第8話

 「……忙しいんじゃなかったの?」


 階段を降りてリビングのドアを開けると先ほどと変わらない姿勢の深愛の姿があった。


さっきの対応に腹を立てたのか声のトーンからして不機嫌なのがよくわかった


リビングにある大型テレビの横に置かれた付属品に自分のウイッチを接続してテレビの電源をつけた。


しばらくしてゲームのタイトル画面が表示されると同時にBGMが流れ出した。


「え……なんで!?」


深愛は驚いた表情でテレビ画面を見ていた。


「……暇になったんだ、1人で遊びたければそれでもいいけど」


いつもやっているゲームがメンテナンスになったと説明したところで理解できないと思ったので適当に答えることにした。


「やるやる! ありがとう悠弥!」


先ほどの不機嫌なトーンはどこへいったのか

一瞬で深愛の表情が明るくなっていた。


「えっと、どうしたらいいの?」

「島のID教えて」

「島のID?」

「……貸して」


深愛のウイッチを受け取り、必要な情報を画面上に表示させて自分のゲームの方で入力をして、深愛にウイッチを返す。


「あ、『ゆうねるさんが到着した』ってでてきた! ってか何、ゆうねるって」


深愛は人のプレイヤーネーム見て笑っていた。


「……何だよ『みおみお』って」


俺も深愛のプレイヤーネームを見て返すが


「え? かわいいでしょ?」


笑顔で返されてしまった。


深愛の島に到着して、外にでるが、始めたばかりのため

何も建てられていない、デフォルトの状態だった。


「なんか材料を集めろって言われたんだけど、どこにあるの?」

「道具は?」

「スコップとオノしかない!」


そう言って深愛のキャラクターは持っているオノを振り回していた。


「……そのままこっちに来てくれ」

「はーい!」


それからは俺たちは深愛の島中を隅々まで歩き回り材料を集め

最初の目的である家を建てることができた。


「やったー! ってまだ入れないの?」

「さっき明日の朝になれば完成するって言ってたろ……」

「えー……それまで何もできないの?」

「そうだな」


淡々と答えると深愛は頬を膨らませていた。


「そうだ、悠弥がこっちに来れるってことは私も悠弥のところに

行けるんだよね?」

「行けるはず……」

「じゃあ行きたい!」


嬉しそうな声で深愛は俺にウイッチを差し出す。

それを受け取ると先ほどと同じような手順で深愛の画面に俺のIDを入力した。


するとテレビの方に『みおみおさんが到着しました』と表示された。


「へえ……すごい!」


深愛のキャラクターが外にでると、島には家やお店、各種様々な花が植えられた

花壇などが映っていた。


「これ全部悠弥がつくったの?」

「……そうだよ」


深愛はキャラクターを動かしながら驚きの言葉を連呼していった。


「あ、これ悠弥の家?」


気がつけば深愛のキャラクターは庭に物が散乱している家を発見していた。


看板を調べると「ゆうねるのいえ」と表示されていた。


「おじゃましまーす!」


元気な声でドアを開けていた。


家の中に入っても深愛は自分のキャラクターを動かして1階、2階、地下室まで

隅々と見ていた。


「ものすごく綺麗にできてるね! 私も早くこんな風につくりたいよー!」


深愛はよほど楽しいのか足をバタバタとさせていた。


俺と深愛は時間を忘れるぐらいずっとウイッチで遊んでいた。


「え!? もうこんな時間!? 夕飯の準備しないと!」


ゲーム上で表示された時計をみた深愛が驚きの声をあげていた。

窓の外をみると辺りは日が沈み暗くなっていた。


深愛と自分のウイッチでセーブをしてから電源を切ると自分のウイッチを持って部屋に戻った。


PCを起動させてネットワークゲームの方を見たがいまだにメンテナンス中のままだった。

もちろん終了時間も未定のまま。


PCをシャットダウンさせるとそのままベッドに倒れ込む。


『悠弥くん! これどうやればいいの?』

『スコップでそこを叩けば色々とでるから!』


『家ができるのが明日の朝なの!?』

『さっき言ってたでしょ……』


先ほどの深愛の行動が引き金になったのか

目を閉じると昔の記憶が脳内を巡っていた。


「……何で思い出すんだよ、胸糞悪い」


自分でも知らないうちに思っていることが声にでていた。

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