第283話.存在する為の役割

 影の中から大量に取り出されたポーションがドンドンと積み上げれてゆく。その光景に、案内人の蟲人族だけでなく俺の顔色も変わる。


 ブロッサが仲間になった時から、薬草や毒草を収集しているのは知っていた。しかし、予想を遥かに上回る数のポーションが出てくる。一瓶のポーションをつくるのにも、それなりに薬草は必要になるだろうし、もちろんブロッサの労力は計り知れない。


「大丈夫なのか?」


「そうね、これではキリがなイワ!」


 しかし、ブロッサはポーションを取り出す時間の方が惜しいのか、それとも面倒臭くなってきただけなのかもしれない。それにキリがないという事は、まだかなりの数のポーションがあることになる。


「ポーター」


 影に向かって手を翳して呪文を唱えると、勝手にポーションが浮かび上がってくる。


「おおおおっ」


 蟲人の案内人達からどよめきが起こる。流石に俺までが驚いてしまうのは良くないことだと思うが、毒の精霊であるそブロッサが便利魔法を使えるとは知らなかった。


「そんな魔法も使えたんだな」


「違うワヨ。ポーターが手伝ってくれてルノ」


「ポーターって、そんなヤツ居たか?」


「ゴブリンキングの王冠のことヨ、不眠不休で動いても大丈夫だから役に立ってルワ」


「ゴブリンキングの王冠を、そんな簡単に扱って大丈夫なのか?」


「コアと契約して、縛ってるから大丈夫ヨ。影の中で存在する為には、働かなければならナイ。コミットだって働いているのだカラ」


 コミットまでが自身の役割を持ち、仕事をしていると言われれば、意思があるゴブリンキングの王冠といえど例外ではないのかもしれない。しかし、コアと契約したという話は聞かされていない!


「コアと契約したって、どういうことなんだ?」


 王冠が契約出来る存在であるという事に驚かされるが、ブロッサもムーアも平然としている。


「精霊みたいな存在かもしれないってコアが言っていタワ」


「すみやせんでしたっ」


 急に蟲人達が大きな声を出すと平伏してくる。大量のポーションが影から勝手に出てくる光景を目の当たりにし、断片的に俺とブロッサの会話が聞こえてしまっている。


 契約した者は、存在を確立する為には不眠不休で働かなければならない!


 そう解釈した蟲人達は、これから起こるであろう最悪の未来を回避し、より良い労働条件を勝ち取る必要がる。しかし今蟲人が出来ることは少ない。


『あなた達、そんなことしてる暇があるなら仕事しなさい!私達を呼び出したんだから、その意味は分かってるんでしょ!今さら覚悟が出来てませんとは言わせないわよ』


「姐さん、お手柔らかにお願いしたいっすけど···」


『チェン、あなたも一緒よ。私達のポーションを、ほとんど使い果たすのよ。ほとんどね!』


 ニヤッと笑うムーアの顔をみて、チェンの顔も青ざめる。


『僅かに残るポーションは、あなた達のものよ。4日間不眠不休で働けるだけの量はあるわ』


「ムーア、早くポーションを与えないと、助かる命も助からなくなるワヨ」


 魔毒を中和しても、スライムは倒すことは出来ない。そしてスライムは少しずつ蟲人の魔力を糧に成長し、宿主を喰らい尽くしてしまう。今出来ることは、ポーションで衰弱している体を一時的に回復させて、少しでも長くはスライムに耐えられるようにしてやるしかない。


『ここにいる蟲人達にポーションを与え続けるのは、あなた達の役目よ!助けたければ、休んでいる暇はないわよ。本当にあなた達が命を助けたいと願うのであれば、自らその可能性を高めてみなさい!』


 ムーアの言葉で蟲人達の顔色も顔つきも変わり、慌ててポーションの山に駆け寄る。


 そしてムーアはチェンに向き直ると、チェンは思わず一歩後退りしてしまう。ムーアの視線は、今までにない程に厳しくて鋭い。


『チェン、次はあなたの番ね♪』


「ねっ、姐さん、何すか急に···」


『あなたの役割は、何なのかしら?』


「ねっ、イヤ、カショウの旦那の従者でさっ。あっしの存在は、旦那の為にあるはずっすよ。えっ、もしかして、あっしも不眠不休でポーションを?」


『何バカ言ってるの。そんなこと言ってるようじゃ落第点よ!それに忘れてるようだけど、あなたは立派なフタガの領主様でしょ。あなたの行動は、領民すべてに影響を与えるのよ』


「でも、領民なんて誰も···」

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