第30話 迎え撃ちましょう

 八つのブロック全ての予選が終了し、敗退した生徒は医務室か客席へと移動した。

 そして残った八人とシード枠のローラはリングの近くに残る。


「シャーロットさん、シャーロットさん!」


 半月振りに再会したルームメイトに、ローラは抱きついた。


「あら、ローラさん。随分とご機嫌ですのね」


「だって、だって。シャーロットさんが予選に間に合ったから! もう、今までどこにいたんですか? とっても心配したんですから」


「ごめんなさい。山ごもりならぬ、穴ごもりを少々していましたの」


「シャーロットさんらしいです!」


 そんなことだろうと思ってはいたのだが、本人の口から聞くと改めて呆れてしまう。

 きっと、食事と睡眠の時間を除けば、ひたすら修行をしていたに違いない。


「シャーロット、予選通過おめでとう」


「アンナさん。ありがとうございます。すると今のが予選だったのですわね。到着したらいきなり戦いが始まって、何事かと思いましたわ」


 シャーロットの言葉に、ローラとアンナは顔を見合わせる。

 そうだ。シャーロットは今までいなかったから、ブロック表どころか予選のルールすら知らないのだ。


「シャーロットさん! 駄目ですよ、せめて前日には帰ってこなきゃ。あと一秒でも遅刻したら失格になるところだったんですから!」


「え、そうでしたの!?」


 ローラとアンナは、今日のルールを簡単に説明した。


「なるほど……つまり、残った八人でトーナメントを行ない、勝ち抜いた者だけがローラさんと戦える。分かりやすくていいですわ」


「言っておくけど、決勝に出てローラと戦うのは私」


 アンナは目を細めてシャーロットを睨み付けた。

 決して仲の悪い二人ではないが、こと戦いとなれば、どちらも譲らない性格だ。

 実際の戦いが始まる前から盤外戦が勃発だ。

 と、ローラは冷や冷やしながら見ていたのだが。


 シャーロットは挑発に乗らず、穏やかに微笑んでアンナを見た。

 とてつもない余裕がそこにあった。


「うっ」


 アンナは唸って、半歩後ずさる。


「申し訳ありませんがアンナさん。今のわたくしは、ローラさんを倒すことしか考えていませんの。これは思い上がりでしょうか?」


 そしてシャーロットの視線はローラを向いた。

 ゾクリと、鳥肌が立った。

 彼女は確かにシャーロット・ガザードなのに、何か違う生き物に見えた。


「……シャーロットさん。一体どんな修行をしてきたんですか」


「それは秘密ですわ。けれど、この半月、我ながら頑張ったという自負があります」


 頑張った、という言葉はどう考えても謙遜が過ぎるだろう。

 きっと想像を絶するようなことをしてきたに違いない。

 そうでなければ半月でここまで気配そのものが変わったりはしない。


「楽しみです。けど、アンナさんだって強くなりましたよ」


「でしょうね。けれど、勝つのは私ですわ」


 虚勢を張るでもなく、威圧するでもなく。

 当たり前のことを当たり前に。そう、天気の話でもするように彼女は言った。


「……勝負はやってみるまで分からない」


 アンナは絞り出すように呟く。

 しかし格の違いははたから見ているだけで明らかだ。

 かつてはここまでの差はなかったのに。


 アンナには悪いが今日のトーナメント、おそらく一切荒れない。

 ひたすら順当にシャーロットが勝ち抜いてローラと当たる。


 そうでなければならない。


 シャーロットがローラを倒すことしか考えていないように、ローラもまた、シャーロットを迎え撃つことしか考えられなくなってしまった。

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