とんぷくラーメン

シヨゥ

第1話

「いらっしゃい! いつものでいいかい?」

 ラーメン屋に入ると大将にそう声をかけられた。

「お願いします」

 ついに顔を覚えられたかと思いつつもそう返す。待つこと数分。

「お待たせ!」

 ラーメンと餃子、別添えのメンマがやってきた。

「いつも疲れた顔しているけど大丈夫かい?」

 それとともに大将に声をかけられた。

「疲れたときに来ることにしているんです」

「それはどうしてだい? 家帰って寝た方が疲れも取れるだろうに」

「家に帰ってもまた仕事なんです。副業ってやつですね。だから、心が疲れてこのまま家に帰ったら何もできない、って思った時に寄らせてもらってます」

「俺のラーメンは疲れが取れるかい?」

「取れますね。大将の作る味が一番好きなんです。こんな旨いものを食ったんだからもう少し頑張ろう。そんな気持ちにさせてくれる温かい味なんです」

「嬉しいこと言ってくれるじゃない。今日の餃子はサービスにしておくよ」

「いいんですか?」

「良いってことよ。それじゃあ食ってくれ。食わねぇとた麺が延び延びになっちまう。味が落ちたら意味がないだろう?」

「そうですね。いただきます」

 麵をすすると丁度いい硬さに感動する。質問をすることを想定して茹で加減を変えてくれたのだろう。細やかな心遣いに心がさらに温まる。この味があるからこそ僕はもう少し戦えるのだ。そう実感させられるのだった。

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とんぷくラーメン シヨゥ @Shiyoxu

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