第353話.触れてはいけない禁忌
突然、カチノキシダーンの鎧と剣の山が、不自然に大きく崩れる。それでもカチノキシダーンの動きは変わらず、山積みの鎧の出口を探して右往左往している。小さくなった山を登ろうとしたり、どけようとはせずに、ただ出口があること信じてウロウロしている。
カチノキシダーンが力を加わえて、山を崩したのではない。
「何が起こっている?」
誰かが外力が加わえているならば、視覚で分からなくても気配探知や魔力探知に引っ掛かてくれるはず。しかし、どの探知スキルにも変化がない。
『あら、分からないの?クオンの仕業よ♪』
「どうやって?クオンが、離れたところに攻撃をしかけるんだ?」
ムーアは当たり前のように言うが、クオンがそんなことをする姿を今までに見たことがない。
『違うわよ。影よ、影!』
「影って、何の事だ?」
『影の中に鎧を回収してるのよ』
「はっ、そんなことが出来るのか?」
俺が理解出来ずにいると、それを証明するかのように、俺の影の中から鎧と剣が出てくる。クオンに収集癖がある事は知っていたが、今までアイテムを集めている姿を見たことがなかった。
そこで忘れかけていたクオンのスキルである影移動を思い出す。俺の影の中に居ることが多いクオンが、影移動を使うことは滅多にない。確か影の中の空間を繋げて、自由に影と影を移動していた。それに影の精霊のクオンは、影の中でこそ真価を発揮するのかもしれない。
クオンを信用しない訳ではないが、あまりの規格外のスキルに、この鎧が本物であるかを試したくなる。
「ストーンバレット」
床に転がっている鎧は、至近距離で石礫を受けると大きく変形する。力を逃がすことが出来ず、中に何も入っていない空の鎧は、衝撃を受けた分だけ変形してしまう。
先のカチノキシダーンに放った攻撃よりも、鎧のダメージは大きいが、それでも鎧の回復機能は失われていない。攻撃を受けた直後からジワジワと回復を始めている。
それは剣も同じで、刃こぼれしても折れても関係なく、自動でキズを回復してくれる素材は優秀でしかない。金属単体としては強度面に不安はあるかもしれないが、幾つかの金属と混ぜ合わせることで、特殊なものになることは安易に想像出来る。
そして影からはクオンの成果をアピールするように、次々と鎧と剣が出てくる。改めて崩れる鎧の山を見るが、山は平たくなっただけでなく、明らかに数を減らしている。
「本当なのか?そんなことが出来たら、クオンの能力は凄すぎる。まるで暗···」
途中まで言い掛けてたが、それをムーアの強い感情の声が止めてくる。
それ以上は言ってはいけない、クオンの禁忌の姿。そして他の精霊だけでなく、ソースイ達も一様に頷いている。クオンの禁忌の姿に気付いていなかったのは、俺だけのようだ。
「安全だよな?魔物に近付くんだから、無理はしちゃダメだぞ」
“うん、大丈夫”
何とか言い直して誤魔化してみるが、返ってきたクオンの反応は何時もと変わらず、クオンも自身の驚異度を自覚していない。
クオンは俺の一番精霊であり、それに重要な意味があるのだと勝手に理解していた。しかし純粋に一番怒らせてはいけない存在がクオンであり、だからこそクオンに対しても反発する者はいない。
『さあ、またここに戻ってこられるとは限らないのだから、しっかりと戦利品を回収するわよ』
ムーアはこのダンジョンから出ることを前提として、より多くの戦利品を回収するべく、カチノキシダーンに攻撃を仕掛ける。ブロッサ達も攻撃に加わり、ありとあらゆる攻撃方法を試み、攻撃も次第に苛烈さを増す。しかし、今回は鎧や剣は山積みとならずに、逆に高さを低くしてゆく。
「ベル、大丈夫なのか?クオンは無茶してないか?」
カチノキシダーンだけでなく、俺たちの魔法が降り注ぐ中にも関わらず、鎧と剣を回収している。当然、数が少なくなれば、魔物に見つかるだけでなく魔法の影響も直接及ぶ。
“うん”
「クオン、居たのか?」
どんどん鎧の山は減っているので、クオンは居ないと思った。だから、ベルに俺の影の中の様子を聞いたのに、すぐに返事が返って来たことに驚く。
“リオが頑張るから、クオンは大丈夫”
「そっ、そうか、あまりクオンは近付いちゃダメだぞ」
“見つけた、これ”
それは、剣ではなく弓と大盾。魔法を絶え間なく浴びせかけているので、カチノキシダーンの存在は音と気配探知でしか認識していない。
それは、どこかで見た記憶のある弓。
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