第25話

 「そういえば悠弥には言ってなかったね」


俺の前に立った深愛姉少し薄手に見える服を着ていた。

……寒くないのか?


「私ね、読モやってるんだー」

「……読モ?」


何かテレビとかで聞いたことがあるような……


「うん、雑誌の読者モデル」

「へー」

「何か反応薄くない!?」


深愛姉は頬を膨らませていた。

しょうがないだろ、いまいちピンとこないんだから


「深愛ちゃん知り合い?」


深愛姉と話をしていると先ほどのカメラマンらしき男が

話しかけてきた。


「あ、茂原さん!」


深愛姉が茂原と呼んだ男は黒のキャップをかぶり、革製のジャケットを着てレンズが大きいカメラを肩から下げていた。

目が細めと口元と顎に髭を生やしているせいか少し強面に見えた。


「えっとね、こちらカメラマンの茂原(しげはら)さん」


「はじめまして、茂原と申します」


茂原さんはかぶっていた帽子をとり、頭を下げる。

俺は強面な見た目とは打って変わった行動に驚いていた。


「えっと……佐倉悠弥です。 姉がお世話になっております」


俺も自分の名前を告げてから頭を下げる。


「なるほど、君が深愛ちゃんがよく話す悠弥くんか!」


茂原さんは豪快に笑っていた。


「茂原さんはママの大学の時の後輩なんだよ!」

「いやあ、スカウトした時はびっくりしましたよ、まさか袖ヶ浦先輩の娘さんだなんて」


深愛姉の話では去年の夏頃に買い物をしていた所スカウトされたようだ


名刺を受け取って深月さんに話をしたら茂原さんが大学の後輩だってことがわかり、スカウトに応じたと話す。


「それで今は春から夏にかけてのトレンドの撮影をしてるの」


だから少し薄手に見えたのか


「……寒くない?」

「ちょっと寒いかなー。何とかなるけど」

「あまり無理しないようにね」

「うん、ありがとう!」



「そうだ悠弥くん、良かったら近くで見るかい?」


突然茂原さんに声をかけられて少し驚いていた。


「あ、いや邪魔になる——」

「——いい機会だから近くで見てよ」


断ろうと思ったが、深愛姉の声に遮られてしまい

流されるまま2人に連れられて撮影場所に行くことに……



「もうちょっと表情柔らかく!」

「はーい!」


「顔をこっちに向けてー!」

「こんな感じですかー?」

「お、いいねー!」


撮影が再開すると公園内に深愛姉と茂原さんの声が

響き渡っていた。


撮影の間、深愛姉は色々な表情を見せていた

いつも家で見るような柔かなものから笑顔など


そして憂を帯びた表情や何かをじっと見つめるような表情

などいつもは見ないような深愛姉がそこにあった。


「悠弥?」

「え!?」


名前を呼ばれてると目の前に深愛姉の姿が


「あれ、さっきまであそこにいなかった?」


俺は先ほどまで深愛姉が立っていた場所を指差す。


「いまさっき終わったんだよ、茂原さんが終わりって言ったの聞こえなかった?」

「……全然」


どうやら自分でも気づかないうちに見入っていたらしい。


「それじゃもう帰るの?」

「今、茂原さんが撮った写真チェックしてるからそれが終わったらかな?」


茂原さんの方をみるとキャンプで使うような折りたたみの

テーブルを広げ、その上のノートPCをじっくりと見ていた。


「ねえねえ悠弥?」

「……うん?」


深愛姉は微笑みながら俺の顔を見ていた。


「どうだった?」

「……何が?」

「もう!撮影の時の私!」


どうって言われてもな……


「とてもよかったと思うけど」

「もー! なんかすごくありきたりすぎ!」

「無茶言うな……」


あまりの無茶振りにため息がでてしまう


「なんか、いつもとは違う深愛姉を見れたのはよかったかもな」


先ほど感じたことをそのまま伝えてから深愛姉の顔を見ると


「えへへ……ありがとー」


若干頬を赤らめながらも微笑んでいた。





「深愛ちゃんと悠弥くん、ちょっといいかい?」


俺と深愛姉が茂原さんの方を向くと手招きをしていた。


「もしかして撮り直しですか?」


茂原さんの元に行くと真っ先に深愛姉が不安そうな声を上げていた。


「そんなことはないよ、むしろバッチシ!」


と茂原さんはウインクをしながら右手の親指を上げていた


「ここからは相談なんだけど、悠弥くん交えて何枚か撮らせてくれないかなって」


「……え?」


突然のことなので一瞬思考が停止していた。


「俺……ですか?」

「うん、2人で話しているのを見てたらピンと来ちゃってね」


茂原さんはこう話すが、何で俺を……?


「いいですね! 是非お願いします!!」


隣に立っていた深愛姉が興奮気味に承諾をしていた。


「ちょっとまて、そんな簡単に決めて……」

「大丈夫だよ! 悠弥かっこいいし!」

「いや、理由になってないから!」


落ち着かせようとするが、興奮し過ぎて止めることは不可能だった。


俺は肩を落としながら、ため息を漏らすと茂原さんの方を向いた


「……宜しくお願いします」


深々と頭を下げていた。


「いやいや、むしろこっちがお願いしたんだから……」


茂原さんは俺の方を向いて恐縮していた。




「それじゃメイクしますので、ちょっとだけ我慢してねー」


茂原さんに着替えるように言われ、公園の駐車場に止めてある

キャンピングカーに行くように言われたので向かうことに。

中にいた女性スタイリストが用意した服に着替えると、顔に色々と

付けられていった。


「君女の子みたいだね。 口紅つけてみる?」

「……そういう趣味はないんでやめときます」


スタイリストは残念そうな顔をしながらメイクを続けていった。


「終わったよー。どういい感じでしょ?」


そう言ってスタイリストが俺の顔を鏡で写すが


「……なんかよくわからないですね」


俺の返答にスタイリストは笑っていた。


「普段からしないとわからないかー……これを機にはじめてみる?」

「……めんどうなのでやめときます」




キャンピングカーのドアを開けると深愛姉が立っていた。

俺の姿をみるなり目を大きく開け……


「悠弥……ものすごいかっこいいよ!」


大きな声を上げていた。


「……ありがと」


深愛姉と一緒に茂原さんの元に戻るとすぐに撮影が開始された


「それじゃ深愛ちゃん、悠弥くんの胸におでこをつける感じで!」

「はーい!」


指示を受けた深愛姉は言われた通りに動く。


「それじゃ悠弥くん、深愛ちゃんを抱き抱えるように背中に右手を置いてー!」

「は、はい!」


言われた通りに動こうとするが、緊張してどうすればいいのか

わからなくなってしまっていた。


すると深愛姉が俺の右手を掴んで自分の背中にあてる。


「……ごめん」

「大丈夫だよ」


茂原さんの指示した通りになるとカシャっとシャッター音が聞こえてきた。


「じゃあ次は悠弥くんが深愛ちゃんを抱きつく感じで!」

「え……!?」

「はーい!」


すぐに深愛姉が俺の正面に立つと後ろに立つ俺の方を向いて


「抱きついちゃっていいよ」


深愛姉は嬉しそうだった。


「……わかったよ」


深愛姉の背中に体をピッタリとくっつけて

両手で深愛姉の体を覆う……形になった。


気がつけば心臓がものすごい勢いでドクドクと鼓動が早くなっていた。


「悠弥くん、そのまま顔を深愛ちゃんの肩に乗っけて!」

「は、はい……!」


言われるように深愛姉の右肩に顔を乗せる


「……重くない?」

「大丈夫だよー」


「悠弥くん、わらってー!」


言われた通りにしようとするが……

笑うってどうやるんだっけ??


「落ち着いて、悠弥」


思うようにできず悩んでいると深愛姉が俺の方を向いていた。


「もしかして緊張してる?」

「……そりゃ初めてのことだしな」

「それ、こうすれば落ち着くかな?」


そう言って深愛姉は俺の手を包むように両手を乗せる。

心臓が跳ね上がるような感覚がしたが、ゆっくりと気分が落ち着き出していた。



「これでどう?」

「……深愛姉」

「うん?」

「……ありがとう」

「どういたしましてー」


落ち着いたところで俺はもう一度「笑う」をした。


「おっ! いいよ悠弥くん! そのまま!!」


茂原さんは興奮気味な声を出しながら何度もカメラのシャッターを切っていく



その後も茂原さんの指示で様々なポーズの写真を撮っていった。


「うん、これでいいだろう! 2人ともおつかれさまー!」

「お疲れー!」


茂原さんをはじめ、撮影に関わるスタッフ全員が声をあげながら拍手をしていく


「おつかれさまでしたー」


深愛姉は両手を上げて手を振った後、深々と頭を下げていた。


俺はというと、極度の緊張から解放されたことにより放心状態になっていた。


「悠弥、おつかれさまー!」


目の前で深愛姉が拍手をしていた。


「……おつかれ」

「ほら、みんなにも言わないと!」


そう言うと深愛姉は俺の手を掴むと上にあげ

もう片方の手でスタッフに向けて再度手を振っていた。


俺も空いている手をあげて同じように手を振った。



「ただいまー!」

「ただいま……」


撮影が終わり、深愛姉と一緒に帰宅した。


あの後、茂原さんからよかったら専属モデルになってくれとスカウトを受けていた。

確かに楽しかったけど、続けられる自信がなかったと

告げて丁重にお断りをしていた。

……本音を言えば、ゲームをする時間がなくなりそうだったからなんだが


「ご飯作っちゃうから悠弥着替えちゃって!」


そう言えば制服を着ていたのをすっかり忘れていた。


部屋に戻り、パーカーとジーパンに着替える。


「……やっぱこういう服の方が落ち着くな」


ファッションを理解するなど自分にはないことだと笑いながら自分の部屋をでていった。



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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!


お読みいただき誠にありがとうございます。


読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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「続きが気になる」

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