第26話

 「憂鬱だ……」

「もー! 悠弥ずっとそればっか!」


リビングで朝食のサンドウイッチを食べながら、俺はため息をつく。


今日から新学期が始まったのである。


「いいじゃん2年生ってクラス替えあるから楽しそうじゃん!」


俺が2年になるということは深愛姉は3年になる

俺の学校はわからないが、深愛姉の学校では3年になる時にクラス替えはないと話していた。


「クラス替えいいなあ! 仲の良い友達と同じクラスになれた時ってすごいテンションあがるじゃん!」

「全然」

「例えば……この前来た理人くんと同じクラスに——」

「——さすがにもういいや」

「なんでよー?」

「……あいつともう4年も同じクラスなんだよ」


理人と最初にあったのは中学1年の時

たまたま席が近く、ゲームの話で盛り上がったのがきっかけだ。

中学の時は2年も3年もクラス替えがあったが全部一緒のクラスだったのである。


高校も同じになってそんなことはないというか勘弁しろと願っていたがその願いは天に届くことなく高校生活最初の1年も同じクラスになっていた。


「いいなー! 私なんか琴葉と同じクラスになったことないんだよ!」


俺の話がよほど羨ましかったのか、いつものように頬を膨らませていた。


「それよりも深愛姉、時間平気?」


俺は自分のスマホの画面を深愛姉に見せる


「そろそろ行かないと! いつものように着替えたら洗濯機回しといて!」

「わかったよ」


深愛姉は椅子にかけていた学校指定のダッフルコートを着ると玄関の方へ走っていった。


「いってきまーす! サボっちゃだめだよ!」

「……まったく言ってることが母親だな」


俺は乾いた笑いをしながらカップに残っていたコーヒーを飲み干し

着替えるために自分の部屋へと向かった。





「……休みの日に戻れる能力がほしい」


制服に着替えてからすぐに家を出て学校に向かって歩いているがものすごくダルい。

どうせ初日ですぐ終わるからサボってもいいかと邪な考えが頭をよぎるが、バレた時に色々と面倒なことになりそうなのでやめておいた



20分ほど歩いて学校に到着した。

いつもならこの時間、校庭にはほとんど人はいないが今日に限っては人がごった返していた。


「……しまったクラス発表か」


朝、深愛姉とそんな話をしていたことすっかり忘れていた。


人の波をかき分けて掲示板の前に立つことに成功

大量の文字が羅列されている中から自分の名前を探す。


「あった……3組か」


2年3組の枠の中にある自分の名前を発見してホッとする。


「一応念のため……」


3組の枠の中を再度見渡すと自分の名前の上に『香取理人』と書かれていた。


今年も自分の願いは天に届くことはなかったようだ。


「……最悪だな」


俺はぐったりと肩を落としていた。


周囲からは仲間同士で同じクラスになった生徒や

クラスにならなくて今にも泣きそうになっている生徒などが賑わっていた。


「一緒のクラスになるってそんなに嬉しいものなのか……?」


何気なくそう思いながらも俺は校舎の中に入っていった。



新しい教室は2階にあった。

1年の時は1階にあったので上履きに履き替えてすぐに教室に入ることができたが

今年からは階段を登る必要があった。


エレベーターかエスカレーターとかつけてくれよ……と心の中で悪態をつきながら教室の扉を開けて中に入っていく。


教室の中では元々仲が良かったか、すぐに打ち解けあったのか定かではないが

クラスメイト同士の会話で賑わっていた。


「席はどこだよ……?」


キョロキョロと戸惑っていると


「席は黒板に書いてあるよ」


と前の方から声がかけられた。


黒板の方に目を向けると席順が書かれており

黒板の左下あたりに「佐倉」と書かれていたのでその場所に向かうと机には「佐倉 悠弥」と書かれたシールが貼ってあった。


財布しか入っていない鞄を机の上に置くと、ドサっという音にびっくりしたのか

隣に座っていた女子生徒が俺の方を見ていた


女子生徒の机には雑誌が置かれていた。


首元まで伸び、ウェーブがかかったほとんど金に近い茶髪、肌は地黒なのだろうか、若干黒く見えていた。


深愛姉とはまた違った感じのギャルのようだ


黒板を見るとその席には「習志野」と書かれていた。


「うるさいんだけど」

「……失礼」


俺が謝ると女子生徒は頬杖をつきながら雑誌を開いていった。


席につくとやることもなく俺は鞄を枕がわりにして机に突っ伏していた。




「おっす悠弥! 今年も宜しくな!」


やかましい声と同時に背中を叩かれる。

顔をあげると目の前には理人が前の席座ろうとしていた。


「おまえこのクラスじゃないだろ?」

「おいおいここにちゃんと書いてあるし!」


理人は机に貼られたシールを指差す。


「同姓同名だろ、そもそも進級できてないだろ?」

「いやいやできたよ!?」

「いくら積んだんだ?」 

「お金よりも大事な2月のテスト休みが犠牲になったんだよ!」


理人のやかましい声が教室内に響き渡っていた。

何人かはこちらを見ている……ような気がした。


「そんなつれないこと言わないで、今年1年よろしく頼むぜ、相棒!」


理人は親指を立てていた。


「相棒契約として100万を指定の銀行に振り込んでもらおうか」

「俺はいつからヒットマンと相棒になったんだよ!?」




「ちょっと俺トイレ行ってくる」

「いってらっしゃい、二度と帰ってくるなよ」

「新学期早々辛辣すぎない!?」


やかましい声をあげながら理人は教室からでていった。


静かになったと思い、再び机の上に突っ伏すがページを開く音が耳に入り、思わずそっちを向いてしまう。


向いた先は隣の女の席。

女は先ほどと同じように頬杖をつきながら雑誌を見ていた。


雑誌の方に目を向けると、女性向けのファッション雑誌のようだ。

中には大きく『春物コーデ!』と書かれており、所々にモデルらしき女性の

写真が載っていた。


女が次のページを開くと……

「……へ!?」


思わず変な声が出てしまっていた。


開いたページにはこの前、深愛姉と撮った写真が一面で載っていた。

深愛姉が中心に映し出されているが、その肩には誰もが見てもぎこちないわかるぐらい

ガチガチに笑っている俺の姿も……


「……なに? 言いたいことあるならはっきり言いなよ」

「……いえ別になんでも」


すぐに俺は雑誌から目を離した


「なんなのよ、まったく……」




「9:00から全校集会がありますので、生徒のみなさんは体育館へお集まりください」


理人がトイレから戻ると同時に校内放送が流れ出した。

クラスメイトたちは文句を言いながらもゾロゾロと教室からでていった。


「しょーがない、俺らも行こうぜ」

「そうだな」


体育館の中は既に生徒で埋め尽くされていた。

教師たちが大声をあげながらクラスで固まるように指示を出していく。

俺たちもそれに従って自分のクラスの枠に向かった。


暫くしたから全校集会が始まり、まずは校長の挨拶から。


「お休みの間、生徒の皆さんはどのようにお過ごしでしたでしょうか?」


いつも通り、冒頭の挨拶から始まりダラダラと話を続けていく校長

どれだけこの話を真面目に聞いているか知る由もない。

少なくとも俺の左隣にいる理人は聞いていないうちの1人にあたる


「マジかよ……溜め込んだ石全部つぎ込んでも新キャラでねー」

「爆死乙」


理人は最近始めたというソシャゲをプレイしていた。


俺の右隣には習志野だったかな忘れたが隣の席の女がいて

校長が話していることすら気づいてないといった様子で理人同様スマホを見ていた。


時折、俺の方を見るがすぐに目を逸らす。


「……ま…ね」


何か言っているような気もしたが、気を留めることもなく

全校集会の間、理人の相手をしていた。



全校集会が終わって教室に戻り、自分の席につくと疲れがドッと押し寄せてきた。

校長は30分以上喋っていた。

それでも終わる気配が見えなかったので、さすがに副校長に中断させられていた。


「校長の話長すぎだろ……あれか?奥さんが相手にしてくれないのか?」


流石の理人も疲れたのか、席に着くと机に突っ伏していた。

……俺の机の上に


「知るかよ、校長室に乗り込んで聞いてきてくれ」

「オレ、校長室に乗り込んだあと、みんなでゲームするんだ」

「理人は星になったのだった」

「勝手に人のセリフをフラグにするなよ!?」



理人と話している時も隣の席から視線を感じたので

横を向くと、習志野が目を細めながら俺の顔をみていたが

すぐに目線を逸らしていた。


「あら、もしかして悠弥くん、フラグぶっ刺さったいました?」


理人はニヤニヤと下品極まりない笑い方をしていた。



教室に新しい担任が入ると騒がしかった教室内は静かにななり

担任が自己紹介と明日の予定を話し、新学期1日目が終わりを迎えた。


教室にはすぐに帰る生徒や、仲良くなった生徒同士で話しているのもちらほらと


「このあとどうするよ?」

「特に何もないけど」

「じゃあ飯食っていかないか? 朝食ってないから腹減って」


たまにはいいかと思い、鞄を持って早々に出ようとするが


「2ー3組の香取 理人くん 至急職員室までくるように」


と校内放送が流れていた。


教室に残っていた生徒たちは全員理人を見ていた。


俺は理人の右肩に手を置き、悲しそうな声で


「……短い間だったけど元気でな」


と告げる。


「いやいや、退学になるようなことしてないからな!」


普段の冗談っぽくではなくわりと真面目な表情だった。


「いいから早く行ってこい」


手で早く行くように促すと理人はブツブツと言いながらも教室から

出ていった。


仕方なく俺は机の上に鞄を置いてからポケットからスマホを取り出し

ウェブサイトやニュースサイトを見ていた。


「あのさ……」


隣から呼ばれたので、そっちを向くと習志野がまたもや俺をみていた。


「……なに?」


「あのやかましいのが戻るまで暇なんでしょ?」


やかましいというのは理人のことだろう

……間違っていないが


「……だから?」


俺は刺々しく返答するが習志野はそれに臆することなく話を続けてきた。


「暇だったらちょっと付き合ってくれない?」



==================================


【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!


お読みいただき誠にありがとうございます。


読者の皆様に作者から大切なお願いです。


「面白そう」

「続きが気になる」

「応援する」


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