第237話.守護者の倒し方②

 オークロードについては課題は残るものの倒せそうな気がする。ロードからは魔法吸収スキルを吸収した事でスキルの性能が分かり、ウィプス達が時間をかけて戦ってくれたお陰で身体能力も把握出来ている。


『キングの方はどうするの?未知の部分が多いわよ』


 ムーアが、そう言ってくる意味はよく分かる。ロードに比べると、キングの能力やスキルは見えない部分が多い。キングから吸収したのは、古の滅びた記憶と聴覚スキルだけでしかなく、魔石を破壊出来たからといって全て能力を吸収はしていない。

 今までのゴブリンやハーピーも同じで、キングを倒した後に吸収したスキルは五感のスキルでしかなく、スキルの吸収にも何らかの制限があるのかもしれない。


「そこまで心配しなくても、キングがどんな戦い方をしたかは分かっているから大丈夫じゃないかな」


『いつもはああでもないこうでもないって拘るのに、今回は珍しく楽観的ね』


「コピーだからスキルの使い方も一緒だろうし、同じ状況になれば同じことを繰り返し再現してくる安心感だろうな」


 今回の作戦で違いが出るのは、先制攻撃でロードを倒しに行く事。流石に魔石を破壊するのだから、その傷までも身代わりになる事はないと思う。


『それでも、キングがどれだけ体内に魔法を蓄積しているかという事は分からないわよ』


 体に蓄積された魔法は、守護者がどんな相手と戦ってきたかが影響される。幾ら同じコピーであっても、そこには大きな差が出来てしまう。


「そうだけど一番手強い守護者が北側のオークじゃないのか?」


『どうして、そう言えるの?』


「だってそうだろ。北東と東側に居る守護者は、街道を通ってオヤの草原へとやってくる侵入者と戦ってるんだろ。じゃあ街道から離れた北側のオークは、誰と戦ってるんだ?」


『コア、ちょっとイイかしら?』


「ムーア様、何でしょうか?」


 すると影の中から、ネコ耳メイド服姿のコアが現れる。手には違う色のメイド服を持っている。


「あっ、これはまだ内緒です」


 慌てて影の中にメイド服を隠すが、恐らくはサイズ的にクオンぽい気がするし、聴覚スキルもクオンだと断定している。

 俺の影の中は、縫製工場から薬品工場までと幅広い使われ方をして、影の中の環境がどうなっているのかを見ることは出来ない。それが心配材料ではあるが、聴覚スキルからは何故か不快な感情は感じ取れない。


『コア、私に様は付けなくてイイのよ』


「大丈夫です。それではせっかくの、戦闘服が台無しになってしまいます」


『···それならイイわ。コアにエルフ族の事で教えて欲しい事があるの。大丈夫かしら?』


 コアはカショウと契約関係になり共に行動しているものの、クオカのエルフ族の元族長になる。クオカの街から逃げ出した事は、爺エルフの陰謀か逃れる為のやむを得ない行動であったとしても、クオカのエルフ族自体が不幸になることは望んでいない。

 そしてコアの知っている情報には、漏らせばエルフ族が不利益になる情報もあるだろうし、中には秘匿されなければならない事ある。些細な事だと思っても、重要な意味が隠されているかもしれない。

 だからコアからエルフ族の事を聞く時には、それなりに慎重になってしまう。


「何ですか、ムーア様。何でもお聞き下さい」


『答えにくい事なら、無理はしなくてイイのよ。エルフ族は、オヤの草原のオークを定期的に確認しているのよね?』


「そうです。精霊樹の異変がなければ、クオカのエルフ族にとって最大の驚異はオークになりますから」


『定期的にって、どれくらいの頻度で確認していたのかしら?』


「毎年確認しています。オークだけじゃなくて、ラーキの状態も気になります。爺が部隊を率いていくのは4年に1度でしたが、何か問題がありましたか」


『もちろん、南の森を抜けて行くのよね?』


「そうですね、ハーフリング族以外には知られないようにしてましたから、そうなると思います」


『分かったわ、そういう事ね。北側の守護者が相手にしてきたのはエルフ族なのね!何でそれが分かったの?コアに聞いてたわけじゃないでしょ?』


「キングの放出した魔法が、風魔法に偏り過ぎてるからだよ。イッショが無効化した魔法も、ほとんどが風魔法だったしな。それなら戦っていた相手はエルフ族しかいないだろう!」


『数年に1度しか侵入者が来ない北東や東側の守護者と、毎年エルフ族が偵察に来る北側の守護者じゃ蓄積している魔法の量も違うというわけね』


「まあ、北側の守護者を超えることはないだろう!」

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