生贄者〈ササゲモノ〉

滲宙

第一章

序幕 始《プロローグ》(其ノ一)

 鬼神おにがみ様を怒らせるな



 天災は鬼神様の怒りの顕れ



 鬼神様を怒らせるな



 鎮めるため生贄を捧げよ



 村の安寧のため生贄を捧げよ



 さすれば平穏は約束される



 =====

 幼い頃に聞いたそれは唄のようだった。


 どこで聞いたのか、誰に聞いたのか、何故かひとつも思い出せないけれど、唄は記憶に残り続けていた。


 唄の意味を理解したのは十一の頃。鬼神様という神様に生贄を捧げなければ村に災いが起き、人間は生きていられなくなる。それは遥か昔から村に伝わる言い伝えだった。


 そして、俺がその当事者であると知ったのは十四の頃。


 決して避けられぬ運命を突き付けられ、しかし俺は運命を受け入れた。


 泣き崩れる母と何度も頭を下げる父を前に反抗の意を失くしたか。否。

 ならばただ諦めたか。否。

 俺には生への執着がなかった、というのが正解だろう。


 村のためになるのなら、家族や友のためになるのなら、この命、喜んで捧げよう。近いうちに俺は死ぬ。ならばその間心残りの無いよう生きていこう。


 それだけで良かった。


 それだけで、俺は幸せだった。

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