第199話.個と集団
自信のあった攻撃が完全に防がれた事で、レーシーの動揺は隠しきれない。
「これ以外のスキルはないし、これ以上の事は出来ないよ。だって元はボクの身体のなんだからね」
レーシーは、魔力やスキルの扱いに長けている。だから、寄生して取り込んだヘカトンケイルの能力やスキルを十二分に扱う事は出来るが、下位魔法が中位魔法へとランクアップするわけではない。
そして今のナルキの腕は、蔓で作られた翼のような格好となり所々にダミアの実を付けている。攻守ともに可能な形態をとっているだけでなく、レーシーにこちらが上位であると見せつけている。
「そうか、お前のせいか?何か秘密があるんだな!素直に教えれば、消滅させないでやる」
「消滅させなくても、もう一度寄生して乗っ取るつもりでしょ。寄生されるくらいなら、消滅した方がマシだね」
「じゃあ、コイツらがどうなってもイイのか?同じ身体だった、元の仲間達なんだろ!」
「ボクが消滅した方がマシだって思うなら、他の仲間達も皆同じだよ。それじゃなきゃ、1つの身体になる事は出来ない」
「じゃあ、こうなっても大丈夫なんだな!」
そう言うと、切れかけていた腕の1本を捩じ切って、これ見よがしに見せつけてくる。
「さあ、どうする?お前の仲間が苦しんでいるぞ!」
ナルキが翼のようになった両腕を振り抜き、レーシーにダミアの実を投げつける。レーシーもそれに反応して、蔦を張り巡らせて障壁を作り出す。
パパパッ、パパパッ、パパパパンッ
レーシーの蔦の障壁は、ダミアの実を受け止めたように見えた。しかし、そこに遅れて飛んできたダミアの実がぶつかる。衝撃を受けたダミアの実は爆竹のような音を鳴らして弾け飛び、弾けた欠片がさらに他のダミアの実を破裂させる。
そして弾けた細かい破片は、蔦の障壁の小さな隙間を抜けてレーシーへと襲いかかる。
全身を破片に襲われて、身体からオレンジ色の樹液のようなものを流したレーシーが立ち尽くしている。
「どうなっても知らんぞ!」
「赤い目になった時点で元の精霊の姿に戻る事は出来ない。救う為には消滅して、ゼロから再生するしかない!」
「という事だそうだ。それで、次はどうする?借り物のスキルじゃなくて、自分のスキルで勝負するのか?」
今度はレーシーがうつ伏せとなって腕を上に向けると魔力を流し始める。防御は一切お構い無しで、一斉攻撃をするつもりだろう。
沢山の腕にそれぞれに魔力を流す。しかしそれだけでなく、それぞれに何をするかを指示しスキルの実行を命令をしなければならない。それなりに能力の高いレーシーだからこそ、この数の腕を操る事が出来る芸当であり、俺には絶対に真似出来ない。
しかし、今回は負ける気がしない。レーシーと宿主、俺と精霊の関係性は大きく異なる。
レーシーに完全に支配されれば、命令は絶対であり逆らう事は出来ない。言い換えれば、命令がない限りは動くことはない指示待ち君の集まり。
そして、その中でもレーシーは効率良く成果を求める傾向にある。だから、魔力を流した順番にスキルも発動させる。決して魔力を込めた後に放置はしない、それが効率を求めるレーシーの絶対でもあり癖でもある。
そして常に1人で判断する者は、それに気付く事は出来ないだろう。
しかし、俺と精霊達の関係性は大きく異なる。個の役割の中で判断し自由に動く事を是とした俺達は、複数の判断を並行して行い実行出来る。多少重複し効率が悪くなる時もあるが、それは集団の中では必ず発生する。その事を否定してしまえば、集団の力は十分に発揮出来ない。
ヘカトンケイルを宿主としたがレーシーとの相性は悪かった。そして集団で戦う俺達は、個で戦うレーシーより圧倒的に有利な状況にある。
「ウオォォォォーーーッ」
レーシーの叫び声が響く。スキルが発動出来たのは最初だけで、魔力を流した腕が次々と狙われてスキルを発動する間もなく破壊されてゆく。ナルキが遠慮なく攻撃するのだから、他の精霊達も手を抜くことはしない。
そして数が減れば、もう考える必要はない。攻撃が重複しようが効率が悪かろうが関係ない。勝負を一気に決める為に、一瞬たりとも隙は与えはしない。
そして止めは、ソースイが黒剣を天へと突き上げて大声で叫ぶ。
「召喚、ハンソ!」
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