第287話.哀しみの世界の力
スライムの放つ魔毒と、ブロッサの全力で放つポイズンブレスがぶつかり合う。純粋に魔毒を弾き返すだけならば、ポイズンボムが威力が高い。広範囲の毒を中和するのであれば、ポイズンミストが効果が高くなる。
そしてポイズンブレスはその中間に位置するが、それだけに使い方は難しい。威力が弱ければスライムの魔毒を弾き返すことは出来ないし、威力を優先すればスライムの魔毒を中和出来ない。
そして全力というだけあってブロッサの放つブレスは、竜種を思わせる迫力がある。見た目の派手さとは裏腹に、繊細なスキルのコントロールと魔力の調整が必要になる。
「これが、ブロッサの全力か。竜種がブレスを放つ意味が分かるよ」
『そうね、これなら竜種にも匹敵するかもしれないわ』
「ムーアは、竜種を見たことがあるのか?」
『そんな訳ないでしょ。中位クラスではあり得ないって意味よ!』
それでも5分限定の力で、ブロッサに全てお任せするのは格好が悪すぎるし、負荷が小さい方がイイに決まっている。
ただ俺達の出来ることは限られていて、タダノカマセイレの要望で火属性は使えない。水属性であれば、ブロッサのポイズンブレスを吸収して効果を弱めてしまう。それならば風属性と考えてみるが、気流を乱してしまえばブレスのコントロールを難しくさせる。だから俺が出来ることは、残された土属性の魔法しかない。
「イッショ、魔力の集まるポイントを教えろ。ブロッサの援護をする」
「やはり、俺様が居ないとダメだろ。カマセイレだけでは心配でならんからな」
「早くしないと、そのカマセイレに全て持っていかれるぞ!」
慌ててイッショが、巨大なスライムの体でも魔力が集まるポイントを指示してくる。スライムの魔毒も魔法と一緒で、魔力からつくり出されている。それだけでなく魔毒を射出する為には、必ず表面に小さな突起をつくり、そこから魔毒を射出してくる。だから魔力の集まるポイントさえが分かれば、魔毒の射出を阻止する事が出来る。
「ストーンバレット、ストーンバレット、ストーンバレット」
乱れ打ちにも見えるが、的確に魔力の集まるポイントを狙い撃つ。巨大なスライムから放たれる無数の魔毒からすれば数が少ない。それでもブロッサの負荷を減らせるに越したことはない。
「ヴヴヴヴヴヴアアアァァァーーーッン!」
俺が魔法の乱れ打ちをする横で、タダノカマセイレが唸り声を上げ始めると、急に辺りを冷気が包み始める。
それは俺も少しだけ体験したことのあるタダノカマセイレの哀しみの世界。そこは氷点下の極寒の世界が広がり、全てのものを凍りつかせる。俺の際限のない魔力を糧として、その極寒の冷気を呼び出そうとしている。
「コントロール出来るのか?」
幾ら俺から魔力を供給されるとはいえ、込める魔力が大きすぎるし巨大過ぎる力を制御し続けれるとは思えない。
「だから、豆柴がいるのよ!」
そう告げるとタダノカマセイレは、さらに唸り声を上げ魔力を込める。
「イッショ、どういう事なんだ?大丈夫なのか?」
「カマセイレと相反する属性の俺様なら、暴走しても止めれるって事だな!」
「本当に、止めれるんだな!」
「理論上は可能だ。俺様に不可能はない!」
「理論はどうでもイイ。大丈夫かどうか聞いてるんだ!」
「もうここまで来たら、止められん。やってみるしかなかろう」
そして、タダノカマセイレの周りに無数の氷の槍が現れる。
「アイスジャベリン」
氷の槍が次々と巨大なスライムに放たれる。氷の槍はスライムを貫通することなく、触れた瞬間からスライムの体を凍らせてゆく。大きなうねりを見せ、巨大な壁を作り出そうとしていたスライムの動きも徐々に鈍くなり、凍りついた場所からは魔毒の射出も止まる。
「成功したのか?」
スライムの壁が邪魔をして、先を見ることが出来ないが、まだ凍りつく勢いは衰えずに範囲を広げている。
「カショウ、まだだよ。凍りついたのは目の前のスライムだけだ。湖の奥からは、もっと大きなうねりがくるよ!」
ナレッジの送ってくる光景では、湖の奥からは今の倍以上の大きなうねりが起こって、こちらへと向かってきている。
「何焦ってるの。まだまだ、これからが本番じゃないの。面白いものを見せたげるわよ!」
そう言うとタダノカマセイレは、湖へと走り出して凍りついたスライムに両手を触れる。
「ヴヴヴヴヴヴアアアァァァーーーッン!」
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