オヤの街のハーフリングとオーク
第203話.南へと導かれて
「良かった。雨が降っている」
オネアミスの毒が高熱を発して燃え上がると、それが徐々に周囲の木々に燃え広がっていた。しかし、突如降りだしたスコールのような雨が、森の延焼を食い止めてくれている。燃えたのもレーシーに侵食され枯れるしかない木々だけで、被害も最小限で食い止める事ができそうだ。
『そうね、これなら大丈夫。早く森を抜けましょう』
「もう、オネアミスの毒はナイワ」
「だけど移動するのは、もう少し火を消し止めてからだぞ。このまま放置していったら、俺はアシスに破壊を巻き起こす危険人物にしかならない」
『チェン、水魔法が使えるなら手伝いなさい!』
「姐さん、もうやってますって!これ以上は、魔力が持たないっすよ」
「大丈夫、これを飲めば魔力切れにはならナイワ」
そこに、ブロッサがマジックポーションを大量に出してくる。
「えっ、でもこんな大量には飲めないっすよ!」
『それは、飲めなくなってから言いなさい!限界を自分で決めてはダメよ。あなたの限界は、私が見極めてあげるわ』
「戻すなら、ここにしテネ。貴重なんだから、また使うワヨ」
そしてブロッサが持ってきた坪には、チェンと名前がかかれている。
「ブロッサさん。これ、どうするんすか?」
「また、あなたが飲むノヨ。サステナブルヨ」
しかしカショウ達の影の中で、コアピタンスが小声で呟いたのを誰も知らない。
「ミツハ」
呟くと同時に、空が曇り雨が降り始める。黒光りする虫の驚異と混乱の中では、小声でなくても気付かれなかったかもしれない。しかし影の中にあっても精霊を召喚出来るだけの力があり、召喚された精霊は天候を変えてしまうだけの力を持っている。
コアピタンスは黒光りする虫には耐性があるわけではなく、引きつった顔をしている。
だが、この森を治めるエルフ族であり、森に愛着がある種族だからこそ為せる技なのかもしれない。
そして煙も収まると、まだ黒光りする虫がいるかもしれない森の中に、これ以上留まるわけにはいかない。最短で森を抜ける為に南へと向かう事になる。計画や目標なんて関係ない!ただ、最短でこの森を脱出する為の行動になる。
それと同時に、影の中も落ち着きを取り戻し
、ムーアやブロッサ、ガーラも影の中に潜って出てこなくなる。シナジーも最小限にしか現れず明らかに黒光りする虫を恐れている。不用意に触れてしまっても、その体を記憶してしまう。より鮮明に記憶でなく記録されてしまう事への恐怖は大きい。
だから今は、俺とソースイ、ホーソン、チェンの4人だけで、この森の中を抜けなければならない。それだけに精霊の縄張りを抜ける事を心配は大きかったが、今のところ縄張りの主となる精霊の気配は感じられない。
レーシーという寄生する魔物が現れた事の影響は大きいのだろうが、ムーア達を見ていると黒光りする虫の影響の方が大きいように感じる。
そして一番痛感させられるのは、何だかんだでムーアだったりブロッサが話し相手になっていた事がありがたさ。その2人がいなければ、むさ苦しい男の集団になってしまう。
「チェン、このまま南に進むとどこに行くんだ?いや、違うな。チェン様、このまま南に進むと、どこに行くんでしょうか?」
「急に何なんすか?気持ち悪いっすよ!」
「コアにも正しい序列を覚えてもらわなければならない。まずは普段の言葉遣いから変えていこうと思ってな」
「旦那っ、勘弁して下さいって。恐すぎますって。こんな所で仕返しなんて、あっしが悪かったっすよ」
「それなら、次からは絶対にやるなよ!」
険しいや起伏のある山々が視界を遮るが、森を進むに連れて徐々に上へと登っている事は分かる。
チェンの話では、このまま南に進み森を抜ければ、この森のような高い樹木は存在しない草原地帯が広がっているらしい。異世界ではあるが、森林限界や高山草原になるのだろうか。
そして、その草原地帯にはオークが生息している。地下には、姿を隠すようにしてハーフリングが暮らしている街がある。しかし地上には街はなく、地下の空間にオヤの街がつくられている。体の小さなハーフリングがつくる街で、必然と中に入れる者も限られる。中がどれくらいの規模なのか、どれくらいのハーフリングが居るのかも分かっていない。
「オークがいる厳しい環境で、草原地帯に住む必要があるのか?」
「違いやすよ。ハーフリングがオークの事をカモにしてるんすよ!」
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