第23話

 「悠弥、電話鳴ってるよー」


洗面所で歯を磨こうとした時にリビングから深愛姉の声が聞こえてきた。

こんな朝早くに誰だ?


「歯磨いてるからほっといて」


歯ブラシに歯磨き粉をつけてしまったので、歯磨きを優先することに




歯磨きを終え、リビングに戻りテーブルの上に置いた自分のスマホを

見ると画面に「着信あり 香取 理人」と表示されていた。


「何でこんな朝早くに……」

「早くない! もう11時になるよ!」


時計を見ると短針が11を指そうとしていた。

もうすぐ休みも終わるし、そろそろ生活リズムを戻さないとマズイか……


そんなことを考えているとスマホからゲームサウンドが鳴り出していた。

画面を見ると理人の名前が表示されていた。


「もしもし」

「ワタシ、メリー=サン アナタノ最寄ノ駅ニイルノ」

「そのまま、お帰りになって、どうぞ」


すぐに電話を切る。


「あれ? もう終わったの?」

「どうやら間違い電話だったみたい」

「そうなの?」


すぐにまたスマホが鳴り出した。


「ちょっとした冗談なのに何で切るんだよー!!」

「あー悪い、アヤシイ電話だと思ったんだよあははー」

「……謝罪の言葉に全然心がこもってないんだが?」


そりゃそうだ、謝罪する気などないわけだし


「……で、どうしたんだ?」

「暇だったから悠弥の家の近くにいるんだけど、遊びに行ってもいいよな?」

「……お断りします」

「そんなこと言うなよー! お茶とお菓子出せなんて言わないからー」


こいつ絶対思ってるだろ……


「こっちは色々やることがあるから——」


話しているとインターホンが鳴り出した。

まさかと思って、ドアホンのカメラを起動させると

理人がカメラに向かってVサインをしていた。


「それが着いちゃったんだなぁ、これが」


とりあえず通話を終了させた。


「今、ベルが鳴らなかった?」


テレビを見ていた深愛姉が立とうとしていた。


「いい、俺が出る」


ため息をつきながら俺は玄関に向かった。




「きゃっ! 来ちゃった」


玄関を開けると理人が図太い声をだして体をくねらせていた。


「帰れ」

「おいおい、佐倉家は客人のもてなしってものを知らないのか?」

「招かれざる客って言葉知ってるか?」

「オレってバカだから難しい言葉わかんないんだ、すまんな」


俺1人ならすぐに家の中に入れてもいいんだが今は深愛姉がいるから

家に入れたくない。

そもそも父親が再婚したことは話したが、深愛姉のことは一切話してなかった。

単に話すのが面倒だったからだ。


「とりあえず、着替えてくるからどっかファミレスでも——」


「悠弥? お客さん??」


振り向くと深愛姉がリビングのドアを開けて顔を出していた。

ってかタイミング悪すぎだろ……!


「……ゆうやくぅん? どういうことか説明してもらおうか?」


理人は今まで見たことのないぐらい顔がニヤけていた。


「……最悪だ」



「はじめまして! 悠弥くんの親友 香取理人っていいます!」


理人はリビングに入るとすぐに深愛姉に向かって挨拶をしていた。


「こちらこそ、はじめまして! 深愛って言います」


深愛姉も理人の方を向いて挨拶をしていた。


「……なんかわざとらしい挨拶だな」

「おいおい、挨拶は基本だって古い本に書いてあっただろ?」

「すまんな、学がないから理解できないんだ」


しょうもないやりとりをしながら理人を俺の椅子に座らせて

俺はその対面の席に座った。


「2人とも何飲む?」

「コーヒーで」

「俺もコーヒー」

「はーい」


深愛姉はコップを取り出すとコーヒーメーカーのスイッチを入れた。


「で、説明してもらおうか?」


理人はニヤニヤ顔のまま俺の方に身を乗り出していた。

……殴りたい、このふざけた顔


「説明料として100万いただきます」

「ゲームでならいくらでもくれてやるぜ」

「俺もあるからいらねーよ……」


小さくため息をついて、仕方なく説明することにした。


「義理のお姉さんか……なんていい響きなんだ」


理人の顔がニヤニヤを通り越して単なるエロ顔になっていた。

絶対に口には言えないことを考えてるなコイツ。


「ってか何で教えてくれなかったんだよ!」

「めんどくさかったから」

「……さすがの俺も泣くぞ?」


そんなやりとりの最中、横からマグカップが置かれた。


「ありがとうございますー!」

「どういたしまして!」


深愛姉はジャスミンティーを淹れたマグカップを持つと


「私、部屋に行ってたほうがいい?」

「いや! むしろいてくださいお願いします!」


もちろん言ったのは俺ではなく理人だ

それを見た俺は呆れた表情のまま深愛姉の方を向いて


「……任せるよ」





「理人くんは中学からの付き合いなんだー」

「そうなんですよー」

「中学の時の悠弥ってどうだったー?」

「今とそんな変わらないっスよ」


深愛姉が座るとすぐに理人が話しかけ……

気がついたら盛り上がっていた。


「常にこんな仏頂面なのになぜか女の子にモテるんですよね」

「そうなんだー!」


なんかニコニコしながら深愛姉が俺の顔を覗き込むように見ていた。


「だってー」


……なんだろものすごく両頬を引っ張りたくなってきた


「それなのに悠弥、彼女作ろうとしないんですよね」

「なんでよー!」


いつの間にか2人から見られていた。

……とりあえず理人はあとで殴る。


「別に作らなきゃいけない理由もないだろ……」


ってか何でそんな話になるんだよ


「それにそんな機会も縁もないだろ……」


俺の言葉に理人はこの時を待っていたと言わんばかりの

表情をしていた。


「ふっふっふ! じゃあ機会があればいいんだな!」


なんか余計なこと言ったかもしれない……


「実は次のオフ会決まってんだなぁ!」


理人は自分のスマホを取り出してテーブルの上に置いた。


俺と深愛姉は目線を画面に置く


画面には『チーム:アルカディアの皆様へ』と

タイトルが表示されていた。


画面をスライドさせると本文が表示され

挨拶文から始まり、延々と長い文章が載っていた。


……要約するとチームのオフ会やるから参加してくれってことである。


「悠弥、どういうこと?」


「悠弥くんの出逢いの場を開くってことですよ!」

「オフ会って書いてあるよな!?」


理人の言葉のインパクトが強かったのか俺のツッコミの言葉は

聞こえることはなく、理解できた深愛姉はすぐに俺の方を向いて


「やったじゃん悠弥! 彼女ができるね!」

「行っただけで彼女ができるわけじゃないんだけど?」


そもそも行くつもりはないし


「あ、俺と悠弥は強制参加なんで!」

「は!?」


スマホをスライドさせてもう一度本文を見る。

こっそり参加者の名前に理人と俺の名前が載っていた。


「ちなみにこれもう送信済みだから、取り消しはできないぜ」


理人は俺の方に向けて親指を立てていた。


「……お前もしかして、これだけを伝えるためにきたのか?」

「それもあるし、場所も色々探してたんだぜ?」


何でこう言う時だけ積極的なんだよコイツは……。


「ってわけでちゃんと伝えたからボチボチ帰るぜ!」


理人はマグカップに残ったコーヒーを一気に飲み干すと

コートを着ていた。


「うん、またいつでも遊びにきてね!」

「それじゃ今度は深愛さんと2人きりの時にでも」

「……さっさと帰れ」

「もう! 友達にそんなこと言わないの!」




「いやあ、今日は楽しかったぜ!」

理人は玄関で靴べらを使いながらスニーカーを履いていた。


「……頼むからベラベラと話すなよ」

「おいおい、俺の口はダイヤより硬いって知らないのか?」

「ダイヤといってもどうせ紛い物のダイヤだろ」


俺の返した言葉に理人はふひひと笑っていた。


「勢いで言ったけどさ、久々だし普通に楽しもうぜ!」

「……気分がよければな」


靴を履き終えたのか理人は立ち上がりと俺の方を向いて

「それじゃ、またゲームでな」

「……あいよ」


理人が出たのを確認して、鍵をかけた。


「……何でこう面倒なことに巻き込まれるんだ」






「悠弥くるみたいですよー……っと 」


悠弥の家から数十分歩いて駅に着き

電車を待っている間にポケットからスマホを取り出し

LIMEを送っていた。


既読がつくと同時にメッセージが送られてきた。


『理人くんありがとう! 当日楽しみにしてるね』

『あとこれ、理人くんが欲しがっていたもの』


そういってLIMEに画像が貼り付けられた。

女性下着専門店のページの画像だった。


『いやいや、俺が見たいのは唯さんの下着姿っすよ!?』

『私のなんて一言も言ってないでしょ』


文章の最後にハートマーク付きの文章で返された。


「うまいなあ……笑うしかないだろ」


オレは肩をガックリと落としながら、到着した電車に乗り

空いている席に座る。


「……悪い悠弥、うまくいったら飯奢るから許してくれよな」


車内の天井を見ながらオレは心の中で友人に謝罪をしていた。



==================================


【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!


お読みいただき誠にありがとうございます。


読者の皆様に作者から大切なお願いです。


「面白そう」

「続きが気になる」

「応援する」


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