第354話.消滅するダンジョン
大きさこそ異なるが、アシスで最初に戦ったゴブリンが使ってい弓に形が似ている。イヤ、似ているというより、そっくりとしか言えない。
カチノキシダーンは、武器や防具を身に付けてポップアップするが、アシスの魔物は武器を持っていない。それだけでなく知能の低いゴブリンであっても、武器を作り出したり扱う知能があることが謎であった。だが、あまりにも似た弓にはカチノキシダーンとの繋がりを感じさせる。
理の全く違う別の世界であるにも関わらず、あまりにも酷似した共通点。そこに、この世界の秘密めいたものを感じさせる。
「このまま、ポップアップするカチノキシダーンを倒し続けたら、次は何が出てくるんだ?」
『それは気にはなるけど、もう時間切れよ。これ以上は無理出来ないわ』
ここまでカチノキシダーンを倒し続けることになるとは当初の予定とは大きく違う。あくまでもセージが崩壊するダンジョンを維持しているからこそ、今の状態が成り立っているが、セージの表情は曇り披露の色は濃い。
「そうだな、そろそろ引き時かもしれない」
俺の言葉で攻撃の手が緩むと、様々な魔法が入り乱れていた弾幕が晴れて、視界が回復してゆく。
『白くなってるわね。ポップアップも、そろそろ魔力切れといったところかしら?』
「まだ、音は聞こえているけど、そうかもしれないな」
黒い岩肌は白く変色し、感じられる魔力も薄くなってる。それでも白くなっているのは部分的で、ダンジョンの崩壊が始まれば、さらに露出は増える。そこから、どれだけの規模で魔物が出てくるか分からない。
「セージ、そろそろ逃げにかかろう」
頷くセージだがダンジョン崩壊の危険性を一番理解しているのはセージであり、魔法の発動を簡単に止められないでいる。
ダンジョンが大きく崩壊した時に備えて、セージの肩にそっと触れて俺の方に寄せると、セージの表情は一変する。完全に思考回路が狂い、再びデレ状態へと戻ってしまう。そして何故かセージの心の声は、再び抱きかかえられることを期待し、セージのメシテーロの魔法はそこで途絶えてしまう。
ダンジョンが大きく崩壊した時に備えたつもりだったが、デレ状態のセージなら崩壊しなくても全力で逃げることは出来そうにない。
『コア、セージを影の中で休ませて』
「はい、しっかりと教育してさしあげますわ」
コアが抱き寄せたセージを、俺から引き離す。軽くセージの手を引いたように見えて、コアの力は強い。
『それとブロッサ、セージの魔法が必要になるかもしれないから、マジックポーションでピーブイが回復するかも調べて』
「分かっタワ。まさか、違う世界の魔物を回復させるなんて思ってもみなかっタワ」
右手をコアに、左手をブロッサに引かれて、セージは俺の影の中に連れて行かれる。最後まで顔は俺の方を向いていたが、それも最後はムーアに遮られる。
『役に立たないヤツは不要なのよ。それがカショウと契約する者としての絶対条件。それに、あなたの契約主はコアなのを忘れないで!』
半泣きのセージが影の中に消えると、ダンジョンの崩壊が始まる。止まっていたヒビ割れが再び広がり、壁や天井·床がキラキラと光だすと石壁や石畳の消滅が始まる。
崩壊した瓦礫で生き埋めになることはないが、足元も消えて無くなりだすと、流石に少しだけ焦ってしまう。すかさず、コールがソースイ達の背中に翼を纏わせることで何とか宙に留まらせてくれる。ホバリングしたり、繊細な動きを制御することは難しいが、何が起こるか分からない状況下で個々で動けることの恩恵は大きい。
さらに石壁や石畳が消滅すると、広大な空間が姿を見せる。それは、とても迷宮と呼べるようなものではない、巨大なな1つの空洞。これがダンジョンによって隠されたいた、ラノウベの真の姿なのかもしれない。
上にも下にも先は見えず、ただ暗闇が広がり、白く変色した岩肌だけが目立っている。
『放っておけば、カチノキシダーンが無限にポップアップしてくれるのかしら』
ガーラに乗ったムーアが、先の見えない底を見つめている。
「ポップアップして下に落ちてくれるなんて、そんな親切設計じゃないだろ。どちらかと言えば、底に辿り着いた時には、魔物で溢れかえってる。それにダイニオージの心配だってある」
『そんな事は言わない方がイイんじゃないの?』
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