第183話 パジャレンジャー第二形態です

「それにしても。せっかく魔法剣を手に入れたんだから、そろそろ実際に斬ってみたい」


 食後のデザートにプリンを食べていると、急にアンナが怖いことを言い出した。

 ローラとシャーロットは青ざめる。


「ひえっ……私の防御結界は硬いから斬れませんよ!」


「わ、わたくしも全力で逃げますわ!」


「……誰も二人を斬るなんて言ってない。モンスターに決まってる」


 アンナは困惑気味に呟く。


「ああ、よかった。こっちを見ながら言うから、何事かと思いましたよ」


「アンナさん。目的語は大切ですわ。省略してはいけませんわ」


「ごめん。でも、そっちの読解力にも問題があると思う……」


 まあ、アンナがローラたちを斬ろうと考えるわけがない。

 分かっていたのだが、アンナの声に迫力があったので、ついつい震え上がってしまったのである。


「でも、言われてみると、せっかくケラウノスとアネモイを手に入れたのに、特訓ばかりで実戦に使ってませんからね。では明日の放課後は、モンスター狩りに行きますか」


「試し斬りをするなら、可能な限り巨大なモンスターがよろしいと思いますわ」


「私も相手が大きいのは大歓迎だけど、大きなモンスターはランクが高い。Cランク以上のモンスターを倒したら、校則違反になる」


 アンナが指摘するとおり『ギルドレア冒険者学園の生徒は、Dランク以下のモンスターとしか戦ってはいけない』という校則があるのだ。

 ギルドレア冒険者学園を卒業すると、自動的に冒険者ギルドからCランクの冒険者として認定される。

 逆に言えば、在学中はそれ以下の実力しかないということになる。

 つまり『Dランク以下のモンスターとしか戦ってはいけない』という校則は、未熟な生徒たちを守るためにあるのだ。


「大丈夫ですよ。一年生はともかく……三年生の先輩方は、こっそり強いモンスターとも戦っていると聞きますよ」


「そうですわ。あの校則は一般的な生徒のためにあるのです。上位の生徒は、卒業前にCランク以上の実力を身につけていますわ」


「先輩たちは目立たないように上手くやってるから……私たちは目立つし……どうやってもバレると思う」


「そんなときこそ変装ですよ! パジャレンジャーの出番です!」


「……パジャレンジャーの正体は、もう先生たちにバレてるから」


「ぐぬ……では変装を強化するのです。今こそパジャレンジャーは第二形態に進化するときです!」


 ローラはグッと拳を握りしめ、気合いを込めた宣言をする。

 だがシャーロットとアンナは懐疑的な顔をしていた。


「ぴー」


 ハクも心配そうに鳴いている。

 しかしローラは自信があった。

 パジャレンジャーの弱点は、着ぐるみパジャマから顔が見えてしまうことである。

 ならば、そこを改善すれば、あらゆる者の目を欺くことができるに違いない。


 というわけで次の日の放課後。

 授業が終わると同時に、学校近くの雑貨屋に駆け込み、サングラスを買う。

 そしてローラは着ぐるみパジャマに着替え、その状態でサングラスを装備した。


「じゃじゃーん。これがパジャレンジャー第二形態です。顔をサングラスで隠すことにより、変装は完璧になりました」


「……本当ですの? わたくしには完璧からは程遠いように見えるのですが」


「同じく。悪いことは言わないから、やめておいたほうがいいよ」


「それはシャーロットさんとアンナさんが、私の正体がローラだと知っているからですよ。先入観ってやつです。今の私はパジャレンジャーわんわん一号第二形態。まっさらな心で見れば、ローラだなんて少しも思わないことでしょう」


「そうかな」


 アンナは冷ややかな声を出す。

 まるで信じていないようだ。

 ローラは「やれやれ」と思いながら、職員室に向かった。


「今から突撃します。ふふふ、先生たちは誰も私の正体を見破れないはずですよ……あ、ハクを頭に乗せていたら流石にバレそうなので、シャーロットさんに預けておきます」


「かしこまりましたわ。結果がどうなろうとも、ローラさんの頑張りは素晴らしいですわ」


「がんばれー」


「ぴー」


 皆の声援を受けて、ローラは職員室の扉を開け放ち、飛び込んだ。

 その瞬間!


「こら、ローラさん。職員室に入るときはノックして、クラスと名前を言ってからって教えたでしょ!」


 エミリアに怒られてしまった。


「わ、ごめんなさい!」


 慌ててローラは退室する。

 廊下では真顔のシャーロットとアンナが待ち構えていた。


「……どうしたことでしょう。一瞬でバレてしまいました」


「一秒もかかりませんでしたわね」


「ぴぃ」


「さ。今日もローラの可愛い失敗を見られたから、そろそろ真剣に問題に取り組もう」


「私は真剣でした!」


 ローラは自分の真剣さをアピールしてみたが、誰も真剣に聞いてくれなかった。

 世知辛い世の中である。

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