたのにバッチリキメてきてるじゃねーか!」


次の日、深愛姉にコーディネートしてもらった服をきて

理人との待ち合わせ場所に向かうと、開口一番にでた理人のセリフが

これだった。


そういう理人も赤と黒のジャケットタイプのパーカーに誰もが知っているジーンズメーカーのジーパン姿だった。


「天気もこんなにいいことだし、今日はとことん楽しもうぜ!」


そういうと俺の肩に手をかけてきた。


「……気持ち悪い」

「いい気分に浸ってるのにいきなり毒づかないでくれます!?」



「で、今日はどこでやるんだ?」

「カラオケのパーティールーム。フリータイムで使えるっていうから」

「珍しくまともなところを選んでるな」

「一度も変なところじゃなかったよな!?」


ちなみに前回は人数が少なかったせいかファミレスだった。


「もう何人か来ているみたいだし、俺たちもいこうぜー」



「どうも! リーゼっス!」


パーティー会場となるカラオケ店にいくと2人組の女性が入口の前に立っていた。


「君がリーゼさん? 思ったよりも若いんだね」


理人の顔を見て真っ先に話しかけてきたのは茶色のポニーテールの女性だった。ゲームでは『ドーリス』というキャラを使っている人らしい

その後に隣にいたもショートボブの女性は『ルミエ』と名乗っていた。


ドーリスさんは大学3年でルミエさんは服飾系の専門生だと話す。


「あれ……君は?」


2人が俺の方を見ていた。


「……はじめまして、ゆうねるです」


チームにいた時のキャラクター名で名乗る。


「もしかして、チームの貢献者リストに乗ってるゆうねるさん?」


貢献者リストというのはチームメンバーが好き勝手に使えるチームハウスの掲示板のことだ。


チームバトルで活躍したプレイヤーやレアアイテムを取ったプレイヤーの

名前が載っている。

たしか、理人のプレイヤーの名前も載っていたような気がした。


「2人とも若いのにすごいなあ〜!」

「いやあ、そんなことないっスよ、なあ!」


ルミエさんの言葉に理人はニヤケ顔になって、俺の肩をバシバシと叩いていた。


「……単純なやつだな」

「こんな綺麗なお姉様方に褒められて照れない方がおかしいだろ!」


理人の行動に呆れてため息が出ていた。


「あれ? これで全員?」


ドーリスさんがキョロキョロと周りを見ていた。

その度に背中まで伸びているポニーテールがブンブンと動いていた。


「いや、全員で10人ですよ、さっき送れるって連絡きましたよ」

「来るまでここで待ってる?」


休日もあってか、カラオケ店には次々と人が入っていた。

4人で入口を塞ぐのはさすがに店側に迷惑がかかりそうだ。

そのことを理人に伝えると……


「先に入ってるか、後で部屋番号送っとく」


そう言って理人は先陣を切って店の中へと入っていき俺を含めた残りの3人はそれに続いて入っていった。


パーティルームは部屋の中心に長方形のテーブルがありそれを囲うように大きいものから小さいもの、丸型など様々なソファが並べられていた。


だが、10人入っても大きすぎる気がした。

その理由を理人に聞くと


「最初は20人ぐらい来るかと思ったんだよ」


結局は10人になったので、部屋を変えようと思ったが

他にも予約がないのでそのまま使っていいと言われたそうだ。


……それは経営的に大丈夫なのか?


「まあ狭いより広いほうがいいじゃん!」

「理人にしてはまともなこと言ってるな」

「いつもまともなこと言ってるよね!?」


いつもの喧しい理人の叫び声に2人の女性陣は笑っていた。


少ししてから遅れてきた人たちが部屋に入ってきた。

それぞれ自己紹介したのはいいが、顔と名前が一致しなくなっていた。


来ていない人が1人いたが、集合してから時間が経っており時間がもったいなかったので、理人がマイクを持って話し始めていた。


「えー、本日はお日柄もよく、誠にすばらしい日をむかえ——」

「……校長の挨拶か」


俺が耐えきれなくなったので思わずツッコミを入れてしまう。


「と、ゆうねるに怒られましたので挨拶はここまでにして今日は楽しんでいきましょう!」


……人をダシにして笑いをとるな


集まった人が拍手をするなか、部屋のドアが開いた。


「ごめんなさーい、遅くなりました!」


俺は声を聞いた途端、目を見開いて声のする方を見ていた。


「ユーイさん! いらっしゃーい!」


ドアの方にはチェック柄のリボン型のベルトがついたワンピースを着た一人の女性が立っていた。


俺はすぐに理人の方を向くと、俺の視線に気付いたのか両手を合わせて

わりぃ!と言いたそうな顔をしていた。


女性は俺の姿を見つけるすぐに俺の方へ近づいてきた。


「悠弥くん、お久しぶり〜」


笑顔で俺に話しかけてきた。


理人には後で問い詰めなければと思いながら返すことにした。


「お久しぶりですね……」


最後に絶対に口にしたくなかった相手の名前を口にする。


「唯香……さん」



==================================


【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!


お読みいただき誠にありがとうございます。


読者の皆様に作者から大切なお願いです。


「面白そう」

「続きが気になる」

「応援する」


などと少しでも思っていただけましたら、


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