第201話.呪われた森

 1つまた1つと光が消える度に、レーシーの体は痩せ細ってゆく。それは融合された精霊達が核を残して存在は消滅してしまうからで、そこまでしなければレーシーから解放される事はない。そこまでに繋がりは強固で、一度融合されてしまえば逃げる術はない。


 そして、痩せ細った蔦から触覚のようものや殻のようなものが見えてくる。トレント達が消滅した事で、他の融合された者達の存在が表に出始めている。自分の存在より大きなものだけでなく、小さなものからも手当たり次第に吸収し融合し続けた結果なのだろう。


 そして残っている赤く光る目の存在がレーシーの本体になる。隠そうとするが、さらに細くなった蔦では隠すことが出来ない。おまけに蔦は根のように変形して、吸収出来るものを探して動き始める。そうすれば余計に赤い目が露となってしまう。


「ここまで力を失うと、知能もあったもんじゃないな」


『そうね、奪った者の知性がなければ、これがレーシー本来の姿ということなのね』


 頭で分かっていても、体が条件反射で吸収するべきものを探して動いてしまう本能。もう狡猾に策を練り駆け引きをする事も出来ないだろう。こうやって貪欲に吸収と融合を繰り返しても、存在がなくなれば学習し記憶する事なくリセットされていまう。


 見えないように隠そうとして、隠せていない赤い目。これがレーシーの魔石になるのは、聞かなくても分かる。


「カショウ、足元!」


「ああ、分かってるよ!」


 イッショの警告する声に応じて、マジックソードを地面に突き立てると、地面の中からはレーシーから出た根が地中を通って伸びてきている。

 その根はマジックソードで切断されても動き続けて、ましてやマジックソードに絡み付き始める。


「手当たり次第だな。生物かどうかなんて関係ない」


『触れたもの、触れてきたもの全てに絡み付くんでしょうね』


「無属性でもお構い無しだし、吸収するものが無い事も分かってないな」


『放っておいたら、永遠に絡み付いているわよ』


「そこまでは付き合ってやる暇はないし、先にトレントの核を回収しよう」


 クレーターの縁からウネウネと動くレーシーを眺め、完全にトレントの存在が消滅した事を確認する。万が一もあるので、レーシーには安易に近付く事は出来ない。俺達がいなければ、ヘカトンケイルを吸収するまでに成長した危険な存在である事に変わりない。


「全てが揃って1つの存在。改めて名を付ける。名はナルキ、是とするならば契約に応じろ!」


 消滅したあまりにも小さい存在だけに、目に見えた変化は起こらない。しかし、ナルキの存在は力強さを増して、欠けていたものが戻った事を教えてくれる。

 本当の完全体となった姿を見るにはどれだけの時間が必要になるかは分からないが、ナルキにとって欠けていたものが揃うという事に意味があるのだろう。


 そして、マジックソード操作してレーシーの上へと突き立てる。細く弱々しい蔦は簡単に切断され、マジックソードは地面へと突き刺さる。


 樹液のようなものが滲み出してくるが、それと同時に何か音が聞こえる。


 カサカサッ、カサカサッ、カサカサッ


 レーシーの体は何の変化もないが、ただただ不穏な音が聞こえてくる。


「「『ギヤャーーーーッ』」」


 ブロッサとムーア、ガーラの叫び声が響く!


 マジックソードの突き立った場所からは、大量の黒光する虫がカサカサと溢れだしてくる。どこに潜んでいたのかは分からないが、クレーターの中を埋め付くしレーシーの姿を隠してしまう。


 そして混乱は、ブレスレットも影の中も同じで、阿鼻叫喚の大騒ぎとなっている。入ってこれないとは分かっていても、強い拒否反応を示している。

 だから、避難しようとしたムーアとブロッサは、中に入る事が出来ないで慌てふためき混乱がさらに増す。


『「「カショウーーッ!何とかして~」」』


「大丈夫だから、落ち着けって!」


 精霊樹の杖を構えて魔力を流して風を纏うと、それをガーラが止めてくる。


「風魔法は絶対にダメ。周りに飛び散るから!」


『そうね、森の中だけど跡形もなく燃やすしかないわ』


「えっ、いいのか?森の中だぞ?」


『仕方ないわ、これは緊急事態。この森が呪われるかどうかの一大事よ!』


 ムーアに急かされて、クレーターにファイヤーボールを放つが、その瞬間黒光りする虫達が一斉に飛び立つ。


「「『ギヤャーーーーッ』」」

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