氷の魔女、第五皇子の侍女になる

ハーーナ殿下@コミカライズ連載中

第1話氷の魔女、少年を拾う

《氷の魔女》

 悠遠の時を生きてきた私は、いつの間にか人族にそう呼ばれていた。


 暮らしているのは北の山脈の古城で、一年の半分は冬だから、自然と考えられた名のだろう。


 人は愚かで不確定な存在。

 だから私は長年、人とは関わらず生きてきてきた。


 ◇


 だがある日、私の領内に一人の人間がやってきた。

 歳は7才の性別は男だという。


 本人曰く、『百年に一度の大寒波を収めるために、生贄』らしい。

 大寒波は自然現象であり、私ごときに生贄を差し出したところで収まりはしない。

 やはり人族は愚かな生き物だ。


『小僧、生きたいか?』

「うん……まだ死にたくない。アイツらは許せないから」


 少年は整った顔立ちをしていが、まるで野生の狼のような鋭い目つきをしている。

 面白いと思った私は、自分の古城で飼うことにした。


 ◇


「……魔女さま、ご飯の用意ができました」

『ああ。それにしても、お前は皇族のくせに、飯炊きもするのか?』

「うん。八歳までは平民だったから」


 少年は第五皇子という高い身分。だが庶子のために今回の生贄に選ばれたという。


『生き残りたいのは復讐が目的か?』

「うん……母さんを見殺しにした奴らに、天罰を下したいんだ」


 人間には復讐という愚かな感情がある。

 少年は実の母の無念を晴らすために、生きる感情を燃え上がらせていた。


『この私の力が欲しいのか?』

「うん。だって恐ろしい力を持った魔女なんでしょ?」


 私の見た目は人間で16歳くらい。

 だが悠遠の時を生きてきた魔力は、人間からしたら恐ろしい魔女に見えるのだろう。


『それなら勉強をすることだな、お前も』

「勉強……?」

『ああ。まずはそこからなだ』

「魔法、とか教えてくれないの?」

『人間には魔法は使えない。知識と技術こそが大事だ』


 昔、人間の世界で暮らして時があった。また現在の人間の書物も、研究材料として定期的に入手していた。

 この古城には大陸中の人間の英知は揃っていた。


「……うん。分かった。それなら学ぶ」

『いい心がけだ』


 そこから日々、少年の教育を施していくことにした。

 私にとっては暇つぶしのようなもの。

 歴史に剣術、算術、教養、薬草。

 人間の世界のことを教えていく。


 ◇


 少年は才能があった。


「やった! エライザから、初めて一本取れた!」


 11歳になった頃には、多くの才能を開花させていた。

 人間の言葉でいう“師匠”な私としても、喜ばしい感情だ。


『ライン。こんな棒きれの叩き合いで勝って、喜んでいる場合ではない。集団の生活の大事なのは……』

「“先を読んで考え、冷静に行動する”でしょ?」

『ああ。そうだ』


 少年はラインハルトという名であり、ラインが愛称。実母だけに呼ばせた愛称を、自然と彼は私にも呼ばせるようにしていた。


「あ、あの……これ、あげる」

『ハイセンシ花? どういう意味だ?』

「ボクたちが初めて出会った日の記念日のプレゼント」


 少年は今までにない表情をするようになっていた。頬を赤くして何かの感情を隠している。


『記念日だと?』

「うん……ほら、エライザは誕生日がない、って言っていたから。もしかしたら嫌だった?」

『いや、嫌な気分はしない。むしろ心地は良い』


 最近、自分の身体に不思議な現象が起きていた。

 ラインからプレゼント貰う、また優しくされると、“身体の中”が暖かくなるのだ。


「ほ、ほんと⁉ よかった……」

『どうしたライン。熱でもあるのか? 顔が真っ赤だぞ?』

「ちょ、ちょっと、いきなり顔を近づけてこないでよ⁉」

『変な奴だな、お前は』


 この頃のラインは復讐心は消えていた。

 そして私のとっても心地よい日々だった。


 ――――だが、心地よい日はあっけなく終わりを迎える。

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