第261話 シャーロットさんの誕生日です
二月二日。
シャーロットの誕生日がやってきた。
授業が終わったあと、ローラたちはシャーロットの実家に向かう。
「私まで招待して頂いて恐縮であります!」
ミサキが道を歩きながら尻尾をピコピコさせる。
「ミサキさんは大切なお友達ですわ。招待するのは当然ですわ。むしろ来て頂いて感謝ですわ」
そして途中でラン亭に寄り、ランとニーナとも合流する。
「いつものチェイナドレスで失礼にならないアルか?」
「問題ありませんわ。むしろお可愛らしい衣装にお母様が大喜びですわ!」
「お金持ちの家って初めて……緊張するわ……」
ニーナはカチコチに固まって、ラン亭の前から歩けなくなっていた。
そこでローラとアンナが脇腹をこしょこしょしてあげたら、「なにするのよ!」と緊張がほぐれた。よかったよかった。
そうしてシャーロットの実家に行くと、二人のメイドさんが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませシャーロットお嬢様」
「お友達の皆さんも、よく来てくださいました」
前に来たときはローラはメイドさんと会えなかったが、二人雇っているというのはシャーロットから聞いていた。
「背が小さいのは、メイ。大きいのは、シアンですわ」
シャーロットが彼女らを紹介してくれた。
ローラたちはぺこりと頭を下げ、自己紹介する。
しかし二人とも、こちらのことを前からシャーロットから聞き、よく知っている様子だった。
「シャーロットお嬢様のような面倒くさい方とお友達になってくださり、本当にありがとうございます」
と、メイがぶっきらぼうな口調で言う。
「色々とうっとうしいことを言ってくるでしょうが、そういうときは心置きなく無視してくださって構いません。シャーロットお嬢様の言うことをいちいち相手していたら、それだけで日が暮れてしまいますから」
と、シアンが懇切丁寧な口調で言う。
どちらも口調が違うだけでシャーロットを下げているのは一緒だ。
メイドさんってこういうものだっけ、とローラたちは首を傾げる。
なにせ皆、お金持ちではない。
メイドさんというものに不慣れなのだ。
しかし、王宮にいたメイドさんは、もっと女王陛下を敬っていたような……。
「メイ! シアン! 家族の前ではともかく、皆さんの前でそういうことを言うのはやめてくださいまし!」
シャーロットはムキーッと目をつり上げて怒る。
するとメイドの二人は表情を柔らかくし、シャーロットの頭を撫で上げた。
「冗談です。シャーロットお嬢様がウザったいのは本当ですが、そのウザさが絶妙に可愛いのです」
と、メイがぶっきらぼうに。
「その通りです。シャーロットお嬢様はウザキャラとしての地位を確立しております。目に入れても痛くないほどウザ可愛いです。ご友人方もそれが分かっているから友達付き合いをしているのでしょう。そうでなければシャーロットお嬢様の暴走に音を上げているはずです」
と、シアンが懇切丁寧に。
「流石のわたくしも褒められている気がしませんわ! お二人がわたくしを好きなのか嫌いなのか分かりませんわ!」
「「もちろん大好きです」」
「そ、そうですの……? それならよろしいのですわ……うふふ。やはりわたくしのゴージャスさには、何者もあらがえないのですわね」
シャーロットはすぐに機嫌がよくなってしまい、ゴージャスがどうとか言い出した。
なるほど。これは確かにウザ可愛い。
そして玄関を開けると、クラッカーが二つ同時に鳴り響いた。
シャーロットの母クリスティーナと、父アーサーだ。
「シャロちゃま! お誕生日、おめでとうざます!」
クリスティーナは身長も体型も顔立ちもシャーロットそっくりだ。並ぶと双子にしか見えない。ただメガネをかけているので、そこで見分けることができる。
そして似ているのは外見だけでなく、ウザ可愛さもだ。
ざますざますと言いながら、クラッカーを連射している。
「シャーロットもいよいよ十五歳か。これからは落ち着いた淑女らしい振る舞いを身につけるのだぞ」
「あら、お父様。わたくしはすでに、どこに出しても恥ずかしくない淑女ですわ!」
「そ、そうか……? うむ。確かにこの上なく美しく育った、我が輩の自慢の娘だ。あとは暴走する癖さえ直せば完璧だ」
「そうざます。シャロちゃまは暴走するのが玉に瑕ざます」
「お母様にだけは言われたくありませんわ!」
後ろで聞いていたローラも、そうだろうなぁと頷いた。
ローラたちは家の中に入り、招待してもらったお礼を言う。
クリスティーナは「ローラちゃま~~、ハクちゃま~~、アンナちゃま~~」とハイテンションだ。
「はじめましてアル。ラン亭の店主の〝ラ・ラン〟アル。お招き頂きありがとうございますアル」
「は、はじめまして、ニーナです……シャーロットにはいつもお世話になっています……」
ランはともかく、ニーナは緊張しすぎて声まで硬くなっていた。それにしても、一体いつシャーロットがニーナのお世話をしたというのか。
シャーロットはむしろ、ラン亭でお漏らししそうになったりと、迷惑をかける側だったはずだが……。
「まあ、なんと可愛らしい服ざます。噂のラン亭には一度行きたいと思っていたざますが、なかなか機会がなかったざます」
「ぜひ来て欲しいアル。そうだ。シャーロットちゃんに、ラン亭から『ラーメン無料チケット』を十枚をプレゼントするアル。これを使って家族で来るといいアル」
「まあ、ランさん、ニーナさん。素敵なプレゼント、ありがとうございます。近いうちに使わせて頂きますわ~~」
それからミサキが耳と尻尾を揺らしながら頭をぺこりと下げた。
「学食で働いているミサキであります。シャーロット殿にはいつも遊んでもらっているであります」
「まあ、あなたが獣人のミサキちゃまざますね! シャロちゃまが言っていたとおり、モフモフざます!」
「さ、触っては駄目であります!」
目を輝かせたクリスティーナから逃れるため、ミサキはローラの後ろに隠れた。
そうして和気藹々と誕生日パーティーは始まった。
有名なお菓子屋さんに作ってもらったという特大ケーキと、クリスティーナが焼いたというローストチキン。メイドの二人が作った料理の数々。
流石はお金持ちの家という感じに豪華で、そして王宮ほど大げさにならない、丁度いいパーティーだ。
大人ならここでシャンパンなどを飲むのだろうが、主役のシャーロットが子供なのでジンジャエールで乾杯だ。
「シャーロットさん。約束通り、手編みの帽子です。頑張って作りましたよ!」
「私からも約束の手袋。二回目だったから上手に作れた」
「ローラさん、アンナさん……ありがとうございます。感動ですわ、早速つけてみますわ!」
「似合ってますよ、シャーロットさん。特に私の作った帽子が素晴らしいですねぇ」
「おしゃれポイントがアップした。はなまる」
「ローラさんは帽子の作り方を誰に教わったんですの?」
「シャーロットさんとアンナさんが前回、学長先生に教えてもらったと言っていたので、私もそうしようとしたのですが……学長先生はいつ頼みに行ってもお昼寝してばかりなので、お母さんに教えてもらいました」
「そのために実家まで帰ったのですの? 感謝感激ですわ!」
「まあ、空を飛んでいけばすぐですからね」
ローラの実家まで本来は馬車で一日かかるくらい遠い。
だがスピード無視の飛行少女であるローラに、そんなものは関係ないのだ。
「シャーロット殿。私からは……シャーロット殿が前から欲しがっていた……これを差し上げるであります……!」
ミサキは何やら悲痛な覚悟を秘めた顔で一枚の紙を出してきた。
それには『耳と尻尾モフモフ十分チケット』と手書きされていた。
「ああ~~ミサキさん、ついに覚悟を決めたのですわね! では、さっそくこの場で使わせていただきますわ……」
「ま、待つであります! 有効期限をよく見るであります。期限は明日からであります。今日は駄目であります」
「まあ、そうでしたの……では明日使わせていただきますわぁ」
「うぅ……心の準備が大変であります。念のために言っておくでありますが、そのチケットは一度使ったらお終いであります。何度もは使えないでありますよ!」
「承知しておりますわ~~」
「ミサキさん。そのチケット、次の私の誕生日にください!」
「私の誕生日にも」
「ロラえもん殿とアンナ殿も欲しいでありますか……? 分かったであります。ただし一枚ずつであります!」
「やったー!」
「流石はミサキ」
ローラとアンナは大喜びする。
とはいえ、そのチケットがなくても、割と頻繁にモフモフしているのだが。
どうもミサキはそのことに頭が回っていないようで、誕生日に一枚だけ渡せば、年に一度しかモフモフされないと思っている顔だ。
「ぴー」
「おや? ハクもなにかプレゼントするんですか?」
「ぴぃ」
ローラの頭から飛び立ったハクは、部屋の中を飛び回り、宙返りしたり、錐もみ回転したりと、曲芸飛行してみせた。
「ぴぴー!」
そして最後にシャーロットの胸に飛び込み、「誕生日おめでとう」という感じに鳴いた。
「まあ、ハクったら、こんな素敵なダンスをありがとうございますわ。サプライズでしたわぁ」
「ぴぃ」
ハクは満足そうに尻尾を振り、ローラの頭に戻ってきた。
そのあと二人のメイドが、美しいハーモニーで誕生日を祝う歌を歌った。
父アーサーは新しい服を。母クリスティーナは素敵なガラス瓶に入った香水をプレゼントする。
やがて時計の針がどんどん進み、料理が空になり、楽しい誕生日パーティーは終わってしまった。
「泊まっていかないざますか?」
「お母様、明日も授業があるのですわ。それにこの人数では流石に寝る場所がありませんわ」
ということで、それぞれが家路についた。
寮に帰ったローラたちは大浴場で汗を流し、歯を磨く。
そして――。
「さてと。眠りますか」
「ええ。ローラさん……よろしくお願いしますわ」
ローラとシャーロットはいつもと同じようにベッドに並んで寝転んだ。
しかし、いつもと違うところが一つ。
二人とも、大賢者から借りた『クラウド夢枕』を頭の下に敷いているのだ。
昨日まではシャーロットだけがそれを使っていた。夢の世界で何をやっているのか、ローラがいくら聞いても教えてくれなかったが……今日、その成果を見ることができる。
「ふふふ。生まれ変わったわたくしの力を見せて差し上げますわ」
「楽しみです。果たしてそれが私に通用しますかね……ふふふ」
ローラとシャーロットは不敵に笑い合い、どちらが悪党っぽくできるか競い合い、やがて笑い疲れて「すやぁ」と同時に眠ってしまった。
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