第249話.妨害

『そうね、狙うのは勿論···』


 そこでムーアは言葉を切り、俺を見つめてくる。


「勿論、あそこで固まっているキングの魔石を狙う!」


 覚悟を決めると、イロイロな事が見えてくる。リスクの高い魔法吸収スキルと聴覚スキルを避けようとして、重要な事を見落としていた事に気付く。

 ヒケンの森からクオカの洞穴に至るまで、常に銀髪のライが関係してきている。そのどれもが必ず魔物に力を与え、アシスに住む種族にとっての脅威となる存在を作り出している。それが、このオヤで例外だといえるのだろうか?


 もしかすると、オークもハーフリング族もこうなる事も計算していたような気さえする。


 そして、黒い靄から感じられる負の感情。絶えることのない怒りや苦しみが繰り返され、終ることのない負のスパイラル。しかし、捕らえられたオークの怒りや哀しみは全てがハーフリング族に対して向けられているのではない。

 精霊樹に執着をみせるキングだが、全てのオーク達が一緒というわけでなく、エルフ族に襲われても力を貸してさえくれない精霊樹は、末端のオークにとって何の意味があるだろうか。


 キングに対して向けられる負の感情。もう崩壊した関係性は修復出来ないと、キングも分かっている!


 もう一度マジックソードを握り直し、感触を確かめる。俺のやるべきことは、キングの魔石を壊すこと。ロードを抜き去る為の一歩を踏み出すと、それに純白の翼もラガートの黒翼も上手く連動してくれる。そこには精霊と魔物の違いは関係なく、お互いのことを理解しているからこその動きをしている。


 そして、俺がキングに狙いを変えたことはロードも直ぐに気付き、ソースイとミュラー相手に黒槍を振るっていた攻撃を止め、俺の行く手を塞ごうと動き出す。


『さあ、私たちはロードに嫌がらせを始めるわよ♪』


 今度はそれを阻止しようと、ムーア達がロードの邪魔を始める。ロードを倒す必要はなく、俺がキングの魔石を破壊するまでの時間稼ぎをするだけでイイ。そう考えれば、こっちに優位な点も多い。


 一斉に放たれるのは魔法は、攻撃魔法だけではない。ムーア·ホーソン·ガーラの3人が、ロードの移動を妨害するようにアースウォールをつくり始める。

 ロードは自慢の黒槍で壁を破壊しようとするが、ウィプス達が放ったサンダーストームは、ロードの吸収スキルだけで防ぐことは出来ない。

 サンダーストームを無視して黒槍で壁を破壊すれば最短距離で追いかける事が出来るが、サンダーストームを浴びれば動きが鈍くなってしまう。

 黒槍のスキル使ってサンダーストームを防げば、壁を回避しなければならず、最短距離で追いかけることが出来ない。


 そしてロードは、黒槍のスキルでサンダーストームを吸収する方を選ぶ。黒槍の魔法吸収は、穂先からだけで柄からは吸収出来ない為、槍を回さなければ広範囲魔法を吸収することが出来ない。


『残念ね、あなたも自分の身が1番大切なのね。その選択は失敗よ』


 今度は、アースウォールが槍の回転を邪魔するようにつくられる。槍の回転が鈍れば、サンダーストームを全て防げない。オークの回復スキルでダメージは残らないが、サンダーストームでさらにロードの動きが鈍る負の連鎖。


 そこでロードは、自身の選択の間違いに気付くが、もう時すでに遅し。完全に、顔からは余裕の笑みが消えてしまっている。


『ソースイ、任せたわよ』


 防戦一方だったソースイは、追いかけて来れなかったのではない。ロードとの距離が開く事を待っていた。ゆっくりと黒剣を天にかざす。


「召喚、ハンソ!」


 そして黒剣でロードの方を指し示すと、ハンソが現れる。加速しながら現れたハンソは、ストームキャノンよりも遥かに大きな岩の塊。


 ロードは、慌てて黒槍に吸収していた靄を放出し、向かってくるハソンに備える。しかし靄とハンソがぶつかる事はなく、ロードの槍はハンソに届く事もない。ソースイが狙ったのはロードではなく、その少し手前の地面で、ハンソは靄を躱して地面に衝突する。

 ハンソの衝突自体が、地面にクレーターをつくる程に威力がある。しかし沢山の亀裂が入り、黒い靄を大量に流されて崩壊寸前だった地面は、その衝撃に耐えきれずに大きく沈んでしまう。


 ロードが見せる唖然とした表情。全くの想定外の出来事に、ロードは何も出来ないまま崩壊する地面へと飲み込まれてしまう。

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