第253話 再度の仕切り直し

 そして戦いは更に激化する。

 おそらくカルロッテとアルピナは、どちらかが世界最強でどちらかがナンバー2だ。

 そんな二人が本気で攻撃魔法を連射する。

 瞬き一つする間に王都が三つ四つ消し飛ぶような火力である。

 なのにパニッシャーは原形をとどめたまま。

 首や翼が千切れたり、内臓が露出するほどの傷を負っても、すぐに再生してしまう。

 流れた血はドラゴンになってしまう。


 じり貧。絶体絶命。勝ち目はまるで見えない。

 しかしカルロッテは絶望しない。

 生まれ持った才能と、培った知識と、積んできた研鑽。

 それに加えてアルピナという頼もしい仲間がいるのだ。

 負けるはずがない。


 ようは、パニッシャーの魔力と体力が尽き、再生できなくなるまで攻撃し続ければいい。

 その前にこちらの魔力が尽きたら?

 そんな仮定は考えない。

 退路など最初からないのだ。

 全力全開でぶつかるのみ。


「ねえ、あいつの再生速度、遅くなってきた気がしない?」


「だね。ボクらの攻撃、ちゃんと効いてるよ!」


 三つの首が動き回り、光線を撃ちまくってくる。

 カルロッテもアルピナも飛行魔法の制御は円熟の極みに達している。

 いかにパニッシャーの首の動きが速かろうと、光線の尽くを回避する。

 とはいえ、精神的な余裕はない。

 かすったら、その時点でお終いなのだから。


「あれあれ? パニッシャーの奴、空を飛ぼうとしていないかい?」


「私たちに空中戦を挑むつもり? 面白いじゃない」


 今まで地面を四つの足で歩いていたパニッシャーが、ついに翼をはためかせて浮かび上がった。

 ――雲まで届く巨体が飛ぶ。

 口にすれば冗談に聞こえるだろうが、実際に目にしても冗談にしか見えなかった。


 だが、流石のパニッシャーも、大きさゆえに素早く飛ぶことはできないようだ。

 音速にすら達していない。

 カルロッテたちからすればあくびが出るような速度。

 何のつもりで離陸したのか……と疑問に思っていたが、その狙いはすぐに分かった。


「この盆地から出るつもりね!」


 カルロッテの叫びは悲鳴に近かった。

 盆地から出たからといって、パニッシャーの攻撃力や防御力が変わるわけではない。

 しかし、カルロッテがこうまで思いっきり戦えているのは、盆地に誰も住んでいないからである。

 もし町や村がある場所にパニッシャーが到達したら……その時点で大惨事だし、カルロッテはもう大規模な攻撃魔法を使えない。


「強い上に頭までいいとか、古代文明はどうしてこんなモンスターを作ったのよ!」


「そう言われても……ボクが生まれた国で作ったんじゃないし」


 それは分かっている。

 むしろアルピナは遠い未来のために自分のコピーを残し、パニッシャーの襲来を教えてくれた恩人だ。

 文句を言うのは筋違いもいいところ。

 それでも言わずにはいられない。


「食い止めるわよ! 重力魔法!」


「了解だ!」


 二人がかりでパニッシャーの真下に、超重力場を発生させる。

 百倍だ。

 巨体だけに、その効き目は抜群。

 パニッシャーは飛んでいられなくなり、クレーターの縁に墜落する。

 そして、ただ落ちただけでなく、百倍になった自重で肉がちぎれ、骨が砕けて飛び出した。

 血液から発生するドラゴンも瞬時に絶命。

 効き目は抜群だ。

 が。


「くぅ……こんな広範囲の重力を操るのは、流石のボクでも辛いぜ……」


「町何個分って感じだものね……これを続けたら、私たちが自滅しちゃうわ……」


 この魔法を永遠に続けられるなら、最初からそうしている。

 このままでは、カルロッテとアルピナの魔力が尽きるまで、そう何分もない。

 早く次の一手を考えねば。


 それにしてもパニッシャーは恐ろしい相手だ。

 百倍の重力で潰れながらも再生を続け、そして三つの首を持ち上げて口をこちらに向けようとしている。


 カルロッテとアルピナは重力魔法に集中しているため、まともな回避行動をとれない。

 ゆえに撃たれたら負けてしまう。


「……アルピナ。重力を制御しながら、攻撃魔法を撃てるかしら?」


「おいおい。ボクを誰だと思ってる? 最強の魔法少女、永遠の十七歳様だぜ」


「そうこなくっちゃ!」


 パニッシャーの口がこちらを向いて開かれた。

 その奥に魔力が集まっていく。

 だが、光線が放たれる前に、カルロッテとアルピナが放った光の矢が、パニッシャーの口を貫いた。


 とはいえ、潰したのは二つ。

 パニッシャーの口はあと一つ残っている。

 ああ、味方がもう一人いれば――そう思いつつ、次の攻撃魔法を撃とうとした。


 だが、しかし。

 遅かった。

 カルロッテとアルピナは魔法使いを極めているゆえ、間に合わないと分かる。

 一瞬早くパニッシャーが光線を撃つと分かってしまった。


 駄目だ逃げなきゃ無理だ間に合わない重力魔法を解除して回避を今からじゃ遅い本当に死んじゃう嫌だ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ――。


 カルロッテの思考が止まる。

 今までは、わずかでも可能性があるなら、それがどんなに小さなものであっても諦めずに戦った。

 なのに。今度ばかりは。

 打つ手がない。

 自分たちの力ではどうにもならない。

 思考をいくら巡らせても答えは見つからず、ついに止まってしまう。


 つまり、カルロッテとアルピナのコンビは、この瞬間、パニッシャーに敗北したのだ。


 けれど。けれども。

 この世界にいる強者は、なにも二人だけではない。

 強敵に挑む気概を持った者は、他にもいるのだ。


「「「仲良し三人組キィィィィック!」」」


 聞き覚えのある少女たちの声がとどろく。

 そして、その一撃は。

 本当にギリギリのタイミングでパニッシャーの残る最後の頭を踏み潰した。

 あと刹那でも遅れていたら光線がカルロッテとアルピナを消滅させていた。

 だが、そうはならなかった。


 この現象を言葉で表せば、とても陳腐なものになってしまう。

 しかし、あえて表そうではないか。

 奇跡である、と。


「Cランク以上のモンスターと戦うのは校則違反よ。ローラちゃん、シャーロットちゃん、アンナちゃん。それにハク」


「えへへ。まあ、そう硬いこと言わないでくださいよ。学長先生が黙っていてくれたら、エミリア先生に怒られずに済みますから」


「ローラさんの実家から飛んできたら、強そうなモンスターがいたので乱入させて頂きましたわ! 未知の敵にも臆せず挑む。それが冒険者なのですから!」


「まあ、場合によるけど。今はやらなきゃ学長先生たちが死んでた。ところでこの金ぴかのモンスター、何?」


「ぴー」


 あれだけ緊迫していた戦いが、少女たちの登場で一気に和んでしまった。

 さあ。再度の仕切り直し。第三ラウンド。

 五人と神獣一匹による攻撃だ。

 それを以てして、パニッシャーを討つ!

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