第294話.カショウの吸収
頭上にはスライムの魔石が呑気に浮遊しているようにも見える。米粒にも満たないスライムからすれば、漬物石程の大きさがある魔石は、スライムの親玉で間違いない。
こうして下から見上げると、余りにも無警戒で無防備にも見える。寄生することは得意でも、逆の立場になると気付かないのかもしれない。
それでも、スライムの粘液は想像以上に粘度が高く、一度絡み付かれてしまうと身体の動きは制限されて自由に動かすことも難しくなる。
単純に外から魔石を狙おうと思えば、分厚い粘液で攻撃は通らなかったのかもしれない。
『私の言うことを信じて、正解だったでしょ!』
「フォリーが居なければ、ずっと渦の中だったけどな」
スライムの粘液のことをムーアが知っていたかどうかは別として、結果としては魔石に近付けたという事実は変わらない。後はどうやって魔石まで辿り着くかの問題になる。
「ウィンドトルネード」
スライムの身体の中に、魔石まで続く穴を空けてやる。しかし、魔石に近付けば近付くほどに、スライムの粘度は高くなり魔法の威力は減衰してゆく。
流石に魔石へウィンドトルネードが近付くと、スライムの親玉も体の中の起こった異変に気付く。そして、再び俺を粘液の中へと閉じ込めようと脈動を始める。
「リズ、リタ!魔石に近付くけど、次は絶対にダメだからな!」
「安心して、今度はボクも見張っているから」
リズとリタに逃げられて、被害を被ったのは俺だけではない。その被害者の1人であるナルキの保証付きで、ウィンドトルネードでこじ開けた穴を、三対六枚の翼で一気に飛翔する。
翼は俺の意図を汲み取り、それを自らの意思として動いてくれる。だから俺は、ウインドトルーネードの制御に専念する。それでもジワジワとウィンドトルネードで作り出した空間が狭まる。
「シェイドーッ」
再びフォリーの陰魔法が、ウィンドトルネードでこじ開けた空間を広げてくれる。しかし、それでもウィンドトルネードの勢いは魔石までに届かない。
「まだまだ!」
使える魔法は、右手に持つ精霊樹の杖のウィンドトルネードだけでない。魔法吸収で取り込んだ、ウィンドカッターを左手から放つ。
『まだ、届かないわね!』
「そうだな、もう少し残ってるか」
魔法で削られて消滅するスライム以上に、大量のスライムが押し寄せて、次々と空間を埋める。それだけ危険だと感じたのか、必死の抵抗は徐々に魔法を押し返してくる。
『思ったよりは、頑張るわね!風属性はダメかしら?』
しかし、スライムの中の密閉された空間で火属性を使えば、それは俺達もろともゆで上がってしまう。せめてスライムの魔石の上であれば土属性の魔法が使えたかもしれない。
「レン、届きそうか?」
「まだ遠い。もう少し近付かないと、斬撃の効果は出ない!」
『カショウ、どうするの?やっぱり火属性魔法を使う?それとも天之美禄?』
「押して駄目なら引いてみるしかないだろ」
『えっ、もしかして?それはダメよ!』
急にウィンドトルネードを弱めると、一気にスライムが押し寄せてくる。
「俺の中にある大量の魔力が欲しければくれてやる!少しでも消費してみせろ!」
大きな口を開け、押し寄せるスライムを一気に吸い込む。目の前に押し寄せていたスライムは一瞬で消えてしまい、魔石までの空間が開かれる。
それでも俺の体は吸収を続けようとする。そこには俺の意思は関係なく、勝手に体が反応している。
スライムの魔力が体の中に取り込まれ、急激に魔力が増加する。蟲人族の体の中に寄生したスライムだったが、俺の体の中には棲みつくことは出来ずに魔力とし吸収されている。
始めて感じる魔力を体に吸収するという行為だが、これが異常だということは分かる。
『カショウ、もう十分よ。それ以上は危険よ!』
それは俺自身も分かっている。それでも、大量に流れ込むスライムに口を閉ざすことさえ出来ない。大量のスライムは只の魔力へと分解され、さらに魔力は凝縮されてた塊となる。その塊が俺の体を膨張させてゆく。
このままではマズいと感じた瞬間、チュニックが俺の体を締め付ける。それと同時に、徐々に流れ込むスライムの勢いが収まり始め、魔力の吸収は止まる。
しかし、相当量のスライムが胃の中へと流れ込み、耐えきれない吐き気が襲う。
「ヴオオオオオォォォーーーーッ」
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