第228話.新たな影

 ムーアの遠慮を知らない、好奇心を満たすための検証が終わった。お陰でメリットもデメリットも良く分かった。


 魔法吸収スキルは、その名の通りに魔法を体内に蓄積する。しかし、赤いオークのように魔法吸収し、傷ついた体を回復する事は出来ない。あくまでも回復スキルとは別物であるようだ。


 魔法吸収スキルでは、今のところ火·水·風·地·雷·毒·光と、吸収出来そうな魔法は全て吸収する事が出来る。俺の使えないスキルであっても関係なく吸収してしまう。

 しかし、吸収する魔法には限度がある。下位魔法までなら吸収出来るが、中位魔法になると全てを吸収しきる事は出来ない。下位魔法がコップ一杯分の水をだとするならば、中位魔法はバケツ一杯分の水といった感じで、飲みきれないという感覚がある。


 そして、地獄だったのは迫ってくる魔法を口で受ける事。吸収出来なければ、その分の魔法を顔面で受けるしかない。そして、何故か精霊達のやる気は凄かった···。


『それで、魔法吸収は使えそうなの?』


「やるだけやって、それはないんじゃないか?」


『そう、中途半端じゃ分からない場合もあるから、念には念を入れたのよ』


「今のところ魔法吸収自体は、戦闘には使えないだろうな。恐らく魔物の魔法を吸収すれば、とてつもない拒絶反応が出ると思うぞ」


『どうして分かるの?』


 精霊達とチェンやホーソンの魔法吸収した場合には、明らかに違いがある。それは、異物を体内に入れる事への拒絶反応に違いない。精霊は俺の魔力を源にしているから、魔法を体内に取り込んでも拒絶反応は起きない。しかし、チェンやホーソンの放つ魔法であれば少しピリピリしたような感じが残る。それでもチェンやホーソンは俺と契約関係にあり、俺の魔力の影響を受けているので比較的に拒絶反応は小さいのだろう。


「全く関係のない、ましてや種族が違ったり魔物であったら、無事に済むと思うか?」


『そうね、拒絶反応は大きいかもしれないわ。でも、あなたの我慢次第じゃないの?』


「もしかしたら、青いオークのように全身傷だらけなるかもしれない。そうなれば、俺と融合している精霊に負荷がかかる。それではダメだろう」


『魔法吸収なんて、使えそうなのスキルっぽかったのに残念ね』


「だから使い道は限定的だな。精霊達の魔法なら俺の体の中にストック出来るし、それならば戦闘中でも問題なく使える」


『あなた自身が、マジックアイテムになるのね』


「まあ、そんな感じだな。でも精霊を召喚出来る者なら、面白いスキルになるかもしれない」


 精霊樹の杖に魔力を流し、ウォーターボールを顕在化する。そして、反対の左手にはブロッサムのポイズンボムを纏わせてみせる。

 魔力を流して一から魔法を発動させるよりも、体に吸収した魔法の方が発動させやすい。それに精霊樹の杖で行使できるのは火·水·風·地の四属性のみだが、体に吸収した魔法ならば四属性以外の魔法も行使出来る。


『クックックッ、やっぱりあなたと居ると飽きないわね』



 急に湿原から押し寄せる異臭が強くなる。しかし、風は吹いていない。それなのに、俺達を包み込むように、今までにない異臭が厚く覆い被さってくる。


“居る、近づいてくる”


 そして、クオンが気配を感じとる。湿原の奥には赤い人影が見える。手には槍を持ち、その姿はオークにしか見えない。


「異臭の原因は、青いオークだと思いたかったけど違ったみたいだな」


『異臭を吸い込みさえすれば、ブレスを放つことは出来るものね』


“まだ、居る”


 赤いオークだけでなく、その奥には青いオークの姿も見えてくる。階層構造なら上位種であればあるほど数が少なくなるはず。それにキングが2人いる事はあり得ない。

 そして、この草原はラーキによって外部から隔離された場所になり、新しく外部から別のオークの群れが侵入してくるとは考え難い。


「キングが2人も居るのか···」


『ロードなら分かるけど、キングは考えれないわね』


「でも特徴は、似てるというより一緒だぞ!しかも、赤いオークは槍を持っている。俺達が倒した方よりも、より上位種っぽく見える」


『でも、聴覚スキルは吸収したんでしょ』


「まだ性能こそ微妙だが、確かに聴覚スキルで間違いない。それは、断言出来るよ」


 そして、ムーアが1つの結論を導き出す。


『きっと、あれが本体ね!』

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