第29話 派手な登場です

 第七ブロックはアンナを含めて剣士が三人。槍使いが一人。斧使いが一人。魔法使いが五人だった。

 この十人の中から本戦に進めるのは一人だけ。


 そして十人の中で一番強いのは自分だ、とアンナは結論づけた。


 一対一の戦いなら確実に自分が勝つ。

 とはいえ、これはバトルロイヤル。

 混戦になれば何が起きるか分からない。


 現に、始まる前から不穏な気配が漂っていた。

 なぜか、全員の視線がアンナに集中しているのだ。


(これってもしかして……)


 狙われている。

 アンナは予感し、試合開始の合図と同時に確信した。


 戦士学科の四人が一斉にアンナに襲いかかった。魔法学科の五人は彼らに対し強化魔法をかけている。

 一番強いアンナを脱落させてから改めてバトルロイヤルをしようと、試合開始前に示し合わせたに違いない。

 しかし彼らは、視線でそれを教えてくれた。

 その間抜けさに感謝しつつ、アンナは真っ直ぐ走り、正面の槍使いに襲いかかる。


「なにっ!」


 バトルロイヤルで全員が自分の敵になるという状況に、アンナは狼狽える――相手はそう思っていたのだろうが、残念ながら事前に覚悟ができていた。

 よって逆に向こう側が狼狽えてしまう。

 パニックになっている槍使いの槍を剣で弾き、当て身を喰らわせ場外へ吹っ飛ばす。

 これでアンナは包囲網の外に出た。

 即座に踵を返し、斧使いの頭部に跳び蹴り。一撃で昏倒させた。


「くっ、流石はアンナだ! しかし、まだ七対一だぞ!」


 剣士二人がアンナの左右から同時に斬りかかってきた。

 だがそれは、いつも戦っているローラの動きに比べればアクビが出るほど遅い。

 一本の剣で二本の剣を余裕で跳ね返す。

 とはいえ、一瞬アンナの脚が止まってしまった。

 その一瞬を狙って、魔法使い五人が同時に炎魔法を発射する。


 明らかに剣士二人を巻き込むつもりだ。

 どうやら共闘は、魔法使いの中で無効になったらしい。

 アンナは哀れな剣士たちに足払いし体勢を崩させ、自分と炎魔法の直線上に置く。


 放たれた五つの火の玉は、リングの上や剣士に着弾。

 紅蓮の火柱を上げる。

 火達磨になった剣士たちは悲鳴を上げてリングの外へと走って行く。

 すると即座に教師たちが水魔法で消火し、更に回復魔法をかけた。


 その様子を尻目に、アンナはジグザグに走り、魔法使いに突っ込んでいく。


「は、速い!」


 魔法使いはそう叫ぶので精一杯だった。

 狙いをつけるどころか、目で追うことすらできていない。

 アンナは筋力強化の魔法を全力で使用。

 両手で持つ大剣をフルスイング。

 剣の背で魔法使い五人のうち四人を一気に薙ぎ倒した。

 彼らは宙を舞い、客席まで飛んでいく。


 しかし客席の前には、教師が張った防御結界が見えない壁となって存在している。

 魔法使いたちは、その見えない壁に激突し、跳ね返って地面に落下する。

 骨が何本も折れているだろうし、もしかしたら内臓も損傷しているかもしれない。

 が、ギルドレア冒険者学園の教師は優秀なので、後遺症が残らないように回復してくれるはずだ。

 さて、残るは一人。


(こいつの攻撃をひたすら回避して、シャーロットが帰ってくるまで時間稼ぎをすれば……)


 そうアンナが考えていると。


「ま、参った!」


「え?」


 アンナと一対一になった相手は青ざめ、自ら負けを認めて場外に降りていった。


「勝者、戦士学科アンナ・アーネット!」


 魔法で拡声されたアナウンスが闘技場に流れる。

 わーっと歓声が上がった。

 観客たちがアンナの戦いを褒めている。


「……こんなはずでは」


 試合を長引かせるとローラに約束したのに。

 相手に思ったよりも根性がなく、一瞬で終わってしまった。


 アンナは申し訳なくて、うつむいてリングを降りた。

 しかしローラは笑顔で抱きついてきた。


「アンナさん凄いです! まさか九対一の状況に追い込まれても逆転しちゃうなんて!」


「ど、どういたしまして……けれどシャーロットはまだ……」


 残念ながら、試合時間を引き延ばすほどの余裕はなかった。

 もう猶予はない。

 だというのに、あの螺旋金髪お嬢様の姿はどこにも見当たらない。


「残念です……」


 ローラは我が事のように呟く。

 そして第八ブロックの生徒たちを呼ぶアナウンスが流れた。


 待ってましたといわんばかりの顔で、生徒たちがリングに上がっていく。

 第八ブロックは十一人だ。

 しかし十人しかいない。


「シャーロットさん。シャーロット・ガザードさん。あと十秒以内にリングに上がらなければ失格です」


 無慈悲なカウントダウンが始まった。

 今ここにいない人間が、十秒でリングに上がれるはずがない。


「三、二、一……」


 そして失格、が確定する刹那。


「お待たせしましたわ!」


 空から人間が降ってきた。

 金色の髪をなびかせ、突風を巻き起こし、コロシアムにいる者全員を唖然とさせながら、最後の一人がリングの中央に舞い降りた。


(飛んできた……?)


 そうとしか思えない。

 だが、飛行魔法は特殊魔法の中でも高等技術だ。その程度、戦士学科のアンナでも知っている。

 それこそ、ギルドレア学園の教師になれるようなレベルの魔法使いでなければ、使用できないと聞いている。


「……ローラは前に飛行魔法を使って失敗したけど、今なら飛べる?」


「いいえ……自信ないです……」


 絶対に間に合わないと思われたタイミングで、最高に派手な登場の仕方をしたシャーロット。

 リングの上で不敵に笑う彼女を見ていると、今まで心配してやったのがバカらしくなってくる。


 そしてバトルロイヤルが始まる。

 無論のこと、シャーロットの圧勝だった。

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