第29話

 「佐倉、今日も家に行っていい?」


今日の授業も終わり、さっさと家に帰ろうとした矢先教室の隣に座る習志野 凪沙が話しかけてきた。


それを聞いた周りのクラスメイトたちは一斉に俺の方を向き始めた。


新学期が始まってから数日が経ち、各々が新しいクラスにもそれなりに慣れ始めていた。


いつも話すグループができたり、色恋沙汰が噂される男女などなどあげればキリがない。


で、その中でいうと俺と習志野はというと


「え? 佐倉と習志野ってそんな関係なの?!」

「佐倉って真面目だと思ったのに」

「佐倉くんって香取くんとデキてたんじゃないの!?」


こんな風にクラスメイトから見られるようになっていた。


それもそうだ、ほぼ毎日と言っていいほど俺の家に来るのだから


もちろん、目的は俺ではなく——


「今日は深愛さんと何を話そうかなー」


深愛姉である。


「……どうぞ、ご自由に」



「おじゃましまーす!」


よほど深愛姉に会えるのが嬉しいのか、習志野は俺よりも先に

玄関を開けて早々に中へと入っていった。


「おかえりー! ナギちゃんいらっしゃーい」


先に帰っていた黒のトレーナー姿の深愛姉がリビングのドアをあけて出迎える。


「深愛さんこんちわーっス!」


そのまま2人は深愛姉の部屋へと移動して行った。


撮影できた服は貰えることが多く、深愛姉のクローゼットの中は服で溢れかえっているようで、それを使って習志野に合う服やコーディネートを探しているらしい。


「ナギちゃんが着替えてるから入っちゃだめだよー」


と、何度も釘を刺されていた。

理人じゃあるまいし、誰がそんな事するか…


俺は自分の部屋に行き、制服から着替えていつもの様にPCを起動させていた。


ゲームにログインすると、俺のキャラに近づく姿があった。


キャラの上には<リーゼ>と表情されている


『おっす、やっとインしたか相棒』

『まだ相棒契約のための金が振り込まれてないぞ』

『この世界の金でよければすぐ渡せるぜ』

『俺はリアリストなんで』


このリーゼというキャラを操作してるのは話の内容から分かる通り、理人だ。


『で、シノは来てるのか?』

『いつも通り隣の部屋に』


シノと言うのは習志野のことだ。

理人とやっている野球育成ゲームのプレイヤーネームらしい。

本人曰く、名字の一部から取ったとか。


『それにしてもあれから毎日だな』

『まあな』


相手をしている深愛姉も楽しんでるみたいだからいいけど。


『クラスでも噂になってるぜ、凸凹カップル成立か……とか』

『勝手に言わせとけ、すぐ飽きるだろ』

『まあな、人の噂も365日っていうしな!』

『長過ぎだ……』


ゲーム内でも現実と変わらずとりとめのない話をしていると

理人のキャラの隣に別のキャラクターが現れた。

どうやらチーム内の誰かがログインしたようだ。


『あ、ユーイさんおつー』


最初に声をかけたのは理人だった。

俺は相手の名前を見て心臓からドクンと跳ね上がる感覚がした。


『あ、リーゼくんこんちわー』


テキストと同時にキャラがお辞儀をしていた。


『あれ、そちらの方はチームに入った人?』

『あ、コイツですか? えっとですねーー』


俺は無言でゲームを終了させた。


外にも聞こえるんじゃないかってぐらい心臓は激しく動き体を動かしてもいないのに息切れが起きていた。


そういえば前に最近インになってINするようになったとか言ってたことを思い出す。


「……当分、チームハウスにいくのはやめとくか」


LIMEで理人に謝ってからPCをシャットダウンさせるとそのままベッドに倒れ込んだ。


「…最悪だな」




「ゆうやー起きてるー?」


勢いよくドアが開けられ俺は目を開ける。

……自分でも気がつかないうちに寝ていたようだ


体を起こすと部屋には深愛姉と習志野がジャージ姿で立っていた。


「……今から運動でもするの?」

「ナギちゃんと野球の話になって、近くにバッティングセンターがあるから行こうって」

「行ってらっしゃい」

「もちろん悠弥も一緒だよ?」

「何で!?」


その答えは1つだった。

歩きで行くには遠く、駅からも距離が離れているのでバイクで行こうとなったようである。


「だって習志野はどうするんーー」


そうだ、習志野は最近自分の原チャで俺の家に来てそこから歩いて学校に行っているんだった……。


「いやあ、佐倉の家が学校に近くて助かるよー。 電車使うと乗り換えめんどいし」


ちなみに許可したのは俺ではなく深愛姉である。


「と、言うわけで悠弥も支度して早く行くよー」

「行くっスー!」


毎度の如く俺に拒否権はないようだった。



バイク向けの神器(ダウンコート、バイク用グローブ、ネックウォーマー)を装備し

玄関にあるバイク用の収納庫からヘルメットを取り出してから駐車場に向かった。


習志野は既に自分の原チャのエンジンをかけており俺の顔をみると急かしてきていた。


イグニッションキーを差し込んでエンジンをかけると古いことを感じさせないほど

爆音が響き渡っていた。


「中型バイクいいよなあ……私も欲しいんだけど。お父さんが許可してくれないんだよ」

「ナギちゃん女の子だから心配なんだと思うよ」

「ぐぅぅぅ! こう言う時だけ男に産まれたかったっス!」


エンジンが暖まったのを確認してシートに跨ぐとそれに続いて深愛姉が俺の後ろに座り、全体重を俺の背中に乗っける。

……いつものごとく何かが当たってるのはいうまでもない。


「…それじゃ行くぞ」


俺はギアをローにいれてアクセルを回していた




駐車場の脇にあるバイク置き場にバイクをとめて後ろにいる深愛姉に先に降りるように促す。


「到着ー! ってあれナギちゃんは?」

「さっきまで後ろにいたけど……」


そう話していると見覚えのある原チャが俺の隣に止まった。


「佐倉飛ばしすぎだ! もの凄く疲れたじゃんか!」


習志野は起こりながらも原チャのエンジンを切る


「へー! 地元よりも綺麗だしでかいじゃん!」


建物を見た習志野は右肩をグルグルと回し始めていた。


「深愛さん、早く行くっスよ!」

「ナギちゃん引っ張らないでー!」


深愛姉は習志野に引っ張らながら建物の中に入って行った。


中に入ると格闘ゲームやパズルなど古めのアーケードゲームがズラリと並んでいた。


2人が終わるまでここで時間潰すのもいいかと思ったが……


「……何だこの必殺技コマンド」


パネルの説明部分に書かれていたキャラの入力コマンドをみて、やる気が失せてしまう。

っていうか無理だ。


仕方なくゲームエリアを越えてバッティングエリアへと足を進める。


どうやら目的のエリアは外にあるようで扉を開けて外に出ると、カーンと金属で叩いたような音が耳の中に入ってきた。


「ナギちゃんすごーい! ホームランじゃん!」

「まだまだこんなもんじゃないっスよ!」


声のする方に向かうとバッターボックスでバットを構える

習志野の姿が、ネットを挟んだ向かい側に深愛姉が立っていた。


奥から豪速球が発射され、習志野は全く臆する様子もなくバットを振っていく。


先ほどと同じように耳に響く金属音と共に球が上空に駆け上がっていく。


「すごーい! またホームランだよ!」

「いや、ちょっとズレたからファールっスね」


残念そうに空を見上げる習志野。

そして、持っていたバットを深愛姉に差し出すが深愛姉は困惑の表情を見せる。


「えっと、どうすればいいの?」

「簡単っスよ、ボールが来たらバットを振ればいいっス!」


どうみても説明になってないだろ……


「こういうのは習うより慣れろっスよ、深愛さん」

「うん、わかったよー」


深愛姉は習志野からバットとヘルメットを受け取ると

バッターボックスに入っていった。


「いきなり早いのは無理だから、一番遅い球にして……」


習志野は外側に設定された装置で球の速度を調整していた。


「深愛さんいくっスよ!」

「バッチこーい!」


すぐにボールが発射された。

……が、先ほどのような金属音がなり響くことはなく球は後ろのネットに受け止められていた。


「全然みえないよー!!」

「そのうち慣れるっスから、落ち着いて行くっスよ!」


次々と球が発射されていくが、深愛姉のもつバットに当たることはなかった。


「つかれたぁ……」


バッターボックスからでた深愛姉はフラフラになりながらベンチに座り込んだ。


「じゃあ次は佐倉の番だな」


習志野はそう言って俺にバットを差し出していた。


「……何で俺まで?」

「どうせいつも引きこもって体動かしてないんでしょ? たまには動かした方がいいんじゃない?」


さらっと失礼なこと言ってるなこの黒ギャル。


いつもなら断るとことだが、ゲーム時の一件でモヤモヤしていたせいか、素直にバットとヘルメットを受け取り、バッターボックスに入る。


「ちなみに佐倉、野球やったことは?」

「小学校の時に近所の連中とやったぐらいだな」

「それならこれぐらいはいけるだろ」


習志野は先ほどと同じように球の速度を調整していた。


「設定したからくるぞー! いいところみせろよー!」


すると奥から発射された球が向かってきていた。


バットを強く握り、全身を使って勢いよくバットを振った——





「なんだよ情けないな、一発もあたらないじゃんか!」


駐車場でヘルメットをかぶりながら習志野は人を小馬鹿にするような笑い方をしていた。


辺りは日が暮れて、もうすぐ夜を迎えようとしていた。


コイツのいう通り、球を打ち返すことができず

プロ野球の試合なら三者凡退でファンからヤジが飛んでも文句は言えないだろう。


「いい運動になったからいいんだよ! あーバットを振るっていい運動になりますねー!」

「何ヤケになってんだよ、マジでうけるー」


「ホームラン打てなかったのは残念だけど、楽しかったよ! ナギちゃんありがと!」

「深愛さんが楽しめたからよかったっス!」


よほど嬉しかったのか、原チャのエンジンをかけた習志野は何度もアクセルをまわしてふかしていた。


「それじゃ、ボチボチ帰るっスね! おつかれっスー」


習志野は手を振りながらバイクを発進させていった。


「それじゃ俺らも帰るか……」

「うん!」


深愛姉が後ろに乗ったことを確認してからバイクのエンジンをかけた。



「今日はありがとね」

「……何が?」


信号待ちをしている時に後ろから深愛姉が声をかけてきた。


「急に決めたことに付き合ってくれて」

「……いや、むしろ礼をいうのは俺のほうだ」

「何で?」


たしかに球に当てることはできなかったが、バットを振っているうちに

モヤモヤした気持ちがいつの間にかなくなっていた。


あのまま家にいたらずっと抱えこんでいたかもしれない……

そう思うとお礼をいうのは俺の方だな。


「何でだろうな」

「もー! はぐらかさないでよー!」


深愛姉は俺の背中を叩いていた。


「深愛姉……」

「なーにー?」

「ちょっとドライブしていかない?」


反対側の信号が黄色になったのでギアをローにいれる


「うん! いいよー!」


深愛姉の声がすると同時に目の前の信号が青になると同時に

勢いよくアクセルをまわしていった。



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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!


お読みいただき誠にありがとうございます。


読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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「続きが気になる」

「応援する」


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