第248話.いつものパターン

 ロードは好戦的で積極的に近付き攻撃を仕掛けてくる。黒槍に吸収している魔法は放つことなく、一直線に俺へと向かってくる。


 今までであれば、攻撃魔法で簡単に近付くことが出来ないのだが、ロードも黒槍も魔法を吸収してしまう。ましてや黒槍の魔法吸収スキルは、そのままロードの攻撃魔法へと変わってしまうのだから、これまでのように自由に魔法は使えない。


 ウィプス達もそれを分かっているので、ロードの勢いを止める為の足元を狙った攻撃をしている。しかし、それでも前に付き出した黒槍に吸い込まれてしまう。


『あれなら風魔法、火魔法、水魔法は通用しなさそうね』


「ああ、分かってるよ」


 気体や液体のように形を変えやすい魔法は、吸収されてしまう。それならば、残る選択肢は一つしかない。ロードの頭よりも大きな岩ならば、物理的に吸い込むことは出来ない。それは守護者のロードでも経験している。


「ストーンキャノン」


 しかし、ロードは槍を前に突き出し、勢いを落とすことなく突っ込んでくる。そして黒槍からは、黒い靄が放たれる。オークの頭よりも大きかった岩はみるみる内に小さくなり、数個の小石にまで形を変えてしまうと、ロードはその小石を無視して体ではね除ける。


 魔法の弾幕を抜けられると、今度はダークの紫紺の刀がロードを迎え撃つ。しかしオークの重量や黒槍の長さを十分に活かした打撃を受け止めるには、紫紺の刀は軽すぎる。ロードの勢いを僅かに殺しただけで、紫紺の刀は簡単に払い除けらてしまう。


 2本の紫紺の刀で無理ならば、1本のマジックソードでは黒槍を受け止めることが出来ない。そう判断したナルキはダミアの実を飛ばすが、ロードは避けるつもりも防ぐつもりもなく、変わらずに最短距離で突進してくる。

 ダミアの実が皮膚を突き破り、体に深くめり込む。確実にダメージを与えるが、回復スキルで傷口は一瞬で塞がってしまう。


 再度ロードは大きく黒槍を振るう。マジックシールドをロードの体にぶつけ、ミュラーの盾で黒槍を受ける。


 ガキイイィーーーーン


 甲高い音が響き、そして俺は吹き飛ばされてしまう。


『大丈夫?』


 ムーアがアースウォールで壁をつくりながら、俺の顔を覗き込んでくる。


 確かにミュラーの盾は黒槍を受け止めた。しかし黒槍を受け止めた瞬間に、穂先からサンダーボルトが放たれ、俺の顔面を直撃する。不意を突かれた攻撃ではあったが、何とか魔法吸収が発動し大半は吸収する事は出来た。


「ああ、何とかな。咄嗟に魔法吸収が発動してくれたから、ダメージはほとんどない」


『大分スキルの性能が上がっているんじゃないの?やっぱり、スキルを強化しておいて正解だったわね。あって困るスキルじゃないわよ』


「いや、俺の成長が著しいに決まってるだろ!」


 その間にも、俺を援護しにきたホーソンやチェンが次々とロードに吹き飛ばされてくる。魔法を吸収し、回復スキル任せで強引に突破してくるロードに、俺達の戦い方のパターンは完全に崩されている。


『次は、どうするの?』


 近接と遠隔での役割分担が、俺達の戦いの基本でもあり、これまでの戦い方になる。常にそのパターンが当てはまるようにしてきたが、それしか経験していないという脆さが如実に表れてしまう。


 精霊樹の杖を手に入れてからは、俺の戦い方は魔法による遠距離攻撃が中心になっている。唯一のスキルが無属性魔法で、消費しきれない魔力を秘めた体なのだから、戦い方が魔法よりになってしまうのは仕方がない。

 それに魔法と武器の両方を扱える程、才能や器用さは持ち合わせていない。どちらかといえば不得意だという自覚もある。


 もちろん適材適所で、近接戦闘が得意なダークやナルキがいる。俺がでしゃばれば逆に足を引っ張ることになるし、口を出すよりお任せ状態にした方が能力を最大限に発揮してくれる。


「いつものパターンか···」


 “ダメなら魔石を狙う”と言った、ムーアの言葉が耳に痛い。そして吹き飛ばされた、ホーソンとチェンの顔が目に入る。そして、ソースイはロードの攻撃を必死に受け止めている。


 今のままでは、オリジナルのキングと一緒じゃないか。幾つもの選択肢がありつつも、その可能性を自ら潰している。それに、いつから俺は上位者になったんだ?まだ、アシスに来たばかりの見習い冒険者のくせに、少し力を付けたからといって思い上がりも甚だしい。


『覚悟は決まったかしら?』


「いつものパターンだな!」


『そうね、狙うのは勿論···』

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