第227話.魔法吸収

 ウォーターボールが強制的に体へと流れ込む。呼吸出来ないなら、もう飲み込むしかない。傷が出来るのであれば、俺と融合した精霊が勝手に回復させてくれる。そう思うと、スキルの検証にウォーターボールを選んだのは失敗だった。


 ただの拷問にしかなっていない。そんな思いがよぎるも、もう開き直って押し寄せてくるウォーターボールの波を飲み込む。


 徐々に押し寄せる水の量が減り、視界も開けてくる。やっとムーアも諦めてくれたのかもしれない。


『成功したわね♪』


「どこが成功なんだ。ただの拷問でしかないぞ。水魔法は絶対にダメだ!」


『あら、分かってないようね。水魔法を吸収してたわよ。何か体に変化はないの?』


「久しぶりに水を飲んだよ。アシスに来てから、食事どころか水も飲んでなかったからな」


『それだけ?他に感想はないの?』


「そう言われても、特にないな」


 再びムーアがウォーターボールを顕在化してみせる。


『これだけのウォーターボールを飲み込んで、何も変化が無い方が変よ!』


 そう言われてみると、大量の水を飲み込んだ割には体は何も変わっていない。普通なら満腹感があるか、吐き出すほどに気持ち悪くなるだろう。それなのに、体には何の変化も感じられない。


「カショウ様、体の中に魔法が流れています」


 そして、俺の体の変化にマトリが気付く。影の中ではあるが、常に俺の体に触れて魔力を感じ取っているからこそ、体の変化が分かる。


「どういう事だ、マトリ?」


 しかし、本人である俺はその変化に全く気付けていない。


「カショウ様、左手を出して下さい」


「ああ、分かったよ」


 マトリに言われるがままに、精霊樹の杖を持っていない左手を出して、手のひらを上に向ける。


「ウォーターボール」


 マトリが呪文を唱えると、手のひらサイズの水球が飛び出してくる。


『おもしろいわね。どうやったの···マトリ?』


 ムーアは、俺の顔を見ながらもマトリに話しを振る。最初はまだ幼い精霊としてしか見ていなかったが、マトリの魔力や魔法を扱うセンスはかなり高い。もしかすると俺達の中でも、1番の才能かもしれない。


「はい、ムーアさん。カショウ様が魔法を吸収するのは間違いありません。空気を吸い込むように魔力を取り込むとするなら、食事を摂るように魔法を体内に取り込みます」


 マトリの説明に納得してしまう。魔力が酸素であるならば、魔法はエネルギーそのもの。それならば、全く扱い方は変わるが、そのどちらも俺の体内を巡っているのは変わらない。


『体に取り込んだ魔法は、簡単に行使出来るのかしら?』


「そうですね、魔力とは別に魔法が流れています。それを1ヶ所に集めてやれば、再び魔法とて顕在化する事が出来ます。魔力を流して魔法を発動させるよりは、体に蓄積した魔法を発動させる方が早いですね。だけど蓄積した魔法の効果を変える事は出来ません」


「ムーア、そういう事だ!魔力と魔法の根本的な違いだな」


『そうなのね。それじゃあ、魔法を体内に取り込んでも体の方は大丈夫なの、マトリ?』


 しかし、ムーアは俺の言葉を聞き流して、マトリに質問を繰り返す。


「そうですね、全てが大丈夫ではない気がします。少しだけピリピリとした刺激のある魔法が混ざってます」


『それって、私とチェンの魔法の違いかもしれないわね。試してみれば分かるかしら?』


「そうですね、原理が分かったと思うので、次はもっと解析できると思います」


『じゃあ、カショウ行くわよ!』


 ムーアが再びウォーターボールを顕在化する。今度は、さらに一回り以上も大きい。


「ちょっと待ってくれ。さっきより大きくなってないか?」


『大きい方が検証しやすいでしょ。それとも何かしら?マトリの言うことには素直に聞いてるれるのに、私はダメだって言うの?』


「そんな事はないだろ。皆一緒だって!」


『それじゃあ、遠慮なく行くわよ!』


 そして、再び繰り返される拷問。魔法吸収といっても、完全に全てを吸収出来る訳じゃなく、吸収出来ないものは驚異でしかない。

 そして、ピリピリとした刺激のある魔法の原因は、チェン放った魔法にあった。精霊は俺の魔力を元にして魔法を行使するから、体内に取り込んでも問題はない。しかし、チェンの場合は違う。体に取り込んだチェンの魔法はピリピリとした刺激がする。


『さあ、次の検証に行くわよ♪』

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